マンガの中のメガネとデブ【第14回】ヘボピー(望月三起也『ワイルド7』)

『ワイルド7』

 マンガの中の定番キャラとして欠かせないのがメガネとデブ。昭和の昔から令和の今に至るまで、個性的な面々が物語を盛り上げてきた。どちらかというとイケてないキャラとして主人公の引き立て役になることが多いが、時には主役を張ることもある。

 そんなメガネとデブたちの中でも特に印象に残るキャラをピックアップする連載。第14回は[デブ編]、アクションマンガの金字塔・望月三起也ワイルド7』(1969年~79年)から、巨漢ヘボピーにご登場願おう。

 法が裁けない悪党どもを問答無用で処刑するアウトロー警察部隊の活躍を描く『ワイルド7』。連載開始から50年以上が過ぎた今もなおクライムアクションの最高峰だ。絵が、セリフが、キャラクターが最高にカッコいい。ピタゴラスイッチ的に計算されたアクション描写も素晴らしい。連載時の単行本全48巻は当時の最長記録でもあった。

「毒を以て毒を制す」の発想で、選りすぐりの悪党を7人集めたチーム「ワイルド7」。リーダーの飛葉に次いで2人目のメンバーにスカウトされたのが、基地の町を根城とするヒッピー崩れの愚連隊のボス・ヘボピー(本名は辻)だった。ルックスは、もろにヘルズ・エンジェルス。巨体にふさわしい怪力の持ち主で、米軍基地を襲撃して拘束された際には、ゴリラでさえ動かせなかったという太い柱をぶっこ抜いた【図14-1】。

 

【図14-1】ゴリラも動かせなかった柱をぶっこ抜くヘボピー。望月三起也『ワイルド7』(少年画報社)2巻p120-121より

 

 その怪力と行動力を買われてワイルド7のメンバーとなったヘボピーは、後輪にメンバーたちのスペアタイヤを装着した特殊大型バイクを駆って、縁の下の力持ち的活躍を見せる。「バイク騎士事件」編では、襲い来るバイク騎士のサイドカーに装備された槍を素手でねじ曲げ、槍でパンクさせられた世界(メンバーの一人で元サーカス団員)のバイクのタイヤ交換も請け負う。伊達男の八百や爆弾魔の両国に比べれば地味ではあるが、その存在感は飛葉に次ぐナンバー2と言ってもいい。

 ヘボピーの怪力ぶりを見せつける場面は枚挙にいとまない。逃亡する悪党が乗ったエレベーターのワイヤーロープをつかんでむりやり停止させたり、入院中の飛葉へのプレゼントとしてバイクが入った箱を6階の病室のベランダまでロープで引っ張り上げたりと、まるで重機並み。重機といえば、炎上する車に閉じ込められた八百と両国を救うため、車を押しつぶしているクレーンのアームを持ち上げようとするシーンもあった。火にあぶられ、敵に撃たれても、力をゆるめないヘボピー。クレーンの操縦席の敵を倒した飛葉がアームを動かすと、左手でアーム、右手で車をつかんだまま火から引きずり出す【図14-2】。米軍基地襲撃事件で仲間を置いて逃げてしまったことを激しく後悔しているヘボピーは、二度と仲間を見殺しにするようなことはしないのだ。

 

【図14-2】握力も腕力もすごすぎる! 望月三起也『ワイルド7』(少年画報社)14巻p166-167より

 

 単に怪力というだけでなく、意外と身軽で木登りもうまい。落ちてきたコンクリートのかけらをボレーキックで見事に相手の銃を持つ手にヒットさせ、「俺って見かけによらず芸の細かいとこあるだろ?」と自画自賛したこともあった。格闘術にも長けていて、「地獄の神話」編のシカゴの殺し屋5本指の一人でヘボピーと同じぐらいの巨漢との対決では、拳法使いの相手に柔道や空手のような技で対抗。望月三起也ならではのケレン味あふれる演出で、特撮のミニチュアセットを舞台に繰り広げられたバトルシーンは圧巻だった【図14-3】。

 

【図14-3】まさに怪獣映画のようなド迫力シーン。望月三起也『ワイルド7』(少年画報社)25巻p122-123より

 

 一方、見た目どおりなのが豪快な食いっぷりだ。「誘拐のおきて」編では死刑の前(と思い込んでいた)というのに豚の丸焼きに丸ごとかぶりつき、「魔像の十字路」編で産油国首脳との会談の警備主任を任された際には職権濫用(?)でステーキを3人前注文。生きては出られぬ地獄の刑務所「緑の墓」に飛葉、両国とともに投獄されたときには、看守に小便をかけられた生肉にも食らいついた。しかし、それは反撃の体力を養うため。「オリをぬけようとおもうオオカミに見栄もはじもありゃしねえ!/ただひたすら体力をやしなうこと………そ それが………この地獄から生きてぬけ出るただひとつの手段……」と自分に言い聞かせながら涙ながらにむさぼり食うヘボピーの鬼気迫る姿に両国はたじろぎ、看守もすごすごと退散するしかなかった【図14-4】。

 

【図14-4】「腹が減っては戦ができぬ」とはいうものの、この執念には震撼。望月三起也『ワイルド7』(少年画報社)15巻p188-189より

 

 そんな彼も美女には弱い。「谷間のユリは鐘に散る」編では、丘の上のお屋敷の窓辺に佇む可憐な美少女にぞっこん。「首にロープ」編では、莫大な遺産をめぐって命を狙われた美女・木奈にデレデレ。が、その木奈こそが遺産を独り占めするために6人の姉妹を殺した犯人ではないかと八百は言う。しかし、プレイボーイの八百と違って女に縁の薄いヘボピーは八百の言葉より木奈の涙を信じ、「ヘボピーさん うれしいわ」と抱きつかれてまたデレデレ。ところが、木奈の淹れたコーヒーを飲んだヘボピーは急に意識が朦朧としてくる。

「さっきのんだコーヒーの中になにか」と聞くヘボピーに「いいえ いれないわ」と答える木奈。が、それに続けて「薬は角砂糖の方へ注射しておいたのよ/象をも1滴でたおすというキニーネ系の薬をね」とシレッと言う。そう、八百の推理どおり、すべては木奈が仕組んだことだったのだ。薬と裏切られたショックでへたり込むヘボピーに追い打ちをかけるように木奈が放ったセリフがまたひどい。「お人好しのブタだよ あんたは!!」って、いくらデブだからってあんまりだ!

 仲間思いで純情で、カッコつけなところもある愛すべきキャラ。まあ、ワイルド7の面々はだいたいみんなそうなのだが、なかでもその巨体がどこかユーモラスさを醸し出したのがヘボピーだった。最終章『魔像の十字路』編の絶体絶命の場面でも彼は、その怪力で倒れてくる柱を支え、仲間の逃げ道を確保する。「人間どうカッコよく死ぬかでそれまでの価値が決まってくる!!/俺は不様な死に方だけは男として御免だぜ!!」という彼の言葉に嘘はなかった。

 

記事へのコメント

飛葉の「ケモノになれっ」もいいがやはりヘボピーの「オリをぬけようとおもうオオカミに見栄もはじもありゃしねえ!」だな
緑の墓編また読みたいな

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