今回は、『週刊少年サンデー』で1968年2月4日号から同年7月14日号まで連載された石ノ森章太郎の『ブルーゾーン』を取り上げたいと思う。
この連載が始まったとき中学生だった筆者は、友達から借りた『週刊少年サンデー』で第1回目を読んで「これはとんでもなくスケールの大きなマンガが始まった」とゾクゾクしたのを覚えている。そして、石ノ森作品としては『週刊少年マガジン』読んでいた『幻魔大戦』第1部(67年・平井和正との共同原作)や、それに先立つ『サイボーグ009/地底帝国ヨミ編』(66〜67年)以上の作品になるだろうと確信した。絵は素晴らしいし、なにより設定が良かったのだ。
プロローグは「この地球上に未知の部分、未知の現象は存在しないといわれる。だが、はたしてそれはほんとうだろうか?」という問いかけから始まる。
主人公の二子神ジュンは生まれてまもなく、親のない子どもたちを預かる「ヒカリの家」の玄関先に捨てられた孤児だった。それから18年の歳月が流れ、成長したジュンはマンガ家・石森章太郎のアシスタントとして働いていた。ある日、ジュンは弁護士から、父である二子神達也博士が遺した膨大な財産の相続人となったことを伝えられる。
二子神家の屋敷に行ったジュンは、そこで両親と姉が「やつら」に殺されたことを知らされる。父は、「やつら」がこれまで人類が気づいていなかった超自然界生命体で、われわれの住む三次元の世界に隣接する異次元・ブルーゾーンに住み、三次元世界へに侵略を狙っている、と最後のメッセージテープに吹き込んでいた。プロローグに言う「未知の現象」はブルーゾーン生命体の仕業だったのだ。
ブルーゾーン生命体は、ジュンが父の研究を引き継ぐことを阻止するために、彼の周りで恐ろしい事件を次々に起こした。
『週刊少年マガジン』でつのだじろうが心霊科学をテーマにした『うしろの百太郎』の連載をスタートさせたのが1973年12月12日号。それよりも5年も前に心霊現象や超常現象、つまりオカルトをテーマにしたSF少年マンガが生まれていたことには、いまさらながら驚く。
プロローグでは「きつねつき」やひとだま、エクトプラズムなどが取り上げられ、第1部「天空魔界の章」では、死霊が集まると言われる恐山に近い恐谷村を舞台に、臨死体験や幽体離脱、ポルターガイストなどが次々に登場し、ついには謎の円盤が現れる。円盤はブルーゾーン生命体が三次元に現れるときのひとつの形態だった。ブルーゾーン生命は群体としてさまざまな形を取り、バラバラになると長くは生存できずに、糸くずのようなエンゼルヘアとして消えていくのだ。
作中には過去に実際にあった目撃談や新聞記事などが紹介されて、そのリアルさが読者を夢中にさせた。
第2部「妖怪の章」では、ブルーゾーン生命体が怪物の姿となってジュンの前に現れる。われわれが妖怪と呼んでいたものもまたブルーゾーンからの侵略者だったのだ。
このまま、さまざまな怪現象や伝説に隠された謎にジュンが挑むという展開が期待されたのだが、第3部「暗黒魔団の章」で大きな方向変換が起きる。
雨の海岸でジュンはひとりの女性を助けた。恋人が突然別人のように変わってしまったことにショックを受けた彼女は、飛び込み自殺を図ったのだ。女性は回復したが、別人のようになったという女性の恋人・足垣のことが気になったジュンは、彼女の遺書にあった宛先から、東京・日野市にある足垣科学研究所を訪れた。
研究所の周囲にはバリアが張られ、謎の女が見張っていた。侵入しようとしたジュンは捕らえられ、足垣は自分が四次元能力を使って未来からやってきたことを告げる。女も未来の科学が生んだ精巧なアンドロイドだった。
彼ら「暗黒魔団」との戦いでジュンはすべての仲間を失う。最後にナレーションは、現在の三次元世界の上位には「ホワイトゾーン」という天国に近い異世界があり、「ブルーゾーン」はこれまで地獄と呼ばれてきたものだと説明する。そして、ブルーゾーンをこの世界とホワイトゾーンの共通の敵と位置づけ、「戦いは続けなければいけないのだ!! さあ、みなさんもジュンに力をかしてください」と結んでいる。
子供心にも「これはないでぇ」と思った。今なら、ライバル『少年マガジン』に部数で逆転された『少年サンデー』編集部が迷っていたことも想像できるが、あれほど盛り上げておいて「力を貸してください」はない。そこで考えたのがこんな続編だ。
二子神家の屋敷にひとりの英国紳士が訪ねてくる。かつてジュンの父とともにブルーゾーンの研究を続けていた心霊学者・ギルモア博士だ。「ロンドン塔で起きた幽霊事件の解決に力を貸してほしい」という博士とともにイギリスに渡ったジュンは、この事件にかつての切り裂きジャック事件との共通性を見つける。そこにはブルーゾーン生命体の痕跡があった。
事件を解決したジュンはスコットランドのネス湖に向かう。UFOの目撃情報が相次いだためだが、霧の湖上でジュンはネッシーと遭遇する。ネッシーもまた、ブルーゾーン生命体がつくった時空の裂け目により、太古から現在に運ばれたのだ。ジュンは、UFOとなったブルーゾーン生命体を倒してネッシーをもとの時代に返した。
次に、ギルモア博士とともに調査に向かったのは、イギリス南部のストーンヘンジだ。紀元前2500年、周辺を含めれば紀元前3100年にも遡る環状の巨石遺跡は、先史人類とブルーゾーン生命体との間に繰り広げられた戦いの遺構だったのだ。
その頃、地上はブルーゾーン生命体に支配され、先史人類とホワイトゾーンの人々は「やつら」からこの世界を取り戻すための戦いを続けていた。ブルーゾーン生命体を元の世界に押し戻す装置としてつくられたのがストーンヘンジだった。同じような環状列石(ストーンサークル)は世界中にあり、日本の縄文遺跡にも発見されている。ある時代に世界規模でつくられたことにジュンは気づく。
環状列石は、太陽光線を集め、ブルーゾーン生命体のエクトプラズムを「ヒカリの剣」で切り刻んでエンゼルヘアーにしてしまう力も持っていた。ジュンが預けられた施設が「ヒカリの家」だったことにもこんな隠された意味があったのだ。
その時、世界中に無数の円盤が出現する、ブルーゾーンとこの世界の境界は一気に崩れようとしていたのだ。ジュンはストーンヘンジに隠された秘密を解明し、ブルーゾーン生命体を封じることに成功し、人類とホワイトゾーンを救う。
怪奇現象ならイギリスが本場だと考えて、他の石ノ森作品をヒントに続きを妄想してみたのだが、石ノ森先生ごめんなさい。