麒麟・川島とかまいたち・山内が「面白いマンガ」に沼のようにハマって楽しむマンガバラエティ『川島・山内のマンガ沼』。今回は、前回と次回の2回にわたって放送される「お初マンガ調査隊」をお送りします(放送を見逃した方はTVerもご覧ください)。
終戦から2年後に誕生した、野球マンガのお初
川島 今回のテーマは新企画「お初マンガ調査隊」! お初マンガ調査隊とは、「マンガの各ジャンルのお初は一体どんなマンガだったのか?」を、番組が専門家とともに調査して、マンガ知識を深めてもらおうという企画でございます。
山内 何がお初なのか、意外にわからないと思いますよ。
川島 やっぱりまずは野球マンガじゃないですか。では「野球マンガのお初」から行きましょう。まずはこれまでの野球マンガの歴史を振り返ります。
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川島 90年代は、もう我々ど真ん中ですね。『MAJOR』とかね。
山内 ジャイロボール、投げようとしてました(笑)。
川島 80年代は『タッチ』。正直、僕らの世代の野球マンガの祖先って『タッチ』です。当時は『ドカベン』なんて(リアルタイムじゃないから)わからなかったから。で、その前が『巨人の星』。
山内 それよりも前の作品って、めっちゃ古いですよ? 1947年って群を抜いて古いです。名前を聞いて「あ、あのマンガなんだ」ってなるんですかね?
川島 だいたい野球マンガといえば、『巨人の星』が長男じゃない? そのずっと前、1947年発表の野球マンガのお初は、どんなマンガなんでしょう。こちらをご覧下さい。
「お初マンガ調査隊」最初のテーマは野球マンガ。まずは文献ネットで調査開始。しかし昔のマンガは資料も乏しく、調査は困難を極めた。そこでマンガ史に詳しい専門家にアポをとり、聞いてみることに。協力してくれたのは新潟県の開志専門職大学 アニメ・マンガ学部 講師の雜賀忠宏さん。
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雜賀さん「今のところ野球漫画のパイオニアとして位置づけられているのは、1947年に『漫画少年』という雑誌に掲載された井上一雄の『バット君』という作品です」
終戦から2年後の1947年12月から「漫画少年」にて連載していた「バット君」。作者は井上一雄先生。単行本は全1巻。ストーリーは、中学生の主人公・バット君こと長井抜十(ながい・ばっとう)が、野球チームに入りレギュラー選手になるための奮闘を描く、正真正銘の野球マンガ。
雜賀さん「野球マンガというと、試合の勝ち負けが大きく取り上げられると思われがちなんですけれども、この作品はむしろ野球部に所属している主人公の、日常の練習風景や家族との日常なんかが主な内容となっています」
そんな記念すべき野球マンガのお初の第1話が「チーム加入の巻」。野球チームに入れてもらおうと先生に頼み込むバット君。しかし投球も打撃もまるでダメ。これではチームに入れてもらえそうもありません。
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ここでお初マンガクイズ。
「このあとバット君は、あることをして野球チームに入れてもらうことができました。一体何をしたのでしょうか?」
山内 どういう描き方してるんだろう、この時代って。もうストレートに「監督の靴を舐めた」。
川島 嫌やなー、こびへつらうバット君(笑)。この時代だから「当時高価だったバナナを差し入れ」。バナナとか卵をワイロにした。さあ正解を見てみましょう。
正解発表。
ノックの練習をしていると、打ったボールが民家に入ってしまいます。
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「アッ へいの中へ入っちゃった」
「こりゃいかん」
「バット君 いいよ いいよ とりにいかなくても…」
「だって あの家に…」
「その家のおやじがすごいんだ…今までだって一ツもボールかえさないんだよ」
「そんなバカなッ」
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「いかんッ ボールはぜったいにかえさん ぐずぐずするとたたきだすゾ」
「ホラ始った」
「だけど逃げてこんネ」
「のされちゃったんじゃないか」
「オイオイ そんな事いってないで誰かいってやれよ」
「アッ きたきた」
バット君が帰ってくると…
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「どなるだけどなったら 今までの分も みんなかえしてくれました」
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「えらいぞッ 気にいった! チームに入れてやるから当分ホケツで練習したまえ」
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「バンザーイ バンザイ バンザイ」
川島 このコマ、戦後感ありますね(笑)。
正解は「こわいオヤジの家からボールを取り返してきたからチームに入れてもらえた」
川島 いや当たるわけないやん(笑)。
山内 (実物を見ながら)こういう感じなんですね。野球のシーンもありますけど、もう本当に野球をしている子の日常を描いている。
川島 バット君、バット買おうとしてるけど160円ですよ。しかもお金が足りないって。このマンガが野球マンガの礎を作ってくれたから、後に友情・根性・スポ根が生まれたんでしょうね。
フキダシは大きな発明だった
川島 続いては4コママンガのお初です。
山内 だいぶ古いと思いますよ。
川島 これは新聞じゃないの?
山内 新聞の『サザエさん』のイメージがありますね。
川島 では4コママンガのお初です。どうぞ。
調査に協力してくれたのは、宝塚大学 東京メディア芸術学部教授の竹内一郎さん。日本マンガの源流を調査した書籍も出版されている、古いマンガを知り尽くすマンガ研究の第一人者です。実は「さいふうめい」の名義で『哲也 -雀聖と呼ばれた男-』の原案も担当しています。
山内 ええええええ! あなたがさいふうめい!?
そんな竹内教授に、4コママンガのお初について聞いてみると…。
竹内教授「4コママンガのお初というのは非常に特定が難しいんです。というのは、風刺画、あるいは挿絵画の中にも、4つのコマにわかれているものがずいぶんあります。したがって、どれを4コマとするか、ここから始めなければいけません。私は現在の4コママンガのように
・コマの連続性で一連の話が進んで
・最後オチがある
・コマの中に吹き出しがある
これが現代の4コママンガのスタイルだと思います。したがって、そのお初マンガといえば、私は北沢楽天の作品ではないかと思います」
北沢楽天とは、明治から昭和にかけて活躍したマンガ家。戦前に発行された楽天の漫画は、あの手塚治虫も影響を受けたと言われています。竹内一郎教授がいう4コママンガのお初は…。
竹内教授「福沢諭吉が創刊した新聞に『時事新報』というのがあります。北沢楽天はその『時事新報』に招かれて『時事漫画』を描きました。その中で明治35年に描いたものが最初の4コママンガだと私は思うんです」
川島 明治…。
竹内教授「ただし、この北沢楽天のお初の4コママンガと思われるものは、4コマじゃなくて5コマになってるんですね。5コママンガなんですが、4コママンガの源流と私は考えています」
1902年、明治35年3月16日の新聞「時事漫画」に掲載された4コママンガのお初とは、どんな内容だったのか?
川島 4コママンガなのに5コマがお初だって。
山内 それ、5コママンガです(笑)。
川島 5コマでやっていったけど、4でいけるんちゃう?となったということですかね。これを源流とマンガ沼ではさせてください。では4コママンガのお初、ご覧ください。
「だまし損」
だますものは だまさる
北沢楽天
1902年(明治35年)3月16日 時事漫画より
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(龍渓書舎刊行 復刻版より)画像提供:さいたま市立漫画会館
「サ 坊はよい子だからお薬を呑んで飲んでおしまい」
「坊はおっくはいやいや」
「サ 呑まないといつまでも病気がなおらないよ」
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(龍渓書舎刊行 復刻版より)画像提供:さいたま市立漫画会館
「お薬を呑んだらほんとの鉄砲も長いサーベルも買って上げるよ」
「オ 善い善い おとっさんもほしいな 坊が呑まないとおとなりの子にやってしまうよ」
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(龍渓書舎刊行 復刻版より)画像提供:さいたま市立漫画会館
「善い子は目をつぶっている内に呑んでしまうヨ」
「オ まだかな まだかな」
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(龍渓書舎刊行 復刻版より)画像提供:さいたま市立漫画会館
「サ 鉄砲とサーベルをおくれ」
「それはネ 今度神田のおばさんが買ってくれるとサ」
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(龍渓書舎刊行 復刻版より)画像提供:さいたま市立漫画会館
「そんならいやだい」
と、耳から薬を出す坊やでした。
川島 佐渡島さんがいたら「ちょっとセリフ多いですねぇ」というよね(笑)。「ちょっと説明しすぎかなぁ…」。やっぱりこの見た目とかが全部、時代を表してますよ。サーベルのおもちゃとか、今ないから。
山内 でも5コマいらないなって思います。4コマ以内になりそうですよね。
川島 だから5コマ目の勢い。ツッコミないんですよね。
山内 顔でびっくりしてます。耳に入れる必要、全然ない。
川島 (実物のコピーを見ながら)綺麗な絵ですね。
山内 絵うまいっすね。
川島 (同じ紙面に)2コママンガもあるやん?
スタッフ それはセリフが外に書いてあるので(=フキダシがないのでお初の対象ではない)。
川島 じゃ、ほんまにフキダシってすごい発明だったんだ。
山内 吹き出しの始まりってこれなんですか?
川島 またそんなこと言うて……言うのは簡単やけどやな。
スタッフ これは全コマがフキダシだけで完結している作品ということで……。
川島 いや……ちょっと追加調査で(笑)。
川島 怒鳴ったときのトゲトゲのフキダシあるやん? あれのお初とかね。あと、心の声のホワンホワンしたフキダシとかを……調べて(笑)?
山内 さいふうめいに聞いてください(笑)。
次回放送は「お初マンガ調査隊」後編をお送りします。この記事で掲載したお初のほか、「ガーンのお初」についても紹介します。
(構成:前田隆弘)
【放送情報】
次回放送
読売テレビ●2月4日(土)深1:30~2:00
日本テレビ●2月9日(木)深1:59〜2:29
「お初マンガ調査隊」後編を放送。
(TVerでも配信中!)
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