「昭和天皇物語」昭和天皇がマンガで描かれる時代がついに来た!

「新作マンガ、どれを読んだらいいのかわかんないよ……」という迷える子羊たちのために、マンバ通信編集部がイチ推しの1巻を紹介する「1巻でました!」のコーナー。

今回紹介するのは、能條純一「昭和天皇物語」。

激動の生涯を歩んだ昭和天皇の物語というだけで、面白くないわけがない。もうここから先のテキストをすっ飛ばして、試し読み1巻を読んでもらいたいくらいなのですが。

というか、このマンガの面白さを語る以前に、昭和天皇って、ずーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと描かれてこなかったじゃないですか。昭和天皇に関する書籍は数多く出版されているけれども、「昭和天皇を中心に据えた物語」というのはここ最近まで、まったくと言っていいほど出てきていなかった。

ロシアのアレクサンドル・ソクーロフ監督が昭和天皇をテーマにした映画「太陽」を撮ったとき(2005年)は、映画の評価以上に「天皇を題材にした」という時点で、ものすごくザワついていた記憶がありますし(昭和天皇役はイッセー尾形)、日本映画では、2015年公開の映画「日本のいちばん長い日」(原田眞人監督)が、昭和天皇を中心に描いた初めての映画だと言われています(昭和天皇役は本木雅弘)。つい最近のことやん。

題材としては申し分ないのに、物語の主役として長いこと避けられ続けてきた昭和天皇。それがこのたび、おそらく(主役として)初めてマンガとして描かれることになったわけです。「月下の棋士」や「哭きの竜」でおなじみ能條純一の手によって。

原作は半藤一利の「昭和史」(平凡社)。脚本は松本大洋竹光侍」で原作を担当した永福一成、監修はかつて手塚治虫横山光輝水木しげる等を担当してきた元・小学館単行本編集室長の志波秀宇です。

物語は終戦直後、昭和天皇とダグラス・マッカーサーが対面する場面から始まります。自らの命乞いをするのかと思いきや、「すべての責任を自分が負う」と言われ、マッカーサーは驚きます。がぜん昭和天皇への興味がわくマッカーサー。

ここから一気に、昭和天皇の幼少期……「迪宮(みちのみや)」と呼ばれていた時代にさかのぼります。迪宮はどんな幼少期を過ごし、どんな影響を受けながらその人格を形成していったのか。1巻ではそのキーパーソンたちが次々に登場します。

まず、東京女子高等師範学校・附属幼稚園の先生から、養育掛に抜擢された足立タカ。迪宮の弟・淳宮(あつのみや)がハトを襲った猫に仇討ちしようとしていたのを見かけたタカは、初めての謁見で、迪宮と淳宮に「仇討ちをしてはならない」と説きます。

次に登場するのが、「乃木大将」こと乃木希典(のぎ・まれすけ)。日露戦争で多数の兵士を犠牲にしてしまった自責の念から自害を申し出る乃木に対し、明治天皇は彼を学習院院長に任命します。

乃木は教育者として、迪宮に文字通り体ごとぶつかり、「強くなれ」と言います。

時代は明治から大正へと移り、皇太子となった裕仁のために設立された東宮御学問所。その総裁となったのが東郷平八郎。乃木大将と同様、数々の武勲を上げた軍人ですが、「自分は乃木になれない」ということを悟ってもいました。

そして、その御学問所で倫理・帝王学を担当した教師、杉浦重剛。

杉浦は裕仁に「(国民が天皇のためにあるのではなく)天皇が国民のことを大切に思うことが肝要」であると教え、東郷をはじめとする周りの大人たちをギョッとさせます。

これらの人物(もちろん他にも出てきます)が、昭和天皇にどのような教えを残していったのかを描いた1巻。おそらく全部のエピソードを詰め込むと長くなりすぎるので、それなりに取捨選択した上で各エピソードを描いているのだと思いますが、出て来る人間たちがみな興味深い(キャラが濃い)ので、ついWikipediaなどで補足しながら読みたくなります。

物語として描くことが避けられてきたデリケートな題材であるがゆえ、おそらくこれから先……特に日本が太平洋戦争に突入していく過程などで、議論を巻き起こすような展開になることも予想されるのですが、解釈や思想を抜きにして、日本人にとって「昭和天皇」がものすごーーーーく興味津々な対象であることは疑いようがないわけで、これをマンガ化したことをまず賞賛したいと思います。

なんだか題材の話ばかりしてしまいましたが、もちろん一つのマンガとして面白い作品ですよ。マンガとしての面白さは、マンバの掲示板に書いてあったこの言葉がよく言い表していると思います。

1コマだけで見ると、ギャグかなって思うけど、流れで読むと感動する。まさに能條純一だ。

で、その「昭和天皇物語」1巻ですが、先日の「ワイドナショー」で、武田鉄矢がダンプカーに飛び込むくらいの勢いでプッシュした影響なのか、現在Amazonでは単行本が売り切れている模様。といっても、もちろん電子書籍のほうはちゃんと販売されております。読もう!


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さいろく
さいろく
2020/03/24
あンた、背中が煤けてるぜ
麻雀を打つ人はたいてい「哭きの竜」という名前ぐらいは聞いたことあるでしょう。 麻雀打ちにとって神のような無敵の麻雀打ちの代名詞(比喩)のようなものです。 でも意外とちゃんと読んだことある人は多くないのかも? 著者の能條純一先生は今現在は「昭和天皇物語」を描いておられますが、「月下の棋士」も超有名な作品です。絵柄や間の使い方が独特で、読者を魅了する作品を残しています。 本作の主人公は「哭きの竜」と呼ばれる雀ゴロ。 竜自身はめちゃくちゃ口数が少なく、たまに喋ったと思うとヤクザの親分達相手にも怯まずズバッとコケにしちゃうという恐れ知らずにも程がある性分。 ただ、ヤクザの親分になる器が私にはないのだと思うのですが、親分さん達には「神のヒキ」と言わんばかりの竜の持つ「強運」が魅力的に映るようで、テッペンを目指す親分がたはこぞって竜の強運を欲しがります。 しかし彼らに対して竜は言います。 「あンた、背中が煤けてるぜ」と。 背中が煤けてるってどういう意味?という議論が割とあったようなのだけど私の解釈だと「死相が出てる」ってことかと思ってます。 死相が出ている、今やろうとしてるソレはやめときなよ、と言ってあげているのではないかと。 事実、それを言われた人たちはその後大体死んじゃうんですよね。 死神ってわけじゃないんだけど、触るもの皆傷つける的な、ギザギザハートの子守唄のような存在。 竜は最初こそヤクザの代打ちで稼いでいたものの、気づけば各方面の組長達からのラブコールで引っ張りだこ。 で、仕方ないからついてって麻雀打てというから打ってあげて、勝ったら相手が激おこで死ぬ。そりゃー竜も嫌になりますわ。 「ふっ」って嘲笑に近い感じでよく笑うんですが、親分からすりゃ「いい度胸だ」と思われて逆に気に入られちゃうっていう悪循環。 竜本人は根無し草をヨシとしているとこもあるんですが、最初の甲斐の正三親分から充てがわれた女をしっかり家で待たせてたりと、人情っぽいものも無くはない。ミステリアスというと安っぽいですが、不思議な魅力の持ち主。 漫画としてはどうなのかというと、抽象的な表現が多く、ヤクザ屋さん達の意地や任侠の在り方がわからない私には少し難しかったですが、麻雀を打つシーンはあるものの麻雀のルールは知らなくても全く問題ない感じです。 竜を囲う周囲の成り上がりたいヤクザ達の物語、と言っても過言ではないぐらい。というかほとんど甲斐組の話ですが、京都の大親分なんかですら竜に魅了されちゃってるわけで… 竜は「ファブル」の"山岡"のような恐怖を知らないタイプの男かもしれません。 読後感はとても良く、新装版では全5巻っぽいので(1冊380Pとかあるけど)一気に読むのには最適ではないかと思われます。 麻雀打ちなら嗜みとしてマスト、そうでない人でも話のネタにはもってこいの作品でしょう。