随所にみられるこだわりと緻密さが嬉しい昭和鉄道慕情。池田邦彦『カレチ』

『カレチ』

 

鉄道好きないわゆる「鉄オタ」という方々が世間に存在するのは現在では当たり前の様に認知されてます。

もっとも「オタ」という呼び方はオタクという呼称が広まった平成以降だと思います。

それまでは鉄道マニアと呼ばれてました。

鉄道マニアの内々では「テツ」や「てっちゃん」と言ってた記憶があります。

この呼び方は今も使われてますね。

私は鉄道は好きでしたがマニアという程ではなく、バイト先に鉄道マニアを隠さない同い年の方がいてよく話を聞かされてました。

この方、青函連絡船が廃止になるからと神奈川から3回乗りに行く程度にはガチな方でした。

「鉄オタ」の存在が広く知れ渡った理由は色々でしょうが、テレビ番組の影響は大きいと思います。

私も『タモリ俱楽部』の鉄道特集はよく観てました。

では鉄道漫画というジャンルはいつ頃から定着したんでしょうね。

今回調べてみましたが明確な時期はわかりませんでした。

昭和の頃を思い返しても、鉄道という舞台や設定で描かれた漫画は記憶にありません。

もっともずっと読んできてはいるものの、好みの漫画以外は大して目を通してないヌルい漫画読みです。

知らないだけであったのかもしれません。

今は毎号購入している『ビッグコミックオリジナル』で連載中の『テツぼん』を楽しく読んでます。

そんな鉄道漫画隆盛の現在ですが、『カレチ』は少し特殊と言っていいかもしれません。

舞台となる時代が昭和40年代後半の国鉄で、主に特急列車に絡んだ題材で話が作られてます。

モーニング』で2009年から2013年までの連載です。

当時『モーニング』は毎号購入しており、私の年代にぴったりの時代設定でかなり面白く読みました。

でもこの連載期間に私と同年代かそれ以上の方がどれくらいこの『カレチ』を読んでたんでしょうね。

そもそもこの世代はあまり漫画を読んでないのではないかと思います。

鉄道好きは年齢関係なくいらっしゃるので、そちら方面では読まれていた可能性はあります。

確か連載中だったと思いますが、鉄道マニアで有名なミュージシャンの方が「細部まで忠実に描かれて凄い漫画だ」と『モーニング』誌上で発言されていたのを記憶してます。

今私の手元にある『カレチ』の単行本は1.2.3巻の3冊です。

残念ながら4.5巻は所有してません。

カレチ』1.2.3巻での描写で、私の実体験やその他に関する話にしばしお付き合いください。

カレチ』の舞台は昭和40年代後半です。主人公は大阪車掌区に所属する新米カレチ

第2話の「車内改札」で大阪発の特急「白鳥」に乗り、青函連絡船を経て北海道は根室本線の尾幌という駅で降りた女性。

『カレチ』(池田邦彦/講談社)1巻より

明確に描かれてはいませんが、蒸気機関車と旧型客車という編成から降りてきます。

ここは第2話にして個人的にかなり刺さりました。

というのも子供の頃さんざん乗った列車なんですよ。

私が乗っていたのは昭和40年代前半の鹿児島本線です。

現役の灯が消える直前の蒸気機関車。

「子供の頃普通に乗ってた」と同い年の都会育ちの知人に話すと「蒸気機関車は戦後すぐの記録映像で見たくらいでまさか地方では使われていたなんて」と心底驚かれました。

旧型客車は更に思い入れが強いですね。

大井川鉄道で乗ったときは子供の頃を思い出して涙ぐみました。

蒸気機関車にけん引される旧型客車もいいですが、どちらかというとDDというディーゼル機関車と旧型客車の編成の方がぐっときます。

赤というかオレンジ色というか、目を引く機関車に繋がれた旧型客車。

こちらも子供の頃に良く乗りました。

小学校低学年まで夏休みや冬休みは母方の実家へ預けられることが多く、片道で3時間かかる鈍行の列車移動です。

還暦過ぎた今もしっかり思い出に刻まれてます。

そのDDと旧型客車。

19歳の頃大阪駅でこの編成を見たときはびっくりしました。

だってもう九州でも見てないんですよ。

まだあるんだと思ったらどうにも我慢できずに、次の帰省はこれに乗って帰りました。

大阪から福知山線を経由して山陰周りで九州へ。

途中色々あって丸一日かかったのですが若い時のいい思い出です。

この記事を書く丁度のタイミングにDDが『テツぼん』最新話(『ビッグコミックオリジナル』2023年第6号、第307話)で取り上げられたのは嬉しかったですね。

第4話の「指導車掌」。

緩急車という貨物列車の最後に連結された車両が登場します。

『カレチ』(池田邦彦/講談社)1巻より

昔の貨物列車は積荷によって車両が違い様々な種類の貨物車が連結され、最後に乗務員用の緩急車が繋がれてました。

この編成が長いんですよ。

作中に描かれてますが、私の記憶ではもっと長い編成もあったように思います。

子供の頃はなかなか終わらない貨物列車の通過を見るのが大好きでした。

緩急車(当時は勿論こう呼ぶのは知りません)が来ると「あぁ終わった」と思うのと同時に、なんで最後は必ずこの車両なんだろうとの疑問もありました。

この貨物列車への郷愁は今も引きずっていて、JRのホームで貨物列車が通ると「お、貨物だ」と少し嬉しいですね。

今はコンテナのみの編成がほとんどですが、それでも貨物というと心がときめきます。

第4話には3輪トラックも描かれてます。

『カレチ』(池田邦彦/講談社)1巻より

こちらも私が幼い頃は普通に走ってました。

この場面、車は何でもいいんですよ。

でもあえて3輪トラックなのが作者のちょっとした昭和へのこだわりが伺えて良いですね。

最後は少し飛んで第21話「遺失物点検」。

「明星1号」という寝台列車が登場します。

『カレチ』(池田邦彦/講談社)3巻より

ブルートレインではなく特急車両を使用した寝台列車。

一度だけ乗ったことがあります。

大阪の大学を受験するために乗った寝台特急。

車両の端に通路があるブルートレインと違い、これは通路が真ん中です。

作中でもしっかり描かれてますね。

寝台は3段です。

一番上の寝台がとんでもなく狭かったのに驚いたのは今でも覚えてます。

でも実際にどの段で寝たのかは覚えてません。

その後ブルートレインは何度か利用し色々と思い出はありますが、明星の3段寝台の一番上の狭さは今も記憶には鮮明です。

九州と大阪を移動する際も、この狭さを敬遠して利用してません。

不用意に起き上がると絶対に頭をぶつけるであろう天井の低さと、片側は屋根の丸みで更に狭くなっているこの上段寝台。

一度くらい乗って寝ておけば良かったなと、今となっては思います。

カレチ』の終盤は特急列車にまつわる話から国鉄民営化に伴う展開に移ります。

国鉄が民営化してJRになって30数年。

令和の今もしかすると国鉄を知らない方もいるかもしれません。

路面電車や小さな地方鉄道はあるものの、いわゆる私鉄が無い地方育ちの私にとって鉄道といえば国鉄です。

古き良きとは言いません。

良い思い出となっているのは年齢と共に記憶に補正がかかっているからだと自覚してます。

それでも子供の頃の思い出や、若かった頃の行動を思い出させてくれた『カレチ』は多くの鉄道漫画のなかでも少し特別な漫画作品です。

 

 

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