突然ですが、筆者は一応百合好きの端くれです。……いや、初回から「バイブドアのヤリエモン」とか紹介してる(https://manba.co.jp/manba_magazines/11017)から信じてもらえないかもしれませんが(自業自得)、本当です。勤めてたの10年以上前だしもうレーベルもなくなったので書きますが、むかし一迅社文庫というレーベルで瑞智士記氏の『あまがみエメンタール』という百合ラノベの担当編集をしたこともあるくらいです。同作、共依存百合ラノベの良い作品だと思っているので、どこか復刊してくれないですかね……(秋波。筆者はもう出版社勤めから足を洗っている身なので……)。ちなみに、一部で真偽不明の噂のように言われている「伊藤計劃氏が『鎌とハンマーで戦う社会主義魔法少女ラノベ』を書く予定を立てていた」というのは本当の話で、筆者が伊藤氏にダメ元で依頼してみたら、「ラノベやってみたいと思ってましたし、いま早川の2作目(『ハーモニー』)書いてて、次は河出(『屍者の帝国』)との約束があるので、その次でも大丈夫ならやります」とOKしてくれたんですね。その後のことを考えると筆者は今でも本当に悲しくてなりませんが。
……湿っぽい話はここまでとしまして本題。というわけで今回は、2020年に出た商業百合コミックで個人的に一番好きな作品であるところの、澄谷ゼニコ『魔女が恋する5秒前』をご紹介します。
まずは書誌情報から。本作は、2018年の『コミック百合姫』に掲載された表題作と、2020年に同誌掲載の続編「魔女と恋する5秒前」、および独立作「デモンズハーレム」という3本の読切を収録した短編集で、一迅社の百合姫コミックスから単行本が出ています(ここまで書いて、部署が違うとはいえ古巣の本を紹介してることに気づきましたが、特になにかはないですよ、と一応)。
それにしても本書、まずカバーイラストが良いですね。この二人の距離感と表情。これを見てバビッと来るような方なら即買って正解です。左側は”孤高の大魔女”メグ(508歳)。森の奥に住み、街に出ては悪事(と言っても、「街中の魚に手足が生えて踊りだす」といったようなしょうもないイタズラ)を繰り返しながらも、実力は本物で、捕まえに来た数多の魔女狩りは一蹴され続けてきたという迷惑な人です。
で、右側は”魔女狩り”の一人であるリリス(26歳)。何度も失敗しながらも、諦めずにメグを捕まえようと執念を燃やし続ける人です。
そういうわけで本作は、この二人のケンカップルっぷりをニコニコしながら眺める、そういう作品となります。
二人とも気が強くて、プライドが高くて(傍からはバレバレなのに)なかなか本心を認めたがらず、そしてチョロい。そんな二人が百面相しながら仲良くケンカしているうちにあるアクシデントが起き、ヤケクソのような告白タイムへなし崩しに突入してしまうの、いやーいいもん見さしてもらいましたわと手を合わせるよりありません。ケンカップル好きにはぜひともオススメしたい一品です。
併録の「デモンズハーレム」は、人でない者が見える体質以外は普通の女子高生・カンナが、助けた堕天使と悪魔に惚れられた結果ワチャワチャ大変なことにというハーレムコメディで、これもコロコロ変わる表情が魅力的な一品となっております。
とにもかくにも、表紙を見て感じるものがあった方は読んで損なしでございますよ、ともう一度念を押して〆とさせていただきます。