マンガで(ひとまず)満たす「金を払ってでも自信とかを手に入れたい欲」

マンガで(ひとまず)満たす「金を払ってでも自信とかを手に入れたい欲」

こんにちは、Mk_Hayashiです。この春から社会人になった皆様方は、そろそろ疲れが出てくる頃でしょうか。新しい環境の中で、それまで自分が当然だと思っていた常識や価値観が通用せずに自信を失い、心身ともにグッタリなっている人も中にはいるかもしれません。

かくいう自分は少し前に、憧れの小説家さんに取材させていただくことがあったのですが、取材が終わって緊張がゆるんだ瞬間、自信の無さからくるネガティブな発言をブチかまし、憧れの人を戸惑わせてしまうという大失態をしでかしました。その後「自信を金で買えるなら、10年ローンを組んでもいいから買いてぇ……」という妄想の念に、数日間にわたって苛まれていました。

金で買えてしまうような薄っぺらな自信で、自分の根深いネガティブ思考が変わることはないでしょうが、例え薄っぺらな自信でも無いよりはマシだし、何より生きるのが少し楽になる気もする。でも、金で買えてしまうような自信って、どうなんだよ……と、堂々巡り状態になってしまった「金を払ってでも自信とかを手に入れたい欲」を満たす(というか払拭す)べく作品として、今回は福島鉄平さんの『ボクらは魔法少年』(集英社)をご紹介します。

『ボクらは魔法少年』第1集 福島鉄平/著(集英社)

表紙のかわいいビジュアルと“魔法少年”というワードの組み合わせに「男の娘(おとこのこ)マンガ……?」と怯んでいる方もいると思います。かくいう自分も最初はキワモノっぽい印象&先入観を抱いていましたが、読んでみたら、これがなかなか骨太な作品なんですよ。3月に発売された第2集の帯には「これは、少女姿の少年漫画だ。」というコピーがありましたが、もう少年とか少女とか関係なく楽しめる、ジュブナイルマンガだと言いたくなるくらいに。

物語の主人公となるのは「3度のメシより カッコイイことが 大好きな小学生男子」の小田桐カイト。ガキ大将気質で、仲間が年上を相手にケンカをしていても助太刀するタイプですが、その根底にあるのは正義感ではなく“カッコイイ自分が好き”という気持ち。

ある日、隣のクラスの転校生で、“魔法”の力で街の平和を守る仕事をしているという海原マコトに「街の平和を守る 正義の味方に なってみない?」と、カイトは誘われる。

(『ボクらは魔法少年』第1集 第1話「何が魔法少年だよ! 絶対に辞めてやる!」より)

“正義の味方”と聞き、戦隊モノ作品のようなヒーローの姿を想像して二つ返事で快諾するカイト。しかしマコトにもらった《へんしんリング》で変身してみると、予想とは裏腹にファンシーな姿になった上に《魔法少年ときめき♡ピンク》というマジカルネームまでつけられてしまう。

(『ボクらは魔法少年』第1集 第1話「何が魔法少年だよ! 絶対に辞めてやる!」より)

魔法少年として活躍し、魔法の国に功績が認められれば魔法少年を辞められるというマコトの言葉に従い「絶対に 辞めてやる!!!」と、しぶしぶ魔法少年として活動しはじめるカイト。「ボク 知らない人に話しかけるのニガテだし」と言うマコトは、本を読みながらお菓子を食べてばかりで何も手伝ってくれず、カイトの“カッコよくない自分”への恥じらいと不満は、どんどんつのっていく。

(『ボクらは魔法少年』第1集 第1話「何が魔法少年だよ! 絶対に辞めてやる!」より)

魔法少年としての活動が板についてくるカイトだが、どうしても魔法少年であることに自信や誇りを持てないがために、魔法の力を使いこなすことができず、簡単な人助けレベルのことしかできない。

(『ボクらは魔法少年』第1集 第1話「何が魔法少年だよ! 絶対に辞めてやる!」より)

そんな中、魔法を使いこなせないばかりに、チンピラにからまれた少年を助けられなかったことをきっかけに、カイトの中で何かが変わりはじめていく。

(『ボクらは魔法少年』第1集 第1話「何が魔法少年だよ! 絶対に辞めてやる!」より)

————と、ときに派手なアクションシーンを交えながらも、少年たちの心の成長も繊細に描く『ボクらは魔法少年』。カイトが魔法を使えるようになるまでが描かれる第1話は、『となりのヤングジャンプ』にて公開されているので、つづきが気になった方はぜひ読んでみてください。

第1集に収録されている第1〜6話は、“魔法少年の自分”を認められずにいるカイトが葛藤に苦しみながらも、自分の内面と向き合っていく様子を中心に物語が展開するのですが、個人的にぜひ読んでいただきたいのが、第2集に収録されているマコトが《魔法少年さざめき◆ブルー》になるまでの物語を描いた第8〜9話。ちなみに第8話から、作品としても面白さが急激に増したと個人的には感じるので、作品との相性を確かめたい人は、いきなり第2集から読んでみるのも正直アリだと思います。

『ボクらは魔法少年』第2集 福島鉄平/著(集英社)

で、ようやく今回の本題でもある「金を払ってでも自信とかを手に入れたい欲」に関係してくるのですが、この欲を満たして(払拭して)くれたのが、この《魔法少年さざめき◆ブルー》誕生エピソードなんですよ。

ひょんなことからマコトが大金持ちの息子だと知ったカイトは、それまでのマコトのどこか傲った言動も相まって、もしかしたら自分はボンボンの道楽に付き合わされているだけなのでは……と、疑ってしまう。

(『ボクらは魔法少年』第2集 第8話「一生アイツに頭が上がらない気がする!!!」より)

疑念はどんどん暴走し、金持ちのボンボンの趣味に「貴重な小学校生活を奪われてきたんだ!!」と憤るカイト。見返りに何かもらってやろうとマコトの生家へと乗り込んだところ、先祖代々海原家の書庫の管理を任され、マコトが魔法少年であることを唯一知っているという使用人・鳴川マギルに出会う。

マコトへの不平不満をぶつけるカイトに対して、マギルは「マコト様がそんなに堂々と 人に何か言えるなんてね」と、嬉しそうに笑う。そして「愚かなアンタの誤解が解けるように」と、かつては「ヒドく気の弱いカンジでさ ホント なんにも言えない できない」自己嫌悪にまみれていた少年だったマコトの過去についてマギルは語りはじめる。

(『ボクらは魔法少年』第2集 第8話「一生アイツに頭が上がらない気がする!!!」より)

周囲の視線から逃げるように、書庫に入り浸るようになったマコトがキレイなものや、カワイイものが好きだと気づいたマギルは、マコトの「つまんない時間が 無くなるように」と、書庫にある本の中から彼が好みそうなものを選び、手に取りやすいように並べ替える。そのことをきっかけに、マコトは肌身離さず持ち歩いている魔法少年について書かれた《古の戦士の書》を手にすることになる。

(『ボクらは魔法少年』第2集 第8話「一生アイツに頭が上がらない気がする!!!」より)

《古の戦士の書》と出会い、魔法少年に魅了されるマコト。魔法少年になりたいという夢が生まれたことにより、内気な少年だったマコトは、少しずつ変わっていく。そして半年ほどかけて《古の戦士の書》を独学で解読し、魔法の国と接触して《へんしんリング》を手にいれるマコト。しかし魔法少年のスーツである《オトメチック》を纏えず、魔法の国の人物に「素質が無いんだ “魔法少年”になるのは あきらめた方がイイ」と断言されてしまう。

魔法少年になりたいという熱意を胸に《オトメチック》を纏えるよう、あらゆる努力を重ねるマコトだが、2年経っても《オトメチック》を纏える兆しは現れない。果てには《ケモノチック》と呼ばれる闇落ちした魔法少年にマコトがなりうると、マギルは魔法の国から警告をうける。

(『ボクらは魔法少年』第2集 第9話「ボクに何が足りないの?」より)

マコトの幸せを考え、彼が魔法少年のことを忘れるようにマギルは策を弄するが、マコトは死に物狂いの熱意に最後の希望を賭ける————。そしてついにマコトが《魔法少年さざめき◆ブルー》へと初めて変身するシーンが登場するのですが、これが少年マンガと少女マンガの要素が融合した素晴らしいものなので、ぜひ第2集でご覧いただきたいです。

この変身シーンでも十分に感動的なのに、さらに追い討ちをかけるのが《さざめき◆ブルー》へと変身できたマコトが言う「きっと美しいと思ったんだ 自分の力で手に入れたものは」というセリフ。

(『ボクらは魔法少年』第2集 第9話「ボクに何が足りないの?」より)

「金を払ってでも自信とかを手に入れたい欲」という薄汚れた欲にまみれた四十路の涙腺は、もう「心の卑しい貧乏人で…ごめんなさいィィィィ!!!!」と、カイトばりに大決壊ですよ。

(『ボクらは魔法少年』第2集 第9話「ボクに何が足りないの?」より)

普通のマンガだったら、ここで“めでたし、めでたし”と終わりそうなものですが、『ボクらは魔法少年』のスゴイところは、このエピソードがその後の物語の伏線になっていること。

魔法少年の素質がないと自覚していることをカイトに知られたマコトは第12話で、世界中の魔法少年が集うパーティーの帰り道に「一度 魔法少年になった者でも その“自信と誇り”を全て失ってしまった時 ケモノへと転じてしまう」ことをカイトに告げ、「たくさんの魔法少年に囲まれているとね 自分の中にほんの少しだけだけど “ケモノ化”の兆候を感じるのさ」と、魔法少年になる夢を叶えた今も自分の弱さと戦いつづけていることを吐露する。

(『ボクらは魔法少年』第2集 第12話「招待状だよ! 魔法の国のパーティーのね!」より)

さらにつづく第13話では、魔法少年になることを目指してからは、一度も涙を見せなかったマコトが悲しみの涙を流す出来事が起きてしまい————と、ますます物語から目が離せない展開になっています。

月刊作品といえども、完成度の高いストーリーと少年たちの繊細な心理描写(と、ものすごい量のレースやフリル)をキッチリと描ききっている著者の福島さんは、すごい才能と創作エネルギーの持ち主だと思うんですよね。そんな想いもあり、上質なジュブナイルマンガとして『ボクらは魔法少年』は、さらに多くの方に読んでもらいたいと、ひとりのファンとしては願うばかりです。

あと魔法が「少年たちを成長させるもの」ではなく、「少年たちが成長するきっかけとなるもの」として描かれているのも、個人的にはすごく素敵だと思うんですよね。『ボクらは魔法少年』は完全なフィクションだし、現実において魔法なんてものはありえない。でも、たとえ魔法を使うことができなくても、何かのきっかけと変わりたいという想いさえあれば、誰だって変わることができる————そんなメッセージのように感じています。

(『ボクらは魔法少年』第2集 第8話「一生アイツに頭が上がらない気がする!!!」より)

何はともあれ、自分に自信が持てずに心が曇っているときや、大人になって薄汚れてしまった心に自己嫌悪を覚えているときに読むと、(個人差はあれど)魔法のように心を浄化してくれる作品ですので、五月病になりそうな気配を感じている方は予防薬ならぬ予防マンガとして手元に置いておくことをオススメいたします。

それでは少し早いですが、どうぞ楽しいゴールデンウィークをお過ごしください。同業者の皆様は、怒涛のゴールデンウィーク進行をどうか無事に乗り切りましょう……。それでは、また〜(空元気)。

ボクらは魔法少年のマンガ情報・クチコミ

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