『マンバ通信』の伊藤ガビンです。
このサイトは「無闇矢鱈にマンガを読むキッカケを作る」というポリシーで運営されております。そのポリシーを基に新たなシリーズ『1巻でました!!』をはじめたいと思います。
えー、なんの商売でも最初が肝心。映画の初週興行成績、テレビドラマの第一回視聴率などは、その後の展開を大きく左右しますよね。マンガも同様に「第1巻」の売れ行きが、その後に展開を揺さぶるとはよく言われることです。
ですけども。
マンガほど、この「最初の人気」が大きく影響するジャンルってないのではないでしょうか?
ご存知の通り、多くの場合マンガは日々の連載を続けながら、同時にストーリー展開を創作してゆきます。壮大なプランで始めても、人気がなく打ち切りが決まれば急速に物語を畳み始めなければなりません。逆に人気が出過ぎて辞め時を失うマンガもあったりしますが。
そんなわけで「マンバ通信」では、いま猛烈に推したいマンガの「1巻め」発売に合わせて、鼻息荒く応援していきたいんです。なぜなら、それが作家が生み出そうとしたものが、きちんと世に出るといいよなーと思うからであります。ふー。
第一回めの『1巻でました!!』は、2017年1月6日発売、田中相さんの『LIMBO THE KING』です。
これね〜〜〜〜〜、SF作品ですね。未来の米国が舞台の。雑誌ITANで連載しているんだけど、めっちゃ面白いんですよ。もう早く早く続きが読みたい。
最初の1話が試し読みできます。
内容について触れないわけにいかないので、試し読みできる範囲で書きますと、主人公は軍人ですね。不発弾の爆発に巻き込まれ右足を失ったアダム・ガーフィールド。
この未来世界には、かつて「眠り病」と呼ばれる奇病が蔓延したことがあって、それを治療するためには患者の脳内に潜入するダイバーの力が必要だった。そのダイバーの英雄”キング”に、アダムが出会うことでストーリーが動き出し、そう、なところで第一話は終わってます。
興味そそられる出だしじゃないでしょうか。
しかしね〜〜〜〜、田中相さんと言えば代表作『千年万年りんごの子』でしょう?
昭和の東北?の雪深いりんごの村を舞台にした伝奇的な物語。メディア芸術祭マンガ部門で新人賞とったりして、かなり話題になったマンガですよね。これは紛れもない傑作。わたし、これ何回も買って、人に送ったりして読ませまくっておりました。最高の作品ですね。これが田中相さんの連載初長編。まだ読んでない人いたら、読んでみてくださいね。
寒村に暮らす、こんな人達の物語。
主人公夫婦。
ふんわりした気分になりますねえ。
かたや『LIMBO THE KING』の主人公アダム。
ハードコアですやん。
もうひとりの重要人物ルネ・ウィンター。
か、かっこいい……。
やっぱり『千年万年りんごの子』とはちょっと雰囲気ちがいますよね。
- 昭和と未来
- 東北と米国
- 仲睦まじい夫婦 軍人たち
同じところがない!
というわけで、すごーく面白いにもかかわらず心配になったわけです。これまでの田中相ファンにちゃんと届いてるの? 今回の物語を好むようなSFファン、バディものファンに届いてるの??って。
田中相さんが、どうしてこういうマンガを描くことになったのか知りたくてしょうがなくなったので、田中相先生に直接聞いてみることにしました!
──というわけで、ちょっと短めのインタビューをさせてください。
はい。
──いやあ、『LIMBO THE KING』面白いナーと心から思っているのですが、それにしてもこれまでと全然雰囲気ちがいますよね。
そうですか?
──あれ……だってちがうでしょ。自分ではそのへんどう思ってるんですか?
そう〜〜〜ですかね? ちがうかな?
──いや『千年万年りんごの子』(以下りんご)は日本の田舎の話だし、そのあとの『その娘、武蔵』は学園スポーツものだったでしょ。武蔵が始まった時にも、だいぶ飛躍があった気がしますけど、今回はもっとすごい変わったナーって思いましたけど。
あははは。そっか。言われてみればそうですね。みんなからいつも違うと言われます。
──短編集とりんごは繋がってると思うけど。
あれ? 短編集とこれは繋がってないですか? ベトナムの話を描いたり、王様の話はトルコとか中東の要素があって…。
──なるほど。そう言われると。
そう考えると、りんごもこれも私の中では元はいっしょかなっていうのはありますね。
──しかし、どうしてこういう設定になったのかなというのは非常に気になります。
『その娘、武蔵』が終わって、次の題材をどんな方向にしようかと思った時に、「いま本当に好きなものを描いてみよう」と思ったんですよね。「キャーーッ!!」 みたいなものを描こうと思って。
──田中さんが、こういうものを好きだっていうのも意外だったんですけど。SFとかがもともと大好きってことなんですか?
はい。父親がスタートレック大好きで、そういう影響もあって。
あとは、むかしの少女マンガってアメリカが舞台のものがすごく多かったんですよね、ずっとそういうものに憧れがあって。
──あー! そういうこと! 吉田秋生さんの『BANANA FISH』あたりですか? そういう匂いが『LIMBO THE KING』にはありますね!
そうです、そうです。同じ吉田秋生さんの『カリフォルニア物語』とか、成田美名子さんの『CIPHER』とか。
──たしかに。アメリカを舞台にしたものたくさんありましたね。
それがすごい好きで。私の憧れのアメリカなんです。
──すごくわかりやすい! つまり、そのむかし、少女マンガというジャンルにはアメリカなどの海外を舞台にしたものがたくさんあったけれど、今は意外となくない?? というそういうことですか?
それですね!(笑)
いまってマンガが「いまここ」になってると思うんですよね。ほとんど日本の話でしょう。ちょっとムリして外国を描くということが少なくなりましたよね。
──たしかに。外国が身近になった分、描きづらくなったというのはあるのかもしれないですね。
そうです。むかしはファンタジーとして外国を舞台にしたものを描いていたと思うんですよね。でもいまは旅行にもすぐに行けるし、ネットで世界と繋がっているから、憧れること自体が少ないのかもしれないですね。
でも、私はね、いまは旅行で外国にも行けるようになったけれど、それでも未だに「マンガの外国」に憧れ続けているんですよ。
──うわ〜〜。すごいいい話。
ははは。
──LIMBO THE KINGが目指すところが明瞭になりました! なんかもう聞く事これで終わりでいいかも(笑)。
だから読んでくれた人から「あの頃のマンガみたい」って言われた時には「伝わってる!」と思って、「ね! そういうの最近なかったよね!」って言いたい気持ちなんです。
私は、こういうSFっぽい、アクションミステリーっていうのかな、そういうものを自分が描けると思って描き始めたんじゃないんですよ。好きだからやってみよう! と思ってやってみてるんですね。
──どうしたんですか。めちゃいい話すぎるんだけど(笑)。
こういうのが好きなんですよね。あと、海外ドラマも好きで、全然追いつけないのですが、あんな感じの骨太な作品を描きたいっていう気持ちもあって。
──その雰囲気もありますねえ。海外ドラマも見る環境が急速に整いましたよね。Netflixとかで見てるんですか?
NetflixもHuluもスターチャンネルも観てますね。とにかく好きなんですよね。そういうものを描いたらウケるとかってことは考えてなくて、描いたら私が楽しいな! と思って。でも、そういうものを描けたらみんなも楽しいかな〜とも思ってます。
──これはマンガ家のタナカカツキさんとかとよく話をするんだけど、むかしのマンガ家ってシリアスなものからギャグから男性が少女マンガ描いたりとか、なんでも描いたでしょ。だけどいつからかスポーツだったらスポーツマンガを描き続けるとか専業化が進んだじゃないですか。田中相さんの絵柄の変化も含めていろんなマンガを描くのって、むかしながらのマンガ家のスタイルなのかもしれないですね。宣伝しにくそうだけど。
やっぱり宣伝しにくいですかねー。今回タイトルに合わせて、表紙の名前もAI TANAKAにしようとしたら「誰かわかんないと思うよ」と言われてやめたんですけど。
──完全にわからないですよ。
でも自分の中では、ぜんぜんびっくりするような変化じゃないんだけどなあ〜。
だって『りんご』もSFみたいな要素あったでしょう。あ、神みたいなものと科学みたいなものもあんまり遠いと思っていないのかもしれないです。
──伝奇ものとSFがかなり近い、みたいな感じですかね。
そうです。舞台が違うだけで、上の方で繋がっているというか。
──絵柄の違いはどうですか? 物語が要求する絵柄がはやり違ってくるわけですよね。
ええ。それで今回は背景にアシスタントさんにしっかり入ってもらうことにしました。あの頃の少女マンガのイメージが私の中にはっきりとあって、それに近づけるためにちゃんと背景も描きたいんですよね。自分の画力では限界があってアシスタントの方に手伝っていただいています。 そういう意味では絵柄も結構かわったようにみえるかもしれませんね。
──さっきは、むかしの、外国が舞台の少女マンガの話をされましたけど、むかしの少女マンガはSFも多いですよね。そういうものの影響も受けてますか?
まさしくそうですね。萩尾望都先生を筆頭に。萩尾先生の全盛期をリアルタイムで読んでいたのは私よりもっと上の世代だと思うのですが、母がマンガ好きで読んでいたのでその影響もあります。
──竹宮恵子さん、山岸凉子さん、みんなSFの要素があるものを描いてましたよね。
そうでしたね。それと関係あるのか、SF的設定の中でもう少し人間関係にスポットを当てたようなハートフルな方向のものを懐かしく思う気持ちがあって。
──ストーリーの流れ的には、バディものになっていくんだろうな〜と思うわけですけど、バディものお好きなんですか。
もちろん! 大好きです。男子が二人でわちゃわちゃした感じの。
例えばバディものっていうと警官というイメージありませんか?『トゥルー・ディテクティブ』とか。
──『相棒』とか。
『あぶない刑事』とか。でも今回は、警官じゃないんだけど、いっしょにいなくちゃいけない二人を描きたいなと思って。
──そういうの好きな人にも読んでもらいたいですね。ところで、この後、物語はどうなっていくんでしょう。
どうなっていく? なに言ったらいいんだろ。もう最後まで決まってるんだけど。
──おお。ストーリーが最後までできてるんですね!
いや「ある区切り」までができてるってことです。シーズン1の終わりのような。
──海外ドラマ方式じゃないですか!
そうなんです(笑)。そういう風に作りました。
──では、このマンガを読んで欲しいのは、まずは「あの頃の」マンガが好きだった……
少女たち!
──ですね。あの頃のマンガが好きだった少女たち、そして、骨太な海外ドラマが好きなような人たち! そんな人たちに読んでほしいですね。
はい。最初は自分と同じような年代の人たちにことを考えてたんだけど、「あの頃」のマンガを知らない人たちにも、それに男性にも読んでもらえると嬉しいですね。
──盛り上げてまいりましょう〜。
とのことでした〜。
たしかに『LIMBO THE KING』は、最近接していなかった「外国を舞台にした少女マンガ」の匂いを感じます。だけどそれはノスタルジーじゃなくて、田中さんが語るように現在進行系の「骨太の海外ドラマ」の要素も入っています。
だから、かつての少女マンガを系譜を継ぎながら「いまだったらこうするよね!」というマンガになっているのだと思います。
あー、続きが読みたい!
田中相さんの最新作『LIMBO THE KING』の感想はこちらから!!
LIMBO THE KING に関する口コミ・感想・レビューなどが集まっています!
あ、余談ですけども、田中相さんは、ここ『マンバ通信』で激しく連載中の細馬宏通さんのバンドかえる目の熱烈なファンなんですよ。
そしてなんと、かえる目の最新アルバム『切符』のジャケットを描いてるんです!
切符
田中相さんの完結作品の感想もマンバには集まっています!!