写真:池ノ谷侑花(ゆかい)
さていよいよ本題の『ゴールデンゴールド』について作者の堀尾省太さんに伺います。(前編はこちら )
先日、第2巻が発売されたばかりの『ゴールデンゴールド』。瀬戸内の島で起こるフクノカミをめぐる物語です。『刻刻』で見られた緻密な描写は今回も健在。それに加えて今回はユーモアも散りばめられております。そしてなにより、得たいのしれないフクノカミがもたらすなにか(フク?)が、めちゃくちゃ怖い……。
以下は、思いっきりネタバレが含まれますので、マンガを読んでからインタビューをお読みください!
フクノカミはドラえもん的なキャラクター?
──最初に、お聞きしたいのは、このマンガができるまでのことです。『刻刻』が終わったのが2015年の11月号で、『ゴールデンゴールド』が始まるまで1年ほど空いていますよね。その間はどんな風なことをされていたんでしょう?
堀尾:最初の数ヶ月はただただ休んで、半年間くらい取材とネームと原稿って感じでした。
田渕:「何やろう?」という話はダラダラと話していた気がします。
──『刻刻』描いている時から企画は結構すすんでいたんでしょうか。
田淵:『刻刻』描いてる時に、堀尾さんから「商店街で少女が活躍する話」がやりたいという話を聞いていて、それが『ゴールデンゴールド』の原型のようなものかもしれませんね。
堀尾:編集さんからは、「とにかくあなたは異形のものを出しなさい」と言われていて、商店街だったらフクノカミなんかはどうだっていう流れでしたよね?
田渕:そうだね。どんなクリーチャーがいいかっていうのを色々考えて、フクノカミだねってなった気がする
──フクノカミに至ったキッカケは何かあったんでしょうか。
堀尾:覚えてないですね。商店街の話をした記憶もあんまりないので。あとはドラえもん的なマスコットが一般家庭に来るっていうのも最初に思いついた気がします。
──あ! フクノカミ、怖いドラえもん感あるかも…。
──次に、設定についてお聞きしたいのですが、舞台は広島からほど近い島ですよね。堀尾さんも広島出身と伺いましたが、あの設定は身近なものなのでしょうか。
堀尾:僕は市内です。島に住んでいた頃はあるんですが物心がつくかつかないか頃のなので、島のリアリズムは全然わからないです。本当に子供の目から見たものでしかなくて、マンガで使えるようなものではないです。
田渕:それがあるのとないのとでは大違いですよ。
堀尾:そうですかね。ちなみに島にしようと言ったのは田渕さん。
田渕:出身が島だというのは聞いていたので。それと閉鎖空間という設定が『刻刻』でうまくいったので、今度は島のような『半閉鎖空間』だとうまくいうのかもしれないと思ったんですよね。それとモーニングって広島出身の作家さん多いんですが、かわぐちかいじさんがあそこらへんの島出身なので、島の話を結構聞いていたというのもあるかもしれません。瀬戸内海の島の話が面白そうだなと。取材では瀬戸内の島に延何日くらい行きましたっけ?
堀尾:二回に分けて2週間ですね。
──島ではちゃんとしたところに泊まったんですか?
堀尾:ちゃんとした宿に泊まっていました(笑)。
田渕:ばあちゃんの民宿みたいなところじゃないの?
堀尾:ああいうのの、ちゃんとしたところです。フクノカミはいないけど(笑)
──マンガをよく見ると、地図が出てきて島の位置がだいたいわかりますね。
堀尾:はい。だいたいあの辺ですが、いろいろな場所の要素を合わせています。こういう話なので、まんま使うことに抵抗があります。
──寧島という名前には何か秘密があるんですか?
堀尾:たいしたことじゃないんですが、お金にまつわる話なのでローマ字で寧はNEYと描きますよね、あれを逆から読んでYENになるので。
田渕:初めて知った。
──ちょっとマンバというコミュニティーサイトの話をさせてください。
マンバでは、各マンガの様々なトピックが立てられているんですが『ゴールデンゴールド』の伏線と思われる場所を上げていくトピックがあるんですよ。それについて聞いてもいいですか?
たとえば、道路が崩れててイノシシが出ているところとかあるじゃないですか。あそこが怪しいという話になってるのですが。
堀尾:あれは単に向こうで聞いたあるある話を使いたくて使っただけです(笑)
──えー! 火山の話とかにつながるのか! とか盛り上がってたのに(笑)。
田渕:後々伏線にするということがあるかもしれないですけどね。そういう風に連載は作られているので。
──あの伏線がここに繋がった!と作者も気づいて使うとかですね。あと表紙に「金」が3つ重なった漢字が出てきますよね。鑫ていう文字。初めて見たのですが、あれでフクノカミと読ませるんですか?
田渕:木が三つで森なので、勝手に作字したらどうだって思ったら、繁体字だとあるようなんです。
(ytv 道浦俊彦TIME 新・ことば事情 5297「鑫」)
──なるほど日本の文字ではないんですね。
*他にも伏線関係の話を聞きましたが、今後の展開に関係があるかもしれないのでこのへんで。マンバを見て想像してください。
及川くんはあまり他人に興味がなさそう
──キャラクターの設定も面白いですね。あの女の子と男の子はかなりリアルな感じがしました。どう造形していったんですか?
田渕:キャラクターが話すこととか、持っている間合いとかは堀尾さんが抜群にうまいので、それに関してはお任せしています。絶対に変なものは描いてこない絶対にいなさそうなキャラでも実際にいそうな感じでかけるのが才能だなって思う。
堀尾:何を考えているかわからない。つかみどころのないキャラにしたいみたいな話が打ち合わせでありましたね。女の子の方は、『刻刻』で樹里がきつめの感じだったからもう少し優しめにしようという風になりましたね。
──一人でおばあちゃんの家に来ているっていう設定はなぜなんですか? いじめのステレオタイプに陥ってないのがバランスいいなと思いました。
堀尾:人の感情が少し読める女の子。特殊能力まではいかないけど、人の感情を感じすぎてしまう敏感な女の子っていう設定にしようっていうのを編集さんから頂いて。
──いろんな思惑が渦巻く都会では住みづらく感じている。
堀尾:田舎がいやすいかって言われたら分からないですが、今いる場所を離れて、避難している状態というか。
──だから及川君みたいなちょっと天然というか何考えているかわからない子の方が居心地がいいと感じる。
堀尾:及川君はあんまり他人に興味がなさそうなので(笑)。
──そこですよね。他人に興味ないからそばにいて気持ちいい。だけど「こっちむいてよ!」っていう気持ちもあるという。
田渕:みんながフクノカミに引っ張られて、お金というか、ゲマインシャフトからゲゼルシャフトする方にわーっと行くんだけど、琉花だけが自分が原因なんだけど一歩引いてみている感じが良いかなみたいな打合せはしました。波に流されないというか、乗れないというか。それで都会から来たみたいな設定にしたのかもしれません。
──外から来た人間の視点を持てると。外から来たというと、もうひとり黒蓮さんの存在も利いてますね。よきガイド役というか、観察者として、読者にうまく説明してくれている。
堀尾:僕自身も島の人間ではないので、島の人間目線で描くのがまず無理なんですよね。そうなると、外から来た人間の目線で、そのカメラでもって描いていくしかないので、ああいうポジションの人間が必要だったのかもしれません。
──わあ。作者は登場人物を思い通りに動かす神ではなくて、想像上のあの「寧島」の出来事を記録するカメラってことなんですね。それは寧島が堀尾さんの中で、もはや作り物じゃなくなっている感じがします。
第一話で、黒蓮たちが港について、自分の田舎に対する先入観が打ち砕かれるところがありましたが、ああいう経験はされたんですか?
堀尾:よそ者に対してすごく声をかけてくるというのは僕が経験しました。島の人たちからは、一目見てここの人じゃないというのがわかるんですよね。
──だからと言って排除するわけでもなくどこから来たの?ってなるってことですよね?
堀尾:そうですね。
田渕:それは堀尾さんが善人そうに見えるからじゃないですか?
堀尾:あとは一人だったのもあるんでしょうね。
──具体的にどんな取材をされたんでしょう。
堀尾:何をすればいいのかわからないんですよね。行ってわかったことは、「ちょっとの間だけ行ってみただけじゃあなにも見えないっ」てことです(笑)。住民票を移して10年くらい住んでみたらわかるかなってぐらい。でもそうすると今描いているようなものは絶対に描けませんね。
──また完璧を求めると10年以上経ってしまうし……。
今後のストーリー展開
──『刻刻』の時はストーリーの先をあんまり決めずにスタートしたってことでしたけど、今回はどうですか?
堀尾:決まっていないですね。長さはそんなに長くはならないと思うんですが、『刻刻』より長くなることはないんじゃないかな
田淵:でも『刻刻』の時も3巻くらいって言ってたよね(実際には8巻)。
堀尾:言ってましたね(笑)。
──あてにならない……ですね。でも、その感覚でいうと2巻が終わった今はもう物語の中盤なんでしょうか。
堀尾:これから中盤に入るところですね。ただ、永久に続ける作品ではないので、話を進めていくと後戻りができないので、そんなに巻数がめちゃくちゃ出るということはないと思います。
──2巻の終わりに、大きな転換が来てると思うんですよ。物語のスケールも大きくなっているような。それは狙い通りなんですか?
堀尾:そこもまだこれといったプランもないですね。
田渕:2巻で、ある程度こういうところまで行きたいというのがあって。ウデムシが出てきたところまでは決めてありました。
──え、あの気持ちわるいの、ウデムシっていうんですか?
堀尾:そうですね、結構気持ち悪い本当にいるムシです。10cmくらいの。
──ぎえー、キモい。
まだ、序盤が終わったところだということですが、どんな風に読んでもらいたいみたいのはありますか?
堀尾:僕の方からはテーマ的なことは全然自分で考えていないですし読者に求めていないですが、欲を言えば、繰り返して読んで欲しいなと思ってます。
──堀尾さん自身がそういう読み方をするから?
堀尾:そうですね。二週目読み終わって、しばらくしてから、作品の中の風景を自分が見たことがあるような感覚になってくれると嬉しいなと思う。
──僕は何度か繰り返し読んでいるのですが、その度に島のリアリティが増してくる感覚を覚えています。読めば読むほど、よく知っているあの島での出来事になっていくような。
ところで、作中に食べ物がいろいろ出てきますよね。中でも印象的なのがデベラ飯なんですが、アレは広島で一般的に食べる機会があるものなんですか?
堀尾:取材先で初めてその存在を知りました。民宿のご飯で出たんですが、後でつくり方を教えてくださいって言ってそのまま忘れて帰ってしまったんです。その後、尾道に行く機会があって、乾物屋ででべら飯の作り方を聞いてその通りに作ったんです。だけど、上手くいかない。だから、試行錯誤しておばあちゃんが言っているような作り方で作ってみたら一番近いかなと思って書いたんですが、間違っているかもしれない。もっと美味しかった気もするんですよね。
田渕:僕も二回ほど堀尾さんの作り方でやったんですが、そんなにうまくなかった(笑)。
──これは……リサーチするしかないですね!
さて『ゴールデンゴールド』はまだまだこれから盛り上がっていくということで、内容についての詳しいお話はまた完結した時にでもお伺いするとして、堀尾さんの今後のお話について少しお聞かせください。
マンガ家として、今後の展開はどうお考えですか?
堀尾:特に考えないです。これを描き切らないと。
田渕:でも細く長く続けたいって言ってなかった?
堀尾:そうですね。描くのが苦じゃないと言ったらまた違うんだけども、長時間机に座っていられるうちは、できたらなと思ってます。
──描いていること自体が楽しい?
堀尾:楽しいというのも違うような、これをやらないと生きていけないというか。
──マンガを描かないとどうなってしまうんでしょう……。
堀尾:他の仕事ができるわけではないので、飢え死にしてしまう……。
──……『ゴールデンゴールド』について、最後に言っておきたいってことありますか?
堀尾:すごく言っておきたいことっていうのはないんですが、作品の冒頭に出てくる侍とフクノカミの死体のシーン。あれは侍が彼らを斬り殺しって決めつけないでおいてほしいなって。よく見ていただければわかるんですが、まず刀に血が付いていないんですよ。返り血も浴びていないので。
──今後の展望かと思ったら! しかし、それ重大なヒントにもなりそうだけど、言っちゃって大丈夫ですか?
堀尾:言ってもいいですよ。言わなくてもいいですけど。
──どっちなんですか……田淵さんからは?
田渕:ああ、この『ゴールデンゴールド』という作品を始めた時に、いろんな編集の人が連絡をくれてたんですよ。ある先輩が「久しぶりに『本物感のある』の新連載を読んだよ」って言ってくれたんですよね。
──なんかわかんないけど……最後にすごくいい話もらっちゃいましたね(笑)。
田淵:ただ、本物はなかなか売れない時代なんだよ…ってボソッと言われましたけど(笑)。
いやいやいやいや、そこはみんなで盛り上げましょう!
と、いうわけでインタビューはここまで。
他にもいろいろお聞きしたんですが、物語はまだ始まったばかりですので、ぐっと我慢して、また完結した時にでも記事にできたらな、と思います。
さて、マンガに関するコミュニティサイト『マンバ』では『ゴールデンゴールド』の感想から、今後の展開予想までたくさんの投稿が集まっています!! ネタバレマークのあるものは、マンガを読んでから見てみてください。こわいシーンも、みんなで共有すればだいじょうぶ!
感想よろしくお願いしまーす。
ゴールデンゴールド に関するクチコミ・感想・レビューなどが集まっています!