弥生美術館にて、2022年1月29日から5月29日まで「くらもちふさこ展」が開催されます。
80年代中頃は、大の「別マ」(『別冊マーガレット』)ブームでした。
いくえみ綾、紡木たくといった、若くて新鮮で繊細な作風の作家や、安定の大御所くらもちふさこ先生などがひしめき、発売日にはこっそりみんな学校に持ってきて回し読みしたものでした。
『A-Girl』は、そんな頃の作品です。
リアルタイムで読んでいたとき、ものすごく嫌悪感がありました。
それまでの少女マンガの主人公は、女らしさがなくお転婆で、登場する男性は王子様のように優しかった。ツンデレ男子が出てきても、それは過去のトラウマのせいでした。
ところがこの作品はまるで違うんです。
主人公のマリ子は、お料理が得意で、男にだらしない、ちょっと頭の弱い感じの女の子。これだけでもう「えっ!?」って驚きです。
「男はこうあるべき」「女はこうあるべき」というジェンダーバイアスに反抗するのが少女マンガの役割でもありました。大人しくして、男性の言うことに従って、かわいいお嫁さんになりましょうといった社会に対して「俺らもっと自由に生きたいんだよ!」と叫んできたわけです。『はいからさんが通る』、『キャンディ・キャンディ』といった大人気少女マンガはみな働く女性が主人公でした。木登りは得意でも家事なんてできません。
1984年の連載当時、お料理が得意で家庭的なマリ子はとても珍しいキャラだったんです。
その上、彼女が付き合っているのがDV五島くん。クソ男です。
気に入らないことがあるとすぐマリ子を殴り、小さなことですぐにプライドが傷つけられて怒り、マリ子のことはすぐバカにして、嫉妬深い。いいとこまるでなしなんです。こんなクソ男、これまで少女マンガに出てきたかしら?
DVという言葉が日本に浸透したのはいつくらいでしょうか。恐らく90年代以降だったと思います。70年代の少女マンガにはわりと暴力的な描写が多く、社会で男性が女性に暴力を振るうことが許容されていたことが窺えます。『王家の紋章』のメンフィスなんて、連載序盤はどえらいDV男じゃないですか。
五島くんも、典型的なDV男です。DV男の傾向を調べてみると、「五島かよ」って項目が並びます。でも悲しいことに、未だにこういう男子ってウジャウジャいそうです。
主人公カップルにまったく共感も憧れも抱けない珍しい作品でした。
そしてマリ子は、人気モデルの夏目くんと同じ高校に通ってます。モデルなのにマリ子たちが住むアパートの管理人です。このあたりでようやく少女マンガっぽくなってきました。
私は電車に乗るまでが自宅だと思ってるので、家の近所はわりとどうでもいい格好でウロウロするんですが、近所に好きな人がいたら、緊張感ハンパないだろうなと思います。毎日ハリがありそうですね。
すっごく気になる人が同じアパートに住んでるとか、「お色気なしで同棲することに!」みたいなシチュエーションってエターナル萌えですよね。『めぞん一刻』も、連載当時は受験生が「大学に受かったらこんなかわいい管理人さんの住む下宿に……!」みたいな夢を見てたみたいだし。
くらもち作品に登場する男子は、けっこう女ったらしです。主人公とくっつく前は他の女とけっこうイチャイチャやってます。「結婚するなら、遊び終えた男がいい」なんて言われてましたが、それを地で行ってる感じ。
夏目くんのすごいのは、女ったらしにもほどがあって、誰が付き合ってる女なのかよくわからないけど、とりあえず3人くらいは同時進行してるところです。中にはプラトニックな相手もいるし、すっごく深い仲の相手もいる。人によって付き合い方を変えるんですね、たらしだなあ!!
夏目くんだって、イケメンで一緒にいれば心地いいけど一途とはほど遠い。マリ子ちゃんはかわいいし女子力高いんだから、もっといい男と付き合いなさいよ、と思ってしまいます。でも、自己評価が低くて、ダメな男とばっかり付き合う女の子もまた多そうです。
恋に恋してるような恋愛未経験の女子には共感度は低かったけど、すごくリアルな話だったのかもしれません。
この作品は、くらもち先生のチャレンジングな作品だったのでは。当時の読者の評価が気になります。