マンガで(ひとまず)満たす「好きな小説家を応援したい欲」

こんにちは、Mk_Hayashiです。マンバ通信をお読みの方々であれば、好きなマンガ家さんのひとりやふたりいると思いますが、皆さんどのようにして作家さんを応援していますか?

アニメ化や実写化などのメディアミックスされていないマンガであっても今は色々とグッズが発売されていたりもするので、単行本などとあわせて購入し、「課金」という形で応援している人も多々いると思います。

自分はマンガと同じくらい小説も好きで、好きな小説家さんのことを応援したいと常々思っています。しかし小説というジャンルの場合、作品を買って読むことと、時たま開催される有料イベントに参加することくらいでしか「課金」という形での応援ができない(ことのほうが圧倒的に多い)。多作な小説家さんならまだしも、作品を発表するペースがゆっくりだったり、寡作な小説家さんにいたっては「課金」したくても(既に持っている作品を重複買いすることくらいしか)できなかったりする。

とはいえ決して「課金」だけが応援の形ではないし、SNSなどで作品のレビューを書いて応援するという方法もあるっちゃある。しかし発信力のある著名なライターさんならまだしも、自分のような末端ライターが書いたところで販売促進の効果はひたすら無に等しい。最近では「自分の稚拙なレビューなんぞ販売促進どころか販売妨害してしてないんじゃないか……」と疑心(というか自意識)が暴走するあまり、仕事以外の場で「この小説家さん(と作品)が好きです!」の声を積極的に出せない状態に陥っていたりもします(尚、ファンレターは「気持ち悪いファンがいる……」と小説家さんを不安にさせ、創作意欲を減退させる予感しかしないので書けない)。

そんな行き場をなくし、どんどん溜まっていく一方の「好きな小説家を応援したい欲」を満たすマンガなぞあるわけないと思っていたのですが、しっかりありました……日本のマンガ界、どんだけ懐が深いんだよ……。

というわけで今回は、自分のドロドロと腐敗すらしかけていた「好きな小説家を応援したい欲」を満たしてくれた、魚田南さんの『日々まめまめとむしやしない』(芳文社)をご紹介します。

『日々まめまめとむしやしない』魚田南/著(芳文社)

「好きな小説家を応援したい欲」を満たすマンガなので、言うまでもなく《小説家》と《小説家を応援したい人》が登場するわけですが、この《小説家》にあたるのが超B級ミステリー作家・春野まどか(ペンネーム)。そして《小説家を応援したい人》が、春野の担当編集者……ではなく、助手の伊藤克揮(通称、いと君)。

ただ、助手といっても大学に通いがてら独り身である春野の身の回りを世話するという、実質のところお世話係であり、春野の言葉を借りれば「限りなくストーカーまがい」の押しかけ女房ならぬ、押しかけ助手という曰く付きの若者。なぜ伊藤が「ストーカーまがい」と春野に言われるのかというと、ふたりの出会いに起因する。

そもそも伊藤が春野を応援したいと思うようになったきっかけは、春野がかつて一度だけ気まぐれで個人出版した食彩記を古書店で偶然見つけたこと。春野の食べ物の描写にすっかり魅了されたものの、彼がしばらく何も書いていないことを知った伊藤は、春野のことを調べ上げ、グルメ本の催促をしに「京都も市内 北の 山近く」にある自宅へと押しかける。しかも年の暮れの大晦日に。

(『日々まめまめとむしやしない』2話「出会い年越し豆乳めん」より)

しかし呼び鈴をならせど返事はなく、玄関の鍵もあいているので家に上がってみたところ、床には極度の空腹で倒れた春野が転がっている。料理が決して得意ではない伊藤だが、春野のことをどうにかしようと、かろうじてあった食材でくだんの食彩記にちなんだ料理を(勝手に)つくり、春野をなんとか正気に戻す。

正気を取り戻した春野に伊藤は「もう… 書かないんですか」と問いかけると、春野は自分が長らく創作に行き詰まっていること、そしてその原因が人嫌いにあり「人とかかわれない 俺にはそれ以上 書ける思い出がない」と絶筆宣言にすら思える言葉を返す。

(『日々まめまめとむしやしない』2話「出会い年越し豆乳めん」より)

普通のファンだったら、ここで「そうですか……」と心がボッキリと折れそうなものですが、伊藤はめげた素ぶりも見せず、なぜ自分が春野の文章に惹かれたかを率直に伝え「読ませてよ 俺に続き」「読みたい」と平然と言ってのける。さすがストーカーまがいの強火ファン、メンタル最強……。

そんな伊藤の言葉に心を動かされ「読者に感想もらったの… 初めてや…」「とんだプロポーズや」と涙を流す春野を見た伊藤は意を決し「バイト代は 出世払いでいいんで!」と助手を申し出て、ふたりの《小説家と助手》という関係性と、春野にやる気を出してもらうために慣れない料理に格闘する伊藤の日々がスタートする(春野には「え 金とんの ストーカーやのに」と言われながらも)。

“好き”という感情が暴走しがちな伊藤は、人としてちょっと(かなり?)問題があるようにも見えるが、春野だって負けていない。春野の人嫌い&引きこもりっぷりはかなり重度な上、伊藤が春野の家に行けない日は自分で部屋を片付けるなどといった約束事を一切守らない。

(『日々まめまめとむしやしない』1話「はじまりの薬味鍋」より)

おまけに普段は伊達眼鏡で隠れている美貌を武器に女性編集者をたらしこみ、ちゃっかり〆切を伸ばすなど、姑息な一面すら持っている。

(『日々まめまめとむしやしない』1話「はじまりの薬味鍋」より)

そんな春野に「人間的に詰んでる」「このクズ」などと伊藤は思うものの、ひとたび春野の原稿を読めば「やっぱり あんたの書く 食モノ… 最高だよ」となり、春野のことを何だかんだ許してしまう。もうこれは、惚れた弱みとしか言いようがない。

作品としては全12話で完結する短めのものですが、ふたりの食事を通して少しずつ春野の過去が明かされていき、なぜ彼が作家を志したかまでもが描かれる『日々まめまめとむしやしない』。ひとりの作家とひとりの若者の成長物語として楽しめるだけでなく、ここまで紹介した要素が思わぬ伏線になっていて、ミステリーのような趣も秘めている作品だったりもします。

でも個人的にツボだったのが、作中で描かれる春野と伊藤との距離感なんですね。ふたりの関係はあくまでも《小説家と助手》であり、決して《小説家と編集者》ではない。しかも《助手》といっても限りなくファンに近いポジションであり、作中でも伊藤は春野に求められない限り、原稿の内容について口出しをしない。

また食生活情報誌で始まった連載エッセイが好評なものの「何か違う…」「俺 ほんまに 食いもん 書きたいんかな…」と春野が心情を漏らせば、「俺は いつの間にか 先生に 無理をさせて いたのだろうか」とショックを受けて、「先生が本当に 書きたいものって 何だろう」と思い悩んだりもする。

(『日々まめまめとむしやしない』7話「車窓とサンドイッチ」より)

このファンでありながらも小説家の側で創作活動を応援できる伊藤のポジションは、個人的にはものすご〜く羨ましい。バイト代は出世払いという(一方的な)金銭面での約束が交わされているとはいえ、伊藤が献身的になりすぎず、あくまでも無理をせずに自分ができる範囲で行動をしている部分も。

あと時に、ファンである伊藤だからこそ言える言葉が春野を後押ししたりする場面も、グッと胸にくる&共感できるものがあったりするんですよ。

(『日々まめまめとむしやしない』9話「手土産の京おはぎ」より)
(『日々まめまめとむしやしない』10話「泣いて笑ってお弁当」より)
(『日々まめまめとむしやしない』10話「泣いて笑ってお弁当」より)

どんなシチュエーションで伊藤が発言しているかを書いてしまうとネタバレになってしまうので、気になった方はぜひ単行本でお確かめを。これらの言葉からもわかるように、小説家に限らず何らかの創作活動をされている人を応援している人のみならず、応援されたいと思っている人にも響くものが『日々まめまめとむしやしない』にはあると思うので、この記事を読んで何か感じるものがありましたら、ぜひ試しに作品を手に取ってみて欲しいです。

ちなみに作品タイトルにある「むしやしない」とは「虫養い(ひ)」と書き、「一時的に空腹を紛らわす事 また その食べものの事」を指す言葉。著者である魚田さんは「来る日来る日の小さな幸福をまめに肥やす」というイメージからこのタイトルにされたそう。

プロフィール欄に「生まれも育ちも京都の食いしん坊漫画家」とご自身で書かれている魚田さん。彼女の『カラスのいとし京都めし』(祥伝社)や『ゲコガール』(講談社)などの作品と同様、『日々まめまめとむしやしない』には京都の“うまいもん”をはじめ、真似してつくりたくなる、なんともおいしそうな食べ物もたくさん登場します。

(『日々まめまめとむしやしない』3話「取材!京のおばんざい」より)
(『日々まめまめとむしやしない』6話「謎解き ちらし寿司」より)
(『日々まめまめとむしやしない』9話「手土産の京おはぎ」より)

伊藤いわく、春野の作品は読んでいるとお腹が空くそうですが、『日々まめまめとむしやしない』も負けないくらいお腹が空く作品なので、食マンガ好きの方にもぜひ読んでみて欲しいです。

何はともあれ、好きな作家さんがいることは、アイドルやキャラなどの“推し”がいるのと同様、日々に潤いを与えてくれるので、皆さんも応援したい作家さんがいたら課金/無課金を問わず(無理のない範囲で)どんどん応援するのが良いかと。自分も伊藤の「先生が書き続けて くれているから 俺も声を出せるんです」という言葉を胸に、自分のできる範囲で好きな小説家を応援していきたいと思います——“好き”を暴走させすぎて、ストーカーだと思われないように自制しつつ。それでは皆さん、また来月に。

日々まめまめとむしやしないのマンガ情報・クチコミ

日々まめまめとむしやしない/魚田南のマンガ情報・クチコミはマンバでチェック!1巻まで発売中。 (芳文社 )

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話題に出た作品のクチコミ

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名無し
2019/10/21
ゲコにケロッを指南するカエル似の酒妖怪
camera私はそこそこに酒は飲める。 だがかつて先輩社員が新入社員に酒を強要して 急性アルコール中毒にして病院送りにして、 さらに私を下手人に仕立て上げて以来、 下戸な人に酒を勧めることは一切しない。 酒は美味しいし気分が良くなるし、 料理の味も引き立ててくれるし酒席を和やかにしてくれる。 とはいえ、酒に強い弱いは体質的な面が大きいし 下戸な人にあえて酒を勧めるよりは勧めないほうを選んできた。 なのでこの漫画は凄く面白いしタメになるのだけれども それをそのまま現実に実践する気は無い。 ましてや下戸の主人公に獲り憑いたのが ゲコっと鳴くカエル似の妖怪だとか 酒の妖怪なのに自身も一杯しか飲めないとか、 「ヒネリも深みもまるで無いじゃねーか」 「舐めてんじゃねーぞ」 という第一印象しか受けなかった。 だが下戸相手だからゲコッと鳴くカエルの妖怪かよ、 という軽すぎる印象も、後々に ケロッと鳴くシーンが登場して 「・・だからカエルか、上手いこと言うじゃねーか・・」 と妙に納得した(笑)。 このカエル似の酒妖怪の酒指南は 「いいから呑め」だけではない説得力がある。 現実にはそこまで上手く(そして美味く)は いかないかもしれないけれど うーん、そういうものなのかも、と思わせる面は感じた。 下戸な人にも酒ドリームを抱かせる美味さのある漫画 なのではないかと思った。 私は下戸ではないので、この漫画の通りに飲めば 下戸の人も酒を克服できるかどうかは判らない。 基本的には体質とか生物学的な問題だし。 というか下戸の人がこの漫画をどう思うか判らない。 だが、下戸の人でも他人に強要されずに飲むことが可能な時間とか 最悪、翌日に夕方まで寝込むことになっても大丈夫な時間とか あるならば、試してみたら、というか、 この漫画を読んでみたら、くらいにはオススメしたい。