『私の百合はお仕事です!』作者が商業デビュー作で既に見せていた輝き—未幡『少女²』

『少女² 完全版』

 未幡『私の百合はお仕事です!』のアニメ版が放映中ですね。09年にたまたま作者の商業デビュー作「花筐(はながたみ)」を読んでからファンになり応援していた身としては色々と感慨深いものがあります。というわけで今回の紹介は、その「花筐」を含む作品集である『少女² (しょうじょのじじょう)』です。単行本は一迅社・百合姫コミックスから15年に最初のバージョンが、18年に「完全版」が発行されています。収録されているのは、「花筐」とその続編である「ベリーガーデン」「イエイオン」の3部作+おまけの2ページ短編「加賀先輩と読み合わせ」(最初の単行本ではこのタイトルはなく「EX」とのみ表記)、連作というよりは前後編の読切に近い「even」「step in」の2作、そして単独の読切「shabon」の合わせて7作。「完全版」だと「shabon」の続編「shabonのあと」と、読切「土曜のコーヒーは犯人と」およびおまけ短編「平日のコーヒーは探偵と」が追加されて10作となっています。
 初出についても触れておきましょう。「花筐」シリーズは、09〜10年にかけてコスミック出版から刊行されたアンソロジー『百合少女』Vol.1〜3に掲載されたものです。10年前後は百合漫画専門誌が行けるんじゃないかという空気があって、『総合タワーリシチ』などで知られる『つぼみ』(芳文社、09〜12年)、『加瀬さん』シリーズなどで知られる『ひらり、』(新書館、10〜14年)といったように、アンソロジー形式での百合漫画雑誌が相次いで刊行されていたのです(……まあ、カッコ内の年を見れば分かるように、あまり長生きはできなかったんですが)。『百合少女』は3号で終わったその中でもひときわマイナーな存在なので、知らないという人も多いかとも思います。筆者は当時この辺のアンソロジーは一通り押さえていて(昔の記事でも同じこと書きましたが、『男!日本海』の話とかばっかりしてるから信じてもらえないかもしれないけど、当方はいちおう百合好きです)、そこで「花筐」を読んですっかりやられてしまったのでした。なお、「加賀先輩と読み合わせ」は最初の単行本時の描き下ろし、「even」「step in」は『ひらり、』のVol.2と3、「shabon」「shabonのあと」は14〜15年の同人誌、「土曜のコーヒーは犯人と」は16年の『コミック百合姫』が初出となっております。
 さて内容です。「花筐」の舞台となるのは高校の演劇部。美人で芝居も達者、演劇部内外の後輩女生徒たちの憧れの的で高嶺の花である加賀先輩と、そんな彼女に(図々しいくらい)一途にアタックする演劇部後輩の雪峯さん、この二人がメインのキャラクターです。

『少女² 完全版』8〜9ページより

 本作の魅力は、少女たちの関係性を描く繊細な手付きにあります。大まかなストーリーは、「過去の経験から、憧れは憧れ止まりにしてもらって、告白のような一線を越えてくることに対しては及び腰な加賀先輩が、一度拒絶されても諦めない雪峯さんに心を開いていく」という、奇をてらったところはないものなのですが、独特なコマの割り方の効果もあって、とても引き込まれるものに仕上がっています。

『少女² 完全版』16〜17ページより

 「even」「step in」も、「成長して関係性が変わることに揺れる幼なじみ」というやはり奇をてらっていない設定ですし、読切の「shabon」になると、付き合ってる二人が誕生日の朝に行う会話劇という、大きなストーリーが存在しないものなんですが、丁寧な描写で読ませます。少女たちの青春の中における一瞬の切り取り方が実にうまい。ちなみにこの「shabon」、「完全版」では一部がこのようにカラーになっているという特典があります。最初の版から3年というわずかな期間での完全版発売でしたが、こういうのがあるのは嬉しいところですね。

『少女² 完全版』ページより

 

 ここからはおまけ。本書収録作、実は単行本時で絵が全面的に描き直されています(単行本のあとがき漫画でも「(「shabon」以外の)5編とも結構修正しました」と書かれていますが)。初出時と単行本を比べてみましょう。

『百合少女 Vol.3』16〜17ページより
『少女²』62〜63ページより

 ご覧の通り、初出時は、輪郭線で繋げていない部分があるように線の強弱にかなりくっきりとしたコントラストがあったのが特徴だったのですが、単行本時では丸められています。瞳の描き方なんかも変化していますね。これは「昔の絵のほうが良かった」というのではもちろんないですし(描き直しで絵の魅力は増していると思います)、漫画家さんには昔の絵を出されると恥ずかしいという方もいるのは知っているので、こうやって比較してしまっているのはちと申し訳ないなという気持ちもあるのですが、それはそれとして、こういうのに割と鈍感で「単行本で加筆修正」とかは言われないと気づかない方である筆者が、単行本を一読して「描き直されてる」と気付いたほどには昔の絵にも印象的な魅力があったという、まあそんな話でございます。

 

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