豪華絢爛な昭和8年新年号と、今も生き続ける野良犬黒吉。講談社『少年倶楽部』と田河水泡『のらくろ』

豪華絢爛な昭和8年新年号と、今も生き続ける野良犬黒吉。講談社『少年倶楽部』と田河水泡『のらくろ』

太平洋戦争前、昭和6年1月に始まり、開戦直前の昭和16年10月まで連載された『のらくろ』。

西暦ですと1931年ですからもう90年が経っているのですね。

作品を読んだ事が無くても『のらくろ』の名前を知らない人はいないんじゃないか、というくらい高い知名度を誇ってます。

日本の漫画キャラクターで最長寿と言って良いのではないでしょうか。

戦後も新たに描き続けられ、これまでに多種多様な書籍が出版されてきました。

何故『のらくろ』はここまで愛されてきたのか、の検証はさんざんされていると思います。

今回の記事では私が所有する『少年倶楽部』昭和8年新年号においての『のらくろ』を紹介しましょう。

この新年号はいつだったか状態があまり良くないというのもあって、かなり安く売られていてつい買ってしまったものです。

戦前の『少年俱楽部』なら1冊くらい持っていてもいいかな、くらいの軽い気持ちで買ったのですが正解でした。

現在の漫画につながる直接的な内容ではないものの、貴重な資料として見てて飽きません。

A5サイズですがまず驚きなのが厚さ。

2.5センチあります。

最後のページ番号は422。

それはそれはこの422ページにびっしりと、隙間なんかどこにも無いくらい漫画や読み物、多彩な広告が詰め込まれてます。

対象年齢は漢字の使い方や、広告などから判断して現在の小学生から中学生くらいまでではないかと判断します。

『のらくろ』は意外とあっさりして白黒で4ページのみ。

しかしのらくろに関する広告は豪華です。

『少年倶楽部』昭和8年新年号(大日本雄弁会)より

ちょうど最初の単行本「のらくろ上等兵」が出版された後で、折り込みの広告はそれだけで立派な作品と言えるでしょう。

更に次号では本誌より大きな版型の、別冊付録になる予告も綴込みのポスター的な扱い。

『少年倶楽部』昭和8年新年号(大日本雄弁会)より

田河水泡さんは2色刷の「漫画愉快文庫」という特集にも別に「神州櫻之助」という作品を4ページ描かれてます。

『少年倶楽部』昭和8年新年号(大日本雄弁会)より

他にも島田啓三さんなど戦前の有名な方の作品が掲載されており、漫画の比率は低いものの当時の子供にとってどれほどの楽しさを与えていたのか計り知れません。

調べたところ手塚治虫さんはこの頃5歳。

きっと夢中になられたのだろうと想像に難くありません。

そう思えばこの本も現在の漫画に繋がる大事な歴史遺産として見えてきます。

この昭和8年新年号から野良犬黒吉は伍長に昇進します。ならばと1冊だけ復刻版の『のらくろ伍長』を後で買い足しました。

御存じの通り『のらくろ』は野良犬黒吉の出世物語です。

最下級の二等兵から最後は大尉まで昇進します。

そういえばいつだったか、かなり以前ですが島耕作の出世街道が『のらくろ』に例えられたこともありました。

確かに名前と課長、部長と役職が変わるにつれ作品タイトルが変更されていくのは『のらくろ』を連想してしまうのは当然でしょう。

軍隊と民間大企業。比較して考察するのも良しですが、どちらの作品も単純に面白く読めばいいと思います。

先述の「のらくろ上等兵」の広告には「1冊がスッカリ美しい2色や4色の色刷り」とあります。

所有する復刻版の単行本は「伍長」ですが全ページ色鮮やかな構成になってます。

残念ながら戦前に出版されたオリジナルの単行本は中を見た事がありません。

本そのものは目撃したことはあるものの手に取った事は皆無です。

目撃も1、2回程度。状態も良くない物。

戦前のオリジナルで程度のいい本は、ほとんど市場では出回ってないでしょう。

残存数が少ないというのもあるでしょうが、所有する方が手放さないのも大きな要因ではないかと推察します。

比べてこの昭和40年代に復刻された本は現在も多く流通しています。

それだけ当時売れに売れた証拠でもあり、戦前のオリジナルが欲しくても買えなかった当時の子供たち含めた多くの『のらくろ』ファンの思いの証だと思います。

『少年俱楽部』昭和8年新年号ののらくろは4ページで完結。

復刻版を見てみましょう。

同じ話が10ページまで増量されてます。

そして豪華な色刷り。

『のらくろ伍長』(岩森書店)より

巻末には「のらくろ30態」というおまけページも。

私は子供の頃にこの復刻版で他の階級も大体読んでますがそれは手塚さんやトキワ荘の面々が活躍し、あるいは貸本劇画の時代を過ぎた昭和40年代です。

大人たちから低い目で見られていたとはいえ、漫画は身の周りに普通に存在してました。

戦前には無かったテレビという媒体も1964年の東京オリンピック以降普及し、私の子供時代はメディアからの娯楽を自由に受けられる時代です。

それでも面白く読みましたよ。

旧日本軍の階級は『のらくろ』で覚えました。

では昭和8年という時代に、あるいは連載が終了する昭和16年まで当時の子供たちはどのように『のらくろ』や『少年俱楽部』を楽しんでたのでしょう。

テレビも無く、軍というものが存在する時代。

ネット上でいくらでも画像や資料に触れられる現在、頭では理解しても戦後世代には実感として感じるのは不可能です。

それでもこの分厚く内容もこぼれんばかりに1ヶ月の娯楽を詰め込んで子供たちへ届けられた本が、世相や時局が激動の昭和初期でもきっと宝物だったに違いないと信じます。

『のらくろ』は読むのであれば現在そう困りません。

最下級の二等兵から大尉まで出世する野良犬黒吉の物語。

肩の力を抜いて読むのが一番な楽しい作品です。

\ この記事よかった! /
👏 拍手を送る
記事へのコメント

昭和一桁・山奥で生まれ育った私の父にとって「少年倶楽部」は、回し読みをして何度も
繰り返し読んだ数少ない娯楽だったと聴かされて育ちました。
のらくろの復刻版は4,5冊あり、私も読みました。
わたしもこれで陸軍の階級と階級章を覚え、旧仮名づかいにも馴染みました。
色々と思い出す切っ掛けになり、ありがとうございます。

東京江東区にある森下文化センター/田河水泡のらくろ館に行ったことありますが、のらくろの歴史に関する常設展示をやってますので興味のある方は寄ってみると良いです。
https://www.kcf.or.jp/morishita/josetsu/norakuro/

確か図書コーナーで復刻版が読めたはずです。
他にも資料性の高い古い漫画が置いてありますので
マンガ好きは行って損なしですよ。

コメントする