「マリちゃん」に埋もれた秘宝は54年の時を経て甦った。藤子・F・不二雄「雲の中のミカド」

「マリちゃん」に埋もれた秘宝は54年の時を経て甦った。藤子・F・不二雄「雲の中のミカド」

藤子不二雄(A)さんの『まんが道』は私にとって長い付き合いとなった漫画作品です。

最初の連載である「あすなろ編」は『週刊少年チャンピオン』連載時にリアルタイムで読んでました。

次の『週刊少年キング』での連載は読んではいたものの、コミックを揃えるのは大人になってから。

第2部と名打たれた春雷編もFF(藤子不二雄)ランドでの連載終了後にコミックで読みました。

そして『愛…しりそめし頃に…』で完結。

43年間漫画読みとしての私に寄り添ってくれた大事な作品です。

その『まんが道』には藤子不二雄さん両名の過去作品が多く出てきますよね。

昭和20年代や30年代に描かれ、発表された作品の多くは入手困難な物ばかりです。

書籍という形で出版された物、雑誌掲載のみの物。『まんが道』で多くの初期作品を知りました。

もちろん読みたいとは思いましたよ。しかし子供の頃はそうは言ってもどうにもなりません。

大人になって古書漫画の世界に足を踏み入れて、如何にこの藤子初期作品を読むのが困難か思い知らされます。

出現率の低さは作品によってまちまちですが、漫画専門の古書店の目録には必ずと言っていいほど高額な(それだけ希少な)ものが掲載されてました。

藤子さんの初期作品は『まんが道』を読んで満足する、古書店の目録掲載写真を見る、店頭のガラスケースに入った現物を目にして「へぇ~」と唸る。

わずかながら雑誌の特集などで復刻された作品を読む。

これが私の藤子初期作品への接し方でした。

その藤子初期作品。特に印象深かったのは、「春雷編」第1巻です。

有名な「富山へ一旦帰省しての原稿落とし」の後、仕事がほとんど無く、自分が描きたい物をお互いに何か描こうという場面。

才野茂が描く「雲の中のミカド」を夢中になって読む満賀道雄。

ここで藤子(A)さんが紹介した「雲の中のミカド」には結構心惹かれました。

少しだけ内容を紹介しましょう。

 

とある山奥の谷底のさらに奥の奥。

平家の落人たちが何百年も当時のままの生活を保って暮らす、雲とカスミに包まれた隠里に迷い込んだ英夫と京子。

そこには安徳天皇の子孫であるミカドがいた。

そして英夫と京子は……

はい、ここまで。

是非御自分で読んで藤子Fワールドを堪能してください。

『まんが道』では当然すべてのページを藤子(A)さんが紹介してはいません。

面白そうだけど読むのは無理だろうな、とそのまま時を重ねます。

時代は昭和から平成へ。

ある時、とある漫画古書店の目録に「マリちゃん」というタイトルの雑誌付録が掲載されます。

表紙は人形の写真のみ。しかしこの付録に「雲の中のミカド」が収録されているとの説明が!

『少女』昭和31年3月号付録「マリちゃん」より

こんなのわかんねぇ~、と当時思ったのをはっきり憶えてます。

そして今から数年前、この「マリちゃん」を手に入れる機会がありました。

現物を見るのは初めてです。というよりこの「マリちゃん」は出現率が低く、画像ですらあまり目にしてません。

これが最初で最後の入手の機会かもしれないと思い、以前に見た目録での価格よりだいぶ安く手に入れる事が出来ました。

それでも奮発しましたけどね。

実際に手にして、改めて少ない情報に驚かされます。

『少女』3月号ふろく、としか書いてないのですよ。年度の記載も目次も無し。

人形2体が野球をしている写真は収録された4作品との関連性は無し。

私も生まれる前です。当時としてはこれで普通だったのでしょうか。

疑問はさておき、収録作品を紹介しておきましょう。

・「いつかこの日を」 オオトモヨシヤス(この作品の主人公がマリちゃんです)

・「雲の中のミカド」 藤子不二雄

・「親子鳥」 永島慎二

・「少女探偵シルクちゃんハットちゃん」 横山まさみち

本の大きさはA5サイズ、『藤子・F・不二雄大全集』とほぼ同じ大きさです。

その「雲の中のミカド」。

私が「マリちゃん」を入手する6年ほど前に『藤子・F・不二雄大全集 初期少女・幼年作品』に収録されてます。

今回の記事を書くにあたって買ってきました。

目の前に並ぶ三つの「雲の中のミカド」(「まんが道」では収録されている訳ではありませんが)。

書籍としての発行年度は

・「マリちゃん」 1957年

・『まんが道』春雷編 1987年

・『藤子・F・不二雄大全集』 2011年

藤子(A)さんが『まんが道』で取り上げてから24年後にようやく普通に読めるになったのは嬉しい限りですね。

原本が高額なのは仕方ありません。でも作品そのものは復刻として読むことが出来るのが理想ではないでしょうか。

「雲の中のミカド」以外にもこの『初期少女・幼年作品』にはこれまで原本以外で読む事が叶わなかった多くの作品が網羅されてます。

後述しますが「雲の中のミカド」のすぐ後に「バラとゆびわ」が収録されているのは意図してのことなんでしょうか。

何にせよ藤子Fさんの作品のほとんどを読むことが出来る『藤子・F・不二雄大全集』。

刊行が終了した今では全巻揃えるのは大変ですが、短編集だけでも揃えて所持したいと思っております。

『藤子・F・不二雄大全集』収録の「雲の中のミカド」は全ページ印刷物からの複写となってます。

この印刷物とはおそらくですが、原本の「マリちゃん」でしょう。

内容には違いがありません。ただし「マリちゃん」では「少女」という雑誌の読者層に合わせてだと推察しますが、ひらがなが多めです。

『少女』昭和31年3月号付録 「マリちゃん」より
『藤子・F・不二雄大全集 初期少女・幼年作品』(藤子・F・不二雄/小学館)より

大全集はひらがなの多くを漢字に修正してあります。

それともう一つ。「マリちゃん」では一箇所だけ柱に平家についての説明文があります。

「マリちゃん」より
『藤子・F・不二雄大全集 初期少女・幼年作品』(藤子・F・不二雄/小学館)より

他の3つの収録作にはこの様な注釈は無く、「雲の中のミカド」のここだけです。

源氏や平家を学ぶ前の少女層を意識して編集部がつけたのでしょうか。ルビは振ってあるものの何故か漢字多めです。

こんな謎の理由を探すのも原本を読む楽しみと言っていいでしょう。

そして『まんが道』内の「雲の中のミカド」。

『まんが道』(藤子不二雄/中央公論新社)より

印刷具合から見て新しく描かれたとしか思えません。なのに細部までほぼ同じなのですよ。

本当、目を凝らして見比べて微妙な違いが見受けられる程度。

藤子(A)さんのこだわりだと思います。

このこだわりが『まんが道』を読む読者をひきつけ、長年続いた理由の一つではないでしょうか。

 

ではもう一つ。

『まんが道』では『少女クラブ』の別冊フロクとされてます。

「バラとゆびわ」の原稿を遅らせて迷惑をかけた少女クラブの小村さんという編集者から、急遽5日間で32ページの作品を描いてくれないかと頼まれます。

とても無理だと両名で断りますが、才野が描きかけの「雲の中のミカド」を思い出し引き受ける。

小村さんへの恩返しとなるとても心地良い展開です。

『少女』は光文社。『少女クラブ』は講談社。

『バラとゆびわ』は実際に「少女クラブ」の別冊付録として刊行されてます。

事実はどうだったかなんて知りたいとは思いますがそれは野暮でしょう。

脚色もあるから面白く読めるのです。そう思いませんか。

『藤子・F・不二雄大全集』は先述した様に「雲の中のミカド」のすぐ後に「バラとゆびわ」が収録されてます。

意図しての順序だとしたら素敵ですね。私はそうだと信じます。

 

(※編集部注…藤子・F・不二雄ミュージアムが2021年9月3日(金)に開館10周年を迎えることを記念して、『藤子・F・不二雄大全集』が9月3日、11月1日、12月1日に順次電子書籍で配信開始されます

『藤子・F・不二雄大全集』公式サイト

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