連載が始まって「これは面白い」と思ったのに、たった2ヶ月で中断してしまったらかなりショックだ。そこから12年近く待たされたらなお辛い。今回取り上げる四角丸/原作、かわぐちかいじ/マンガ『理尽の不思議な野球』は、そんなマンガなのだ。
日本文芸社の『週刊漫画ゴラク』で連載がスタートしたのは、2012年7月6日号。同誌にかわぐちかいじが連載するのは、元全日本ミドル級チャンプが私立探偵として活躍するハードボイルド『探偵ハンマー』(1981〜83)以来だ。表紙には「巨弾新連載」の文字の後にビックリマークが4つも並んでいる。「希望を胸に 期待を背に そして未来はこの手の中に」というキャッチコピーにもビックリマーク4つ。新連載を記念してかわぐちのサイン入り野球ボールが10名にプレゼントされる、という告知もあった。絶対にヒットさせる、という編集部の熱い思いが伝わってくる。
コンビニの店頭で期待してページをめくると、面白い。立ち読みですませるつもりだったが、すぐにレジに並んだ。それくらいに面白かったのだ。
主人公は空野理尽。まだ3歳の幼児だ。母を病気で失った理尽は、伯母の瞳子(とうこ)の手で葬儀の場から連れ出され、忍乗寺という奇妙な山寺にやってくる。寺は江戸時代から逃げ込んだ凶状持ちや訳あり女を隠し、守り通した伝統があるのだという。
連れ出しの手筈をした理尽の父・白川静雄は、ふたつの問題を抱えいた。ひとつは理尽の将来、もうひとつは自身の身近な危険だった。白川家は巨大なコンツェルンを抱え、静雄の父・房之がすべてを支配していた。白川グループには表の顔とは別に闇の顔があった。闇の顔に反発した静雄は房之から睨まれ、一方、房之は静雄に代わり孫の理尽をグループの後継者にするつもりだった。
房之の野望から理尽を守るために、静雄は密かに理尽の母・華絵と離婚し、葬儀を最後のチャンスとして瞳子に我が子を託したのだ。
静雄がセットしたカーナビに導かれて忍乗寺に着いた瞳子と理尽は、そこで「墓石男」と名乗る立花五三(たてはないつみ)と出会う。五三は、理尽たちを追ってきた房之配下のチンピラ2人組を一撃のもとに倒してしまった。
長い石段を登り忍乗寺にたどり着いた瞳子と理尽はそこで住職の立花他山や、瞳子たちと同様に寺に庇護を求めてやってきていた朝日萬一とその母の珠恵、上田虎和とその母のゆりと出会う。理尽、萬一、虎和はすぐに親友になった。
一方、瞳子は立花住職から、義弟の白川静雄がかつての甲子園準優勝投手で、寺が理尽を受け入れたのは、静雄のライバルで優勝投手になった夏川(いまは青海と改姓)動吾から依頼されたからだ、と聞かされる。
静雄は妻の華絵にも、かつて自分が野球選手だったことは話していなかった。
翌日、忍乗寺は騒がしくなる。房之に命じられた一団が理尽を取り戻すために寺に現れたのだ。迎え撃つ忍乗寺からは黒装束の集団が現れ、火縄銃や大筒(おおづつ)を駆使して相手を威嚇し、理尽たちを守る。「武器からは解脱しているが自らを守る手段は鍛え上げている」という忍乗寺のもうひとつの姿であった。
報告を受けた白川房之は、理尽が18歳になるまで、忍乗寺で育てさせることを渋々受け入れた。
役者が揃っていよいよ本番だったが、8月31日号で連載はストップ。この号も表紙は『理尽〜』だったから、まさか中断するとは思わなかった。9回分は『理尽の不思議な野球(序)』として、2012年12月にニチブン・コミックスから単行本化されたが、続編は2024年3月現在、まだ登場していない。
これだけの材料で続きを考えるのは難しい。とは言え、書かないことにはこの記事も始まらないので、本物の続編が始まったときに笑われるのを覚悟で構想してみた。
要点は大きく5つある。
①白川グループの裏の顔とは何か?
②静雄はなにゆえ命の危険にさらされているのか?
③夏川が青海と改姓したのはなぜ?
④理尽の持っている不思議な力とは?
⑤理尽は野球をやるのか?
白川房之は静雄にこんなことを言っている。
「この国はきれいごとだけでは滅びる 世界中の汚い力を相手に本音で商売をし 落とし前をつける人間が必要なんだ」。
ここから推理すると白川グループは武器商人として世界の紛争地に武器を売っているのではないか。それに反発した後継者の静雄が、武器の販売ルートを断ち切ろうとしたことが、世界中の独裁者や軍を怒らせた、とすれば命を狙われるのも理解できる。
理尽の不思議な力は、武力の対極、つまり理を尽くした和によって人々をまとめあげていくことではないか。そして、理尽、萬一、虎和は「野球をやるぞ」と誓っているから、間違いなく野球をやる。
そこで浮かんだのが、こんな続編だ。
序からは10年の歳月が流れ、理尽は13歳。中学生になっている。理尽は、親友の萬一、虎和とともに進学した学校で野球チームをつくろうとする。メンバーを集める理尽だが、理尽が父親の轍を踏むことを嫌った房之は学校に働きかけてこれを妨害する。
彼らを救うのは忍乗寺だ。寺の敷地にグラウンドを整備し、五三と青海がコーチ役になり、練習が始まる。学校や親の反対を受けていた生徒の中からグラウンドにこっそりやってくる者たちが出てくる。ついに、9人が集まりチームが誕生する。理尽はプレイングマネージャーとしてチームを率いることに。彼の不思議な力が発揮され始める。
怒った房之は配下の芹沢に命じてチームを作らせ、理尽たちに挑戦させる。もし試合に負けたら、理尽は生涯野球に関わらない。もし勝ったら、理尽に自由を与える、という条件で……。少しベタかな。