マンガの中のメガネとデブ【第27回】白山辰彦&三田民子(くさかべゆうへい『白山と三田さん』)

『白山と三田さん』

 マンガの中の定番キャラとして欠かせないのがメガネとデブ。昭和の昔から令和の今に至るまで、個性的な面々が物語を盛り上げてきた。どちらかというとイケてないキャラとして主人公の引き立て役になることが多いが、時には主役を張ることもある。

 そんなメガネとデブたちの中でも特に印象に残るキャラをピックアップする連載。第27回は[メガネ編]、妙な間が魅力のシュールラブコメディ『白山と三田さん』(くさかべゆうへい/2022年~連載中)の主人公カップル・白山辰彦(しろやま・たつひこ)&三田民子(みた・たみこ)のご両人だ。

 白山は、東京(特に下北沢)に憧れる田舎町の高校生。謎にカールした前髪にメガネに三白眼というルックスどおり、いかにも陰キャで友達はいない。ラジオのヘビーリスナーで、学校でもイヤホンで聴きながらニヤついているため、「ニヤ山」と呼ばれている。好きなおやつは芋けんぴ。上京資金を貯めるためバイトに励む日々のなか、田んぼに落ちた老人を助けて感謝状をもらう。その老人から「孫娘と付き合ってくれないか」と紹介されたのが三田民子だった。

 三田さんは、両サイドをピンでとめたピッチリ真ん中分けの黒髪ロングで、やはりメガネをかけている。見るからに真面目そうな学級委員タイプながら、好きな映画は『ハンニバル』で愛読書は『ゴルゴ13』。そこまでならばまだ普通(?)だが、ゴルゴ13ことデューク東郷の愛用銃M16のモデルガンまで買っちゃうのだから、並みの女子高生とは一線を画す【図27-1】。好きなおやつは落雁。見かけによらず大食いで身体能力は極めて高い。

 

【図27-1】公園でM16のモデルガンを構える三田さん。くさかべゆうへい『白山と三田さん』(小学館)1巻p30-31より

 

 なりゆきで付き合うことになった二人だけに、ラブラブの雰囲気はまるでない。公園で語らったり水族館デートをしたり互いの家を訪ねたりはするものの、ラブコメにありがちな「手をつなぐかどうか迷う」「何かの拍子に顔が接近してあわやキス!?」みたいなドキドキ展開にはならない。名前呼びもせず「白山さん」「三田さん」で、ずっと敬語。夏休みに東京旅行に行ってひとつの部屋に泊まっても何も起きない、起きる気配すらないというのは、健康な高校生男女としてどうなのかとも思う。

 しかし、だからといって相手に興味がないわけではない。むしろお互いを思いやる気持ちは超高校生級。水族館デートでアシカショーの観客参加に指名された二人は、そろって大失態を演じてしまう。そこで「すみませんでした。(中略)私がハッキリ断っていれば、白山さんにも迷惑かからなかったのに…」と詫びる三田さんに「僕は三田さんと一緒にいて、迷惑だと感じたこと一度もないです」と返す白山。こういうことをサラッと言うのは大人でもなかなか難しい。さらに「放課後の公園で、M16ブン回してる三田さんを見て、面白い人だなと思いました」とくれば、あまり表情を変えない三田さんがうっすら頬を染めるのも無理はない。普段は鈍くさい白山だが、ここぞという場面は決めるのだ。

 三田さんは三田さんで、極端にスポーツができない白山のヘボい姿やゲームに集中したときの変な顔を見てもまったく引かない。むしろその集中力に憧れ教えを乞うほどで、結果、二人で同じ変顔をしてゲームに熱中する。白山が寝起きにうっかり踏んで壊したのをテープで止めただけの歪んだメガネをかけてきたときも「どうしたんですか?」とは聞くが、カッコ悪いとかは思わない【図27-2】。

 

【図27-2】テープ止めメガネをかける白山。お約束の「メガネ…メガネ…」の場面も。くさかべゆうへい『白山と三田さん』(小学館)2巻p94-95より

 

 そう、二人とも決して相手を否定したり見下したりしないのだ。変わった趣味もダサい服装もオールOK。そんな表面的なことではなく、もっと深い人間性の部分を見ている。そのうえで、お互い聞くべきことは聞き、言うべきことはきっちり言うところがすごい。

 回を重ねるにつれて三田さんの変さ、こだわりの強さが浮き彫りになる。それに比べれば白山は常識人に見えてしまうが、三田さんについていけるのは彼しかいなさそう。変わり者同士お似合いのカップルであり、息の合った会話はベテランの夫婦漫才のようでもある。そんな飄々とした二人にフレームレスの細身のメガネがよく似合う。

 全体にローテンションの空気のなか、今のところ最大の盛り上がりを見せたのは、三田さんが公園に置き忘れて行方不明になったM16を白山が見つけてきたシーンである。雨の中、ずぶ濡れになりながら探し出したM16を「バイトの帰り道でたまたま見つけました」と差し出す白山に、思わず抱きつく三田さん。いきなりの熱い抱擁に戸惑う白山の濡れて乱れた前髪、「ありがとう…ございます……」と滂沱の涙を流す三田さんの表情は本作においてはレアであり、ここだけちょっと普通のラブコメっぽい【図27-3】。

 

【図27-3】大事なM16を見つけてくれた白山に熱き抱擁。くさかべゆうへい『白山と三田さん』(小学館)1巻p180-181より

 

 第1話のラストで〈2人が一緒に上京するまで、あと700日〉とナレーションが入っており、3巻では上京した際に二人で住む部屋について検討している。いろんなことをすっ飛ばしすぎな気がするが、それもまたこの二人ならではだ。恋愛というより慈愛や情愛に近い二人の関係が、ゆっくりと深まっていく様子に癒される。

 はたして、この二人のキスシーンが描かれることはあるのか。そのときメガネがぶつかったりするのか。余計なお世話だが、気にかかる。

 

記事へのコメント

「はたして、この二人のキスシーンが描かれることはあるのか。そのときメガネがぶつかったりするのか。余計なお世話だが、気にかかる」

すごい解像度…!

白山と三田さん大好きなのでニヤニヤにながら読んでしまいました。

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