『週刊少女コミック』1975年41号(10月5日号)。
つい先日入手しました。
手塚治虫さんの『虹のプレリュード』、新連載で巻頭カラーという貴重な号です。
調べたところ手塚さんの少女雑誌での最後の連載作品は『ユニコ』ですが、そのひとつ前にあたる作品なんですね。
『ブッダ』や『ブラックジャック』や『三つ目がとおる』の連載中に、こんな優れた作品を短期とはいえ別の雑誌に発表する。
改めて手塚治虫という漫画家の凄さを認識させられます。
簡単に内容を紹介しましょう。
未読の方の為に最低限の情報にとどめておきます。
舞台は19世紀のポーランド。
素性を偽ってワルシャワ中央音楽院へ入学した「ルネ・コルドック」。
ロシア帝国の侵攻と戦う反逆者の「ヨーゼフ」。
中央音楽院に通う天才ピアニスト「フレデリック・フランソワ(ショパン)」。
この3人の恋愛とロシアへの反逆とピアノや音楽で話は進みます。
しかしワルシャワが陥落し、既にポーランドを出国していたフランソワが祖国の惨状を憂い「革命のエチュード」を作曲する場面で終わります。
10月5日号から始まり10月26日号で終了という事は、おそらく4回の連載だったのでしょう。
手塚治虫さんはピアノも弾かれて、音楽に関する博識ぶりが発揮されたとても優れた音楽漫画です。
この『虹のプレリュード』は講談社の『手塚治虫漫画全集』にも収録されており、電子でも読めます。
1975年の雑誌掲載ですが、全集の発売以前に単行本に収録されたのかは確認できませんでした。
ただ1989年同じ週刊少女コミック5月5日/10号の付録として、冊子ではありますが『虹のプレリュード』のみの本があります。
手塚治虫さんの逝去から数か月後に追悼として出版されたこの付録。
現在私が所有している物は最近になって手に入れた物です。
20代の頃古い漫画を集めていた時に持っていた物は蔵書整理で手放しました。
現存数はそこそこあると思いますが、最近はあまり見なくなりましたね。
ここで私の話に逸れることをお許しください。
私は29歳の時にピアノが弾けるようになりたくて独学で始めました。
10年くらいは続けそれなりにはなりましたが、弾くのをやめて20年以上が経った今はさっぱりです。
元々クラシックのピアノ曲が好きで、当初は「エリーゼのために」が弾けるようになればいいなくらいの動機でした。
しかし、クラシックピアノ名曲集のCDを買い込んで多くのピアノ曲に触れるうちにショパンという作曲家に入れ込みます。
目標は高い方がいいと、いつかはショパンの曲が弾けるようになろうと毎日頑張って練習しましたよ。
そしてオタクですからね。
ショパンに関する書籍も読み漁りました。
もうこうなったらショパンの曲全てを聞かなければ気が済まないとCD15枚組、全209曲の全曲集も買いました。
ウラディミール・アシュケナージという20世紀を代表するピアニストの一人と言っていい方が、十余年の歳月をかけて録音したレコードのCD版です。
練習しなくなった途端にピアノの腕はしぼんでしまいましたが、この時に蓄えたショパンやクラシックの知識は還暦過ぎた今も生きてます。
では話を戻しましょう。
この『虹のプレリュード』、ピアノを始める前に読んだ若い頃には気付かなかった、手塚さんの事実に基づいた細かさに驚きました。
冒頭ワルシャワへ出てきたばかりの「ルネ・コルドック」が「ヨーゼフ」と出会う場面。
ヨーゼフはルネにピアノを弾かせます。
傍にあった楽譜を初見で見事に弾きこなすルネ。
楽譜の作曲者は「フレデリック・フランソワ」。
曲名は「ピアノソナタ Cマイナー(ハ短調)」です。
「有名なショパンのピアノソナタは割と後期の作品だったと思うけど、学生時代にも作曲してたの?」と気になって調べました。
所有する全曲集の解説によるとショパンが音楽院在学2年目の終わり頃(18歳)に、「ソナタ 第1番 ハ短調 Op.4」を完成させたとなってます。
その後20代の終わりに「ソナタ 第2番 変ロ短調(B♭マイナー)」を。
30代の前半に「ソナタ 第3番 ロ短調(Bマイナー)」を作曲します。
ルネが弾く楽譜の表紙にピアノソナタと書かれ、C・MINOR とショパンが10代に作曲したソナタの調性が記されている。
作品番号が違いますがそこはまあいいでしょう。
正直ピアノソナタと書くだけでもいいと思うんですよ。
こういう手塚さんの博識とこだわりに感心せざるを得ません。
「手塚治虫氏追悼特別ふろく」と記載された付録冊子。
巻末に当時の週刊少女コミック編集長が後書きに代えての追悼文を書かれてます。
手塚さんの博学やこだわりにも触れてあり、貴重な文章だと思いますがどこかに再録されているのでしょうか。
では新連載で巻頭カラーの週刊少女コミック41号を紹介しましょう。
見開きの扉絵がもう素晴らしすぎますよ。
扉絵を含めたカラーの4ページはおそらくこの号でしか目にできないのではないでしょうか。
また連載時に入った小ネタが後の単行本収録で描き替えられているのはよくある事ですが、この第1話にもあります。
現在も販売されている商品名が付録の版では無くなってます。
1975年頃だったかは定かではありませんが、この商品のCMはなんとなく憶えてます。
手塚さんは雑誌掲載時にはこういう時事的な事を挟んだりしますよね。
こういう発見が当時の雑誌を読む大きな楽しみです。
参考までに目次ページと次号予告のカラーページの画像もお届けします。
横山光輝さんの『クイーンフェニックス』が同時連載で、他の執筆陣も豪華ですね。
残りの3冊も入手して『虹のプレリュード』雑誌掲載コンプリートを目指したいところですが難易度は高めです。
気長に構えて探していきたいと思っている次第です。