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横山光輝のカーレースマンガ『グランプリ野郎』(「少年」完全版限定BOX全3分冊) 続きが読みたいあのマンガ その5

 短期間に2度も打ち切りになるという不運なマンガがあった。横山光輝のカーレースマンガ『グランプリ野郎』である。

『「少年」完全版グランプリ野郎 限定版BOX』

 光文社の月刊誌『少年』に連載された代表作『鉄人28号』が1966年5月号で完結したのを受けスタートしたのは同年10月号。元々自動車好きだった横山は、鉄人とは違った新しいマンガを生み出すべく、ホンダのF1マシンがメキシコグランプリ(1965年)で初優勝するなど、当時、男の子の注目を集めていたカーレースの世界を取り上げた。
 カラー扉が毎回のように付くなど、人気は高かったが、1968年3月号で掲載誌の『少年』が休刊。連載も中断を余儀なくされた。
 しかし、その直後には、集英社の月刊誌『少年ブック』で1968年4月号からの再スタートが決まる。『少年ブック』版の第1回で横山は「話を一部かえて、完結まで発表させていただくことになりました。はじめて読む読者のために、物語は、さいしょから進めていきます。」と移籍のいきさつを説明し、完結への意気込みを語っている。
 しかし、少年マンガ雑誌は月刊誌から週刊誌への大転換時代だった。集英社でも新たな少年誌『少年ジャンプ』(のちの『週刊少年ジャンプ』)の創刊準備が進み、『少年ブック』は1969年4月号での休刊が決まった。連載作品は大半が打ち切られ『グランプリ野郎』も予定した完結までたどり着けないまま中断することになった。
 ちなみに、かつて秋田書店が「サンデーコミックス」全2巻で出した単行本の初出は『少年ブック』版である。

 物語は、レーシングカーもつくっている中堅自動車メーカー・山野モータースに、レーサー志望の若者・若林真一が現れるところから始まる。
 父親はいないが、田舎に母と妹がいると説明した若林。テストコースを走らせた主任は、彼の運転テクニックを高く評価して練習生としての採用が決まる。
 練習生仲間にも多くを語らない若林だったが、実はイギリスグランプリでの事故で命を落とした天才レーサー・若林英一郎の忘れ形見で、父の遺志を継ぐためにドライバー練習生になったのだ。
  合宿所に練習生仲間たちと寝泊まりし、日々ドライブテクニックを磨く若林。だが、父のテクニックを身につけるための練習中に、事故を起こしてしまう。カーブでの恐怖心が原因だ。そんな彼の前に、父を知るという謎の紳士・野間が現れ、恐怖心を取り除くための特訓を毎晩受けることになった。

 同じ練習生として若林に敵愾心を燃やす遠山との対立と後に生まれる熱い友情や、息子を父と同じようにレースで死なせるのではないかと悩む母親、など人間ドラマに読みどころが多く、当時隆盛を極めていた貸本劇画からの影響も感じさせる。もちろん、レースシーンは迫力満点で、スピード感のある描写には唸らされる。
 山野モータースの新型車で新人杯レースに出場した若林と遠山だが、ゴール寸前に若林の車はオイル漏れでリアタイア。
 しかし、続いて臨んだクラブ対抗レースでは若林が雪辱を果たして優勝。若林は山野モータースが新たに開発したクルマでF1に参戦することになる。世界の強豪レーサー3人を日本に招いた招待レースで見事優勝した若林は、さらなる研鑽を積むためにイギリスのレーサー学校に3ヶ月の予定で留学した。
 修了後はイギリスの新人杯に当たるゴールデンイーグル200マイルレースに出場を決めたが、レーサー学校時代から黄色人種の若林を敵視していたジョーの卑怯な運転のため事故を起こし、重傷を追う。後遺症で右腕に激痛が走るようになった若林に主治医は、レーサーを諦めるよう告げる。
『少年』版は、事故からの再起をかけた若林が出場する300マイルレースのスタート直前で終わっている。

『少年ブック』版は、その前のクラブ対抗レースでの優勝場面で終わるので、300マイルレースから先の展開は想像するしかない。
 300マイルレースでも、ライバルのジョーは卑怯なやり方で若林を狙い、コーナーに追い込んできた。そのとき、若林の右腕に後遺症の激痛が走る。痛みの中で頭をよぎったのは、コーナーでスピードを落とさずに奇襲をかけるという父・英一郎のテクニックだった。このテクニックで父は「カミカゼ・ワカバヤシ」の異名を取ったのだった。
 痛みに耐えながらコーナーに突っ込む若林。負けじとジョーもアクセルを噴かしたが、一瞬の迷いが明暗を分けた。全速力でカーブを抜ける若林のクルマ。一方のジョーのクルマはそのままコースの外壁に激突する。
 若林は優勝し、レーサー学校での仲間たちも彼に一目置くようになる。事故の怪我から復帰したジョーも謝罪し、握手を求めた。
 そこに、山野モータースがF1に本格参戦するというニュースがもたらされる。ドライバーには若林と遠山が選ばれた。
 F1グランプリでのライバルには、招待レースで戦ったハワード・クレイ、ポール・ヒューズ、トミー・ダグラスらがいる。そして、ジョーたち新人もプロドライバーとして参戦。さらに、彼ら以上の強敵が次々に現れて若林の前に立ちはだかる。もちろん山野モータースのライバル会社がつくった最強マシンも登場する。後から後から、と現れるライバルとのバトルを描くのは横山マンガの真骨頂だ。
 で、グランプリで優勝は勝ち取れるのか? 表彰台でのハッピーエンドは、どうも横山らしくないように思うのだ。F1最終レース、最後のコーナーのデッドヒートの場面で終わる、というのが理想かもしれない。

「少年」完全版『グランプリ野郎』第3分冊178〜179ページ

 

 

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