まずは漫画作品となった経緯を説明しましょう。
原作は稲田耕三という方の『高校放浪記』。
御自身の波乱万丈な高校時代を綴ったノンフィクションです。
それを読んだ吉岡道夫という方が感銘を受け、劇画の脚色を手掛けます。
この吉岡道夫という方を検索したところ、多くの麻雀劇画の原作者である情報が出ました。
ただ『ガクラン放浪記』の情報は見つからず、同一人物である確証は得られませんでした。
同じ方で間違いないとは思いますが。
そして画を担当されたのが弘兼憲史さん。
令和の今、日本の漫画界の頂点を担う方の御一人と言っていいくらいの大家です。
漫画家としてのデビューが1974年。
4年後の1978年にこの『ガクラン放浪記』の連載が『週刊少年キング』で始まります。
弘兼さんの少年誌での連載はこの作品だけではないでしょうか。
いえ連載だけでなく単発の読切も少年誌に描かれた情報は知りません。
初期の頃はあるかもしれません。
もしあれば是非読みたいですね。
1978年、私は高校二年生です。
当時貸本屋さんで借りて、週刊少年キングはよく読んでました。
『まんが道』『銀河鉄道999』『ワイルド7』『サイクル野郎』が人気を博している頃です。
週刊少年キング連載時の作品タイトルは「がくらんエレジー」。
何故後に『ガクラン放浪記』とタイトルが変わったのかは不明です。
単行本として出版される際に変更されたようですが、原作の「放浪記」に寄せたのかもしれません。
『週刊少年キング』の出版社である少年画報社から単行本が出た情報は確認できず、違う出版社の為変更する必要があった可能性もあります。
その辺の大人の事情はスルーして構わないでしょう。
新連載第1話を読んだ記憶は残ってません。
しかしとにかく凄い漫画が始まるからと、編集部が予告で激押ししていたのは良く憶えてます。
10年以上前の時代の話とはいえ作中の主人公と同じ高校生だったこともあって、連載中は面白く読みました。
記事を書くにあたって調べましたが連載開始が1978年33号。
そして連載終了が1979年33号。
ちょうど1年の連載です。
現在電子で読めるのかは確認できませんでした。
ネット上では古本が売られてますね。
では少しですが内容を紹介しましょう。
実名ですが作品内ですので敬称は略します。
主人公の稲田耕三は昭和39年4月に三重県の県立高校へ入学します。
医学部志望で成績も悪くない高校生ですが、通学途中の列車内で同じ学校の別学部の生徒二人に因縁をつけられるところから物語は始まります。
相手が二人でも臆さない稲田。
稲田は喧嘩が強く、徹底的に叩きのめします。
しかしこれがきっかけでその別学部から目をつけられた稲田。
詳しくは伏せますが、結局1年の秋に自主退学処分になります。
翌年に鳥取県米子の県立高校を受験し直し見事合格。
春には再び医学部を目指す2度目の高校1年生となります。
入学後まもなく同じ高校のお気に入りの女の子と二人でいるところへ、他校の生徒三人に絡まれます。
重ねて言いますが稲田は恐ろしく喧嘩が強く三人とも徹底的に叩きのめそうとするのですが、稲田のあまりの形相に怖くなった女の子が必死になって止めます。
そしてまたもやこれがきっかけで周りを巻き込み騒動となり、1年途中で退学となってしまいます。
三重県に戻った稲田の姿で本編は終了し、エピローグとして連載終了時に30歳となった現在の様子で物語は終わります。
短い1年半の高校生活(二つの学校への在籍は実質1年程度)を綴ったノンフィクションですが、あまりも濃密でやるせない青春劇です。
稲田が喧嘩するのは身にかかった火の粉を振り払う時と、仲間がやられた時の仕返しのみです。
決して喧嘩が好きで誰彼構わず吹っ掛ける無法者ではありません。
しかし喧嘩に勝った方が加害者になるのはある意味やむを得ないかもしれません。
どれほど相手に原因があり悪かろうとも、稲田の手でボロボロにされていますから。
また稲田は教師相手でも正論をぶつけ、言い返せない程やり込めます。
そんな稲田を気に入らない教師による理不尽な扱い。
自己の正義を貫き、そして喧嘩が強いが為に起こる負の連鎖。
父親も中学教師で、凝り固まった信念から息子の言い分に理解を示しません。
第1話の冒頭2ページ、脚色の吉岡道夫さんが漫画にした経緯を説明されてます。
残念ながら原作の『高校放浪記』は未読ですが、漫画からも充分稲田の苦悩と葛藤は伝わってきます。
実は一気に通して読むのは今回が初めてです。
これまで古書店でも全巻セットを見かけた記憶はありません。
マンバ通信で記事を書くようになってから、弘兼憲史さんの作品はまず「がくらんエレジー」を書くと決めてました。
それからバラで集めだして2年、ようやく揃えることが出来ました。
さくら出版から1999年に出された『弘兼憲史初期作品集』全11冊の内6冊が『ガクラン放浪記』。
再読ながら高校生稲田の生き様に引き込まれ、あっという間に読み終えましたよ。
連載終盤、二度目の退学の原因となる喧嘩を起こし警察に補導される稲田。
取調室に来た、自分にへつらわない稲田が嫌いな教師の仕打ちに我慢できず爆発します。
正に稲田の魂の叫びと言っていいこの2ページは、同じ昭和の学校教育を受けた身として刺さりすぎるくらい刺さります。
『ガクラン放浪記』最後のクライマックスであるこのエピソード、稲田は17歳です。
エピローグでは30歳の稲田。
13年間をどう過ごしてきたかは描かれてません。
原作の『高校放浪記』では書かれているかもしれません。
記事を書く際に原作も読んでからと思いましたが漫画から受けた面白さに影響があるかもと考え、敢えて読まずに書きました。
早急に入手して原作を読みたい所存です。
弘兼憲史さんはその後『週刊ヤングマガジン』で『ハロー張りネズミ』。
『ビッグコミックオリジナル』で『人間交差点』『黄昏流星群』。
そして『島耕作』シリーズと社会派漫画の第1人者として活躍されてます。
無名時代というと少し語弊があると思いますが、若き弘兼さん描く荒々しい喧嘩描写が冴える青春劇画。
機会があればお読みになるのをお勧めします。