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マンガの中のメガネとデブ【第20回】猿飛肉丸(細野不二彦『さすがの猿飛』)

マンガの中のメガネとデブ【第20回】猿飛肉丸(細野不二彦『さすがの猿飛』)

 マンガの中の定番キャラとして欠かせないのがメガネとデブ。昭和の昔から令和の今に至るまで、個性的な面々が物語を盛り上げてきた。どちらかというとイケてないキャラとして主人公の引き立て役になることが多いが、時には主役を張ることもある。

 そんなメガネとデブたちの中でも特に印象に残るキャラをピックアップする連載。第20回は[デブ編]、アニメ化もされた忍者学園コメディ『さすがの猿飛』(細野不二彦/1980年~84年)の主人公・猿飛肉丸参上だ。

 舞台となるのは、私立忍ノ者(しのびのもの)高校。表向きは普通の高校だが、実は毎年300人もの忍者を世に送り出す忍者養成機関なのだ。そこに、学園の創立者であり20世紀最大の術者と謳われた猿飛八宝斎の孫・猿飛肉丸が転入してくる。しかし肉丸ときたら、その名のとおりの肥満体で、とても忍者に向いているとは思えない。初っぱなから肉丸におちょくられた緒形先生(池上遼一のキャラ風)が「ここの生徒は多少の差はあれ みなスタイルがいいのだ。そこへいくとおまえは肉丸どころか ぜい肉丸だな/ぜい肉で悪けりゃブタ肉、ヒキ肉、バラ肉、ヤキ肉! 好きなのをえらべ!」とディスるのもむべなるかな。

 ところが肉丸は、外見からは想像できない超人的な身体能力と相手心理の隙を突く見事な機転を発揮し、手練れの緒方先生から巻物を奪うという転入試験を軽々とクリア。デブはデブでも動けるデブなのである。逆に見た目どおりなのが、その食欲。幼少の頃から大食いで、見境なく何でも食べる。「無条件に食べ物のあるほうに走るクセがあるもので……走食性とよんでますが」とは母の弁。弟子志願の後輩・服部優一郎との勝負では、焼き鳥やバーベキューや串カツを仕込んだ手裏剣をよけようとしても体が勝手に吸い寄せられてしまうという一幕もあった【図20-1】。

 

【図20-1】手裏剣をよけようとしても焼き鳥の匂いに抗えない肉丸。細野不二彦『さすがの猿飛』(小学館)2巻p126-127より

 

 動けるデブといえば思い出すのが、『燃えよデブゴン』のサモ・ハン・キンポーだ。とぼけたキャラも通じるものがある。もしやそこからヒントを得たのかと思ったが、同映画の日本公開は1981年。本作の連載開始が1980年だから、こっちのほうが早い。作者自身は『細野不二彦本』(小学館/2018年)のインタビューで、編集部から「『伊賀野カバ丸』(亜月裕)のようなものを」と言われて描いたと述べている。「カバ丸が常に焼きそばを食べているイメージとかはちょっと肉丸に流用してるかな。見た目が全然違うからわかりにくいと思いますけど(笑)」とも述べており、なるほど納得。

 コミカルなルックスに飄々とした性格、ちょっとやそっとのことでは(物理的にも)動じず、口八丁手八丁でギャグのキレもいい。少年マンガの主人公として申し分ないキャラクターだが、さらにもうひとつ、肉丸の属性として忘れちゃいけないのが「スケベ」である。美人と見れば鼻の下を伸ばして近づいていく。そして、得意技の忍法「神風の術」でスカートをめくるのがお約束【図20-2】。令和の今となってはセクハラと言われるかもしれないが、当時としては少年読者の胸をときめかせるサービスシーンだった。

 

【図20-2】美人と見れば「神風の術」でスカートをめくらずにいられない。細野不二彦『さすがの猿飛』(小学館)1巻p116-117より

 

 そんな肉丸の幼なじみが、同学園の校長の娘・霧賀魔子である。何かと肉丸に厳しい緒形先生に「どうして肉丸君ばかり目の敵にするんです! こんなにかわいいのに……」と抗議して、周りの生徒たちに「あの美意識にはついていけんなあ」と言わしめるほど肉丸ラブ。そのくせ「おやめ、肉ダルマ!」「みんなから猪八戒だの生きたハムだのいわれてくやしくないのー?」など、誰もそこまで言ってないようなきつい言葉を放ったりもするけれど、それも愛ゆえ。細野不二彦作品の魅力のひとつは女の子のかわいさだが、とりわけ魔子の肉丸に対する態度は(嫉妬も含め)猛烈にかわいい。

 もちろん肉丸も魔子のことが大好きだ。よその女の子に目移りはしても、一番大事なのはぶっちぎりで魔子であり、彼女に害をなす者は許さない。体育祭で敵チームの刺客が魔子を恥ずかしい目に遭わせた際には、烈火のごとく怒って「忍法地獄焼き」で刺客の股間に火柱を食らわした。猿飛家と因縁がある魔子のママが理事長権限で体重別クラス編成を打ち出し、魔子と肉丸の仲を裂こうとしたときには、すべての体重計を自重で破壊し計測不可能に。二人の間にはいくつもの障害が立ちはだかるが、それをいかに乗り越えていくかが物語全体の見どころでもある。

 そして、肉丸が繰り出す忍術のなかでも、デブならではの強みを生かしたのが「胃の笛の術」と「肉雪崩の術」だ。前者は人並外れた胃の筋力を総動員して、腹の虫(空腹時にお腹が鳴る音)の振動数を極限まで上げた超音波砲、後者は衣服の内側に押し込められた腹の脂肪を一気に解放することで縛られた縄などを吹き飛ばす術である。「神風の術」は摩擦熱により上昇気流を起こしミニ台風を発生させるという技だが、その原理を見抜いて真似ようとした後輩・服部は、みずからも突風に飛ばされてしまう。「突風のなかで微動だにしない安定性―――極限までひくい重心!! その体重!! 負けだっ!! どれをとっても先輩にはかなわない!!」と負けを認める服部。ここでもデブ設定が生かされている。

 しかし、実は初登場時の肉丸は、それほどデブじゃない。連載マンガにおいてはありがちだが、回を重ねるごとに等身が下がって、より丸くなっていく。それについても作者は作中でもっともらしく解説している【図20-3】。

 

【図20-3】実際の初登場時の肉丸は右上の絵よりもっとスマートだった。細野不二彦『さすがの猿飛』(小学館)4巻p62-63より

 

 肉丸の場合、大食いによる過剰な栄養が脂肪分として蓄積され、そのあまりの重量ゆえに垂直方向への成長が押さえつけられた。結果として「成長は水平方向へむかわねばならず、肥満に拍車をかけます!/のみならず、増加した体重はついに骨格をも圧縮せしめ、等身に変化をきたしているのです!」という。上記の忍術についてもそうだが、昔のマンガは、いろいろ理屈をつけたのである。

 が、そんな理屈より肉丸の母のセリフのほうが説得力がある。「生まれたときは、それはそれは玉のようにかわゆい赤ちゃんだったのよ! 今では玉そのものだけど!」。そう、肉丸の魅力は、その球形のフォルムにある。初期の中途半端なデブではなく、球形になったからこそ「ゆるキャラ」的なポジションとして人気が出たのだ。ゆるキャラだから、セクハラ的な振る舞いも許される。連載当時はゆるキャラという概念はなかったが、そういう意味でも時代を先取りしていたと言えるだろう。

 

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