何度もチャレンジしたライフワーク 村野守美『ほえろボボ』全1巻 続きが読みたいあのマンガ その10

 今回紹介する村野守美の『ほえろボボ』は、作者が何度も何度も連載中断と再挑戦を繰り返した、渾身のライフワークだ。

『ほえろボボ』

 連載第1話が掲載されたのは、虫プロ商事の月刊誌『COM』1971年9月号。アニメ制作会社の虫プロダクションでアニメーターとして『ジャングル大帝』や『佐武と市捕物控』などにも関わった村野らしい映像的な表現は、マンガファンの中でも特にうるさ型が多かった『COM』読者を唸らせた。しかし、1972年1月号から『COM』は青年誌スタイルの『COMコミックス』へとリニューアル。さらに4月号からはより対象年齢を上げた『Comコミック』に再リニューアルされたことから、対象年齢が低い『ほえろボボ』は連載中断となった。
 その後、講談社の『週刊少年マガジン』1972年30号から32号に、舞台をニューヨークから日本に移した形で『ほえろボボ』第1部の集中連載がスタート。同年37・38合併号からは本格連載が始まったが、39号で中断してしまった。39号には次号予告があるのだが、40号には掲載されず、原稿落ちの痕跡も残っている。事情は不明だ。

 1973年には、よみうりテレビで予定されていたアニメのタイアップ企画として東映・企画/黒崎出版・発行の月刊誌『テレビランド』3月創刊号から9月号で再スタート。ところが、アニメが制作中断されたことや、黒崎出版の経営難(11月号から徳間書店に発行を移管)などから中断。その後、双葉社の『週刊パワァコミック』1974年6月6日号から8月1日号に『COM』版をもとに加筆したものを連載。このときは続編を描く予定があったと思われるが、再び中断した。
 1980年10月9日からは、『ほえろブンブン』とタイトルを変更したワコープロ制作のアニメが東京12チャンネル系で放送(全38話)され、同年1月6日から『中日新聞』と『東京新聞』のサンデー版で日本に舞台にした『ほえろブンブン』の連載が12月21日まで続いた。「ボボ」から「ブンブン」になったのは、一部地方で「ボボ」が性的な意味を持つから、とも言われているが、真偽のほどは不明。また、『テレビランド』でも1980年11月号から81年9月号までリメイク連載されている。いずれも完結には至っていないが、おそろしいまでの執念である。
 とは言え、村野自身が「本編」と認めているのは、『COM』版の『ほえろボボ』だけなのだ。1978年に翠楊社がグランドコミックス・レーベルで出した単行本の解説には「『COM』休刊後『ほえろボボ』は数誌に“別伝”形式で掲載されたが、本書には著者の希望により『COM』『COMコミックス』に掲載された“本編”のみを収録した」とある。

 物語は摩天楼の谷間を流れる汚れた川から始まる。小さな木箱に捨てられた子犬が川面を漂っている。この場面が、先にも述べたように実に美しい。朝日に照らされた水面の描写は一服の絵になる。
 空腹のために弱った子犬は、このあたりを縄張りにする老いた野良犬のノラおじさんに助けられる。ノラおじさんは食べ物を与え、元気になった子犬にこの世界で野良犬として生きるために必要なことを教え始める。
 そんなある夜、二匹の前に不思議な男が現れる。ノラおじさんは男をとても敵わない相手だと感づき怯えるが、男は子犬を持ち上げてよく見ると、そのままノラおじさんに返し「チビ……もうしばらく そのおいぼれにあずけておくぜ……野良犬の掟を覚えこむまでな……強くなんな……その強さがでたころ……むかえにくるぜ」と言い残して姿を消す。
 子犬の野良犬修行は続くが、ある雨の夜、一匹で餌を探しに出かけた子犬は、お腹をすかせてお気に入りのライオン像のところで倒れてしまった。気がついたとき、子犬は人間の家にいた。通りがかった青年に拾われてここまで連れてこられたのだ。
 ノラおじさんを呼んで必死になく子犬。ノラおじさんは、テリトリーの外にまで出て街中を探しに回る。その様子を見ていたのは、あの男だった。情けなく泣く子犬をノラに任せておけないと思った男は、自ら乗り出す決心をする。子犬を血も凍るような猛犬に育てるために……。男は子犬が血統書付きのマスチーフだと見抜いていた。マスチーフは、大型で筋骨隆々、気が粗く、番犬や闘犬として飼育される犬種だ。
 さて、連載は保護された家の玄関でノラおじさんを求めて子犬が吠えている場面で終わっている。この先はどうなるのか?

 続編を考えるためのヒントは“別伝”とアニメの中にある。
週刊少年マガジン』版では、ノラおじさんと子犬は餌を求めて街を探検中に、偶然、関東の闘犬家たちのパーティに紛れ込んでしまう。そこでは、現会長が育てた闘犬を横綱に推挙するためのお披露目が行われていたのだ。子犬に気づいた会長は、獰猛な闘犬を解き放って襲わせようとする。それを冷ややかに見ていたのは、前会長だった。彼は現会長を止めるのではなく、やってみせろ、と言うのだった。
 ここで連載は途切れているわけだが、子犬は獰猛な闘犬を素早い動きで封じ込めてしまうのだろう。前会長は子犬の素質をひと目で見抜いていたのだ。そして、子犬を闘犬の横綱に育てるために連れて行こうとするが、子犬は逃げ出してしまう、はずだ。
 で、『COM』版の続きはこんな感じになる。謎の男は闘犬のトレーナーで、子犬=ボボを自分のトレーニング施設まで連れ去る。そのころ、一度はボボをあきらめたノラおじさんも彼をさがすために再びニューヨーク中の野良犬に助けを求める。その努力も虚しく、ボボは姿を消した。
 施設で、犬同士が人間の楽しみのために戦わされている現実を知ったボボは、犬たちを解き放って逃げ出す決心をする。謎の男たちは犬たちを追い、ボボの前に立ちはだかる。
「逃げるがいい。逃げたら、逃げ続けるしかない。そんな惨めな犬に成り下がりたいのか」という男に、一緒に逃げた犬たちは怯む。
 ボボは、「僕は逃げるのじゃない。自分の生きたい道を進むだけだ」と男に立ち向かっていく。男は蹴りを入れようとするが、ボボは素早い動きで男を転倒させ、仲間たちとともに男を乗り越えて進む。残された男は言う。
「ますますあいつを闘犬として仕込む楽しみができたぜ」
 やがて、ボボを追ってきたノラおじさんや街の野良犬たちがやってくる。「これだけ野良犬が増えたんじゃあ、おれたちの食い物がないぜ」という犬たちに、ボボは「彼らは野良としては生きられない。あまりにも長く人間のところにいすぎた」と、逃げてきた犬たちをかつて自分を拾った人間のところに連れていくという提案をする。
 犬たちの事情を知ったあの青年は、残酷な闘犬を辞めさせるための運動を始める。そして、ボボはノラおじさんの跡を継ぎ野良犬たちのリーダーになる決心をするのだった。
 というわけで、このシリーズもこれが最終回。ご愛読ありがとうございました。

翠楊社単行本4〜5ページ
翠楊社単行本78〜79ページ

 

 

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