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「ラーメン…湯切り…命!!」ラーメン漫画を描かせても超一流のハッタリが炸裂する能條純一『ばりごく麺』

 以前に『翔丸』の記事で、能條純一という漫画家は漫画界でも比類ない超一流のハッタリ力を持っている人だと書きました。そのハッタリ力は、『翔丸』のようなスケールの大きい作品だけでなく、料理漫画でも存分に発揮されています。というわけで今回の紹介は能條純一ばりごく麺』。連載は08〜09年の『ビジネスジャンプ』。単行本は全4巻です。

『ばりごく麺』

 本作の主人公は、うだつの上がらない新人サラリーマン・潮崎朗馬。彼がある雨の日、雨宿りのために今まで入ったことのないラーメン屋に入ったところから物語は始まります。あまり流行っていないその店にいた先客は、ラーメンを食べ終わると「まずかった———っ」と一言。そして「まずいが…最後の一滴まで変わらぬまずさが痛快だ 名付けて痛快ラーメン」と勝手な名付けをして去っていきます。

『ばりごく麺』1巻12〜13ページより

 これですよ、これこそが能條作品のカリスマキャラです。よく分からないがこちらを飲み込んでしまう謎のパワー。朗馬がこの男・榊原麺太の手ほどきを受けてラーメンの道を進むのが本作のメインストーリーとなります。そして、この麺太さんの教えの中核がこれです。

『ばりごく麺』1巻76〜77ページより。「塩だ!!」「ちと砂糖」という味付けの雑なセリフも最高

 「ラーメン…湯切り…命!!」ですよ。こう断言されては、スープとかのほうが重要なんじゃないか(もちろん麺太さんはスープにもこだわりますが)という素人考えは吹き飛んでしまいます。よく分からないが謎の説得力がある。そして、麺太さんが湯切りをすると、

『ばりごく麺』1巻78〜79ページより

 このように、魔貫光殺砲みたいにしぶきが飛びます。こんなの見せられたら、麺太さんの湯切りは凄いと認めるよりないですよ。ちなみにこれは単なるパフォーマンスではなく、麺に均等に鱗のような傷をつけ、スープと一体化する究極の麺「龍鱗麺」にしてしまうという効果があります。

『ばりごく麺』1巻188ページより。ちなみに解説をしてる人は、麺の表面を観察できるようにいつでもルーペを持ち歩いているという狂ったラーメンマニアです

 で、話が進むと、麺太さんを敵視するライバルキャラというのも出てきます。中華街で名声をほしいままにする若き天才・李玄武という人なのですが、これが麺太さんに負けず劣らず凄い。麺太さんの留守中に店に来て、麺太さんレベルとまでは行かないまでも湯切りの腕をかなり上げた(魔貫光殺砲みたいなしぶきは出せるようになった)朗馬の作ったラーメンを食べた時のリアクションがこうです。

『ばりごく麺』2巻16〜17ページより。LINEスタンプとかで欲しい

 素晴らしいですね。ちなみに、麺太さんが作ったうまいとんこつラーメンを食べた時のリアクションはこうです。

『ばりごく麺』2巻36〜37ページより。流れ的には無意味な最後の一コマが何ともいえない味わいを醸し出す、これが能條マジックです

 そして中華料理人としてのプライドを傷つけられた李玄武は、唐突に「私は……私はあなたを殺す!!」とヒイロ・ユイみたいなことを言ったかと思うと、「同じ料理人として…ラーメンで殺します!!」と宣言、とんこつラーメン対決に発展するのです。
 いやー、ラーメン漫画を描いても能條漫画になってしまうの、本当に最高ですね。読むとテボ(湯切りのための振りザル)を振りたくなる、そんな一品です。

 

 

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