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ゼニと人情の極上人間ドラマ 天王寺大・郷力也『ミナミの帝王』

ゼニと人情の極上人間ドラマ 天王寺大・郷力也『ミナミの帝王』

 人間を描くとき、お金の問題は良きにつけ悪しきにつけ必ず付いてくる。そのためだろう、お金をテーマにした人情マンガは多い。今回取り上げる、原作者・天王寺大とマンガ家・郷力也の兄弟コンビによる『ミナミの帝王』もそのひとつだ。
 本作は日本文芸社の『週刊漫画ゴラク』で1992年から連載されている超ロングラン作品。単行本は2022年7月現在で167巻まで出ている。
 主人公は大阪・ミナミで闇金業を営む萬田銀次郎。10日で1分という高利で貸すことから「十一(トイチ)の銀次郎」の異名を持つ。また、返済しない相手を地獄の底まで追いかけることから「鬼の銀次郎」と呼ぶ者もいる。
 運転資金の金主はいるが、あくまでもビジネスライクな関係。完全に独立した金融屋だが、ミナミではいかなるヤクザも銀次郎に手出しができない。金に困ったときには誰もが必ず銀次郎の世話になるからだ。
 連載第1回は、夜の町を肩で風切って歩く銀次郎に惹かれたチンピラの坂上竜一が、ヤクザ稼業に見切りをつけて弟子入り志願するところから始まる。
 連載当初は法律を盾にして借金返済に応じようとしない悪徳借主と銀次郎のバトルや、地方都市の市長選挙をめぐる政治家同士の泥仕合が描かれるなど、人情マンガの要素はまだ少なかった。

 人情マンガらしさが出てくるのは、第3巻収録の「鬼の目にもゼニ」あたりから。
 勤め先の社長のアホ息子が暴走運転するクルマにぶつけられ、反対に修理代を弁償させられることになった若者を銀次郎が救う、というお話だ。壊れた車の弁償金として若者がトイチで借りた100万円と示談金40万円を社長親子に支払わせた銀次郎は、その140万円を元利金として若者からしっかり徴収し、「これに懲りたら これからは高利のゼニには手を出さんことでんな」と背中を叩く。素人に甘い顔をしないのも銀次郎の思いやりだ。
 借金を申し込んできた貧しい庶民を、銀次郎が法律の知識と幅広い人脈を駆使して救い、きっちり儲けは取るというスタイルは『ミナミの帝王』の定番のひとつだ。
 脇役をメインに、銀次郎がサポート役に回る、というスタイルも定番になるが、第3巻には、弟子入りした竜一が活躍する「金貸し純情編」というエピソードも収録されている。金に困ってピンサロで働く娘を好きになった竜一が、彼女を救うために銀次郎からトイチで150万円を借りる。返済のために必死で力仕事をする竜一だったが、女には別の男がいて、150万円はその男が競馬につぎ込んでいたことがわかる。怒った竜一は鬼になる決心をする。
 男気があって、胆力もあり、頭が良く、金もあって、女にモテる銀次郎は、ある意味でスーパーマンだ。スーパーマンだけで長期間連載を続けることは難しい。どうしてもマンネリになるからだ。
 そのマンネリを回避させているのが、銀次郎の周囲の人々であり、トイチの高利貸しに頼るしかない顧客たち、そして敵役たちだ。
 銀次郎のもとには竜一のほかにも、家族を捨て体で借金を払うために従業員になった杉本達也や、女高利貸しの黒崎千里といった仲間がいる。
 顧客たちもそれぞれに個性的だ。サラリーマンもいれば、商店主もいる。社長や政治家もいる。学生もいるし、もちろんヤクザもいる。敵役も多彩で、一筋縄ではいかないワルばかりだ。ドラマの鍵を握っているのは、脇役陣のほうで、銀次郎はある種の狂言回し役といったほうがいいかもしれない。
 脇役がうまくはまった人情マンガは無敵だ。

 脇役が生きているエピソードに、銀次郎が唯一取り立てを完了していない「命とゼニ」がある。客の鷲岡京三は任侠道一筋に生きる42歳。ミナミを根城とする桜林組系極西一家内ナニワ会幹部だが、ヤクザの世界も任侠よりも金がモノを言う時代。鷲岡のような古いタイプの極道よりも、経済ヤクザがもてはやされるようになっていた。
 甲斐性のない鷲岡は、組長から「ゼニのないのは首のないのと同じやでぇッ!!」と怒鳴られ、愛想を尽かした女房にも逃げられてしまう。切羽詰まった鷲岡は、銀次郎にゼニ儲け法の伝授を請う。
 鷲岡のために銀次郎が考えたビジネスはモグリのポーカーゲーム屋だった。目標は月収2千万円。開店資金や運転資金は銀次郎が用立てる。金利はもちろんトイチ。
 銀次郎がもくろんだ通りポーカーゲーム店は繁盛して、鷲岡も羽振りが良くなった。
 だが、そんなとき、ナニワ会の組長が対立する極楽会の鉄砲玉に撃たれて重傷を負うという事件が起きた。かたき討ちのために単身極楽会の組事務所に乗り込んだ鷲岡は、表で極楽会の組長を斬り捨てた。
 殺人の罪で刑務所に送られた鷲岡のたったひとつの心残りは、世話になった銀次郎の借金を完済していないことだった。それは極道の道を外れた行いだ。
 そこに銀次郎が面会に現れる。「払いようがおまへん」と頭を下げる鷲岡に銀次郎はこう告げた。取り立ても追い込みもいったんストップし、出所後には必ず取り立てる。ただし、トイチの金利は凍結。さらに、新しい金儲けの方法も伝授し、資金も貸し付ける、と。
 かっこええなあ、銀ちゃん。でも、読み手の心に残るのは鷲岡の時代遅れの生き方のほうだ。鷲岡は極道でなく、極上の人間なのかもしれない。

 

第4巻108〜109P

 

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