31ページに凝縮された珠玉のSF作品は幻想でもあり、怪奇でもあり。諸星大二郎の初期傑作短編「生物都市」

31ページに凝縮された珠玉のSF作品は幻想でもあり、怪奇でもあり。諸星大二郎の初期傑作短編「生物都市」

諸星大二郎「生物都市」は、第7回・昭和49年度上期の『週刊少年ジャンプ』手塚賞において、大賞を受賞した作品です。

受賞発表と共にジャンプ誌上に掲載されましたが、当時リアルタイムで読みました。

手塚賞はここまでに6回募集され、大賞受賞は1回だけ。

発表される「大賞は該当作なし」に慣れ切っていた私は、この第7回の発表記事にかなり驚いたのを憶えてます。

大賞受賞の作品がある、しかも何から何まで褒めちぎってある審査員のコメントにも子供ながら「何事?」と思いました。

そのまま読んで面白かったと感じたのは憶えてます。

しかし、まだSFというジャンルの作品を読み込めた年齢ではなく、深いところまで理解できたとは言えません。

大人になって再読し、更に今回記事を書く為に読み込んで改めて完成度の高さに驚きです。

ますむらひろしさんの記事で触れましたが、所有する『週刊少年ジャンプ』1974年17号の手塚賞募集ページ。

第7回・昭和49年度上期の募集で、まさに「生物都市」が応募された回です。

応募の決まりに原稿枚数はストーリー漫画は31ページとなってます。

「生物都市」のページ数は扉ページを含めて31ページ。

諸星さんがいつ頃から「生物都市」を描き始めたのか定かではありませんが、募集要項に合わせてまとめたとはとても思えません。

話の展開、コマ割り、何から何まで非の打ち所がないと言っていいと思います。

今私の手元にある「生物都市」は筒井康隆さん編纂の『’74 日本SFベスト集成』のみです。

前回の記事で紹介したますむらひろしさんの「霧にむせぶ夜」と同じく、大人になって再読したのは『日本SFベスト集成』。

この’74年版にはもう一つ漫画作品が収録されております。永井豪さんの「真夜中の戦士」です。

2つの漫画作品がどちらもジャンプ作品なのは意識しての事では無いでしょうが、筒井康隆さんのSF漫画に対する見識が光ります。

ちなみに所有する『週刊少年ジャンプ』74年17号は最近手に入れたものですが「真夜中の戦士」が巻頭カラーで載っており、それ目当で買いました。

手塚賞募集ページによると同じ年の6月4日発売号に結果発表となっており、「生物都市」大賞受賞の報が載ったそちらの号も機会があれば手に入れたいですね。

 

では少しだけ内容を紹介しましょう。

198X年、木星第一衛星イオの探査から帰ってきた有人宇宙船。

宇宙船空港に到着してから起こった異変は徐々に広がり、やがて……

未読の方もいらっしゃるでしょう。これだけにしておきます。

ちょっと説明しておきますと、「生物都市」が発表されたのは1974年。

作中で1980年代に木星への有人探査へ宇宙船で行って帰ってくる。

既に月への有人探査は達成されているとはいえ、現在の目線で振り返るといくら何でも技術的に早すぎますよね。

でもこれは当時子供だった私の記憶にもはっきりしてますが、10年経つと飛躍的に技術が進歩し10年後なんて想像つかないと言われてました。

1980年代には人類の住環境はこのようになるであろうなんて、21世紀の今でも存在しない光景をテレビで見せていたCMだってありました。

また科学技術の進歩をカーブで現したグラフというものがあり、20世紀に入ってからは垂直と言っていいくらいに伸びてます。

このグラフは良く憶えてます。

グラフの事は良く憶えてますが、これが子供向けの記事だったのか何だったのかは残念ながら覚えてません。

このまま進歩が続き80年代や21世紀になったら世界はいかほどの変化を遂げるのか、今の我々にはわからないとの説明がありました。

子供の私はこのグラフを見て「へぇー、そうなんだ」と感心し、そのわからない未来に思いを馳せましたよ。

21世紀の前に1980年代という近い未来に大きな変化や進歩を据えて想像するのは、特におかしなことではありません。

来たるべき21世紀の前夜祭とでも言いますか。

あるいは30年先よりも10年先の未来の方が、近い分より夢を膨らませやすかったのでしょうか。

1980年代という言葉もまた夢あふれる未来の代名詞だったのが1970年代です。

『’74 日本SFベスト集成』の巻末には筒井康隆さんの各作品の解説があります。

『’74 日本SFベスト集成』(徳間書店)より

満場一致に近い大賞入選だったものの、あまりに面白いので「SFに似た話があるのではないか」という質問が筒井さんに集中したとの事。

明記されてませんが、受賞したという事は無いのでしょう。

諸星さんはこの時25歳。どれほどの知識と経験を蓄えればこの若さでこんな物語を生み出せるのか。

 

実は私、長年勘違いしておりまして「生物都市」が諸星さんのデビュー作だとずっと思ってたんですよ。

『週刊少年ジャンプ』誌上でリアルタイムで読んだ「生物都市」を大人になって『’74 日本SFベスト集成』で再読。

記憶には無いのですがおそらく『’73 日本SFベスト集成』に収録された諸星さんの「不安の立像」をその後に初読みしたと思います。

ジャンプ手塚賞でデビューして、その後に怪奇というか不条理というか凄い漫画を描いている。

そして後の活躍に繋がっているんだなと信じてました。

それでも’73と’74で気が付く筈ですが、もう思い込んでたのもあって恥ずかしながらこの記事を書く段階になって「生物都市」以前にも作品を発表されていたのを知った次第です。

「生物都市」の前に描かれた「不安の立像」は青年誌『漫画アクション』での掲載です。

扉ページを含めて24ページ。

凄いというか恐ろしい漫画です。

恐怖漫画とは言えない。しかし社会に生きる人間の不安をえぐる傑作です。

昭和53年、48年も前に描かれていながら令和の現在読んでも何ら話に違和感を感じません。

いえ、技術の進歩と共に色々変わった今だからこそ違った怖さを感じる部分もあります。

諸星さんの作品作りの上手さは「生物都市」以前から確立されていたのを確信し、唸らざるを得ません。

もしも未読でしたら「不安の立像」も是非読んでみてください。

「生物都市」は機械文明に対しての警鐘や批判を読み取れなくもないです。

また人類にとっての理想とは何か、というテーマもあるかもしれません。

難しい深読みも悪くはないですが、純に作品を読んで面白いと感じるのが大事ではないでしょうか。

とはいえ扉ページと最後のコマの関連性を考え出すと面白いのも否定できません。

現在も活躍される諸星大二郎さんの初期傑作SF。

SF漫画の殿堂があるならば間違いなく入る傑作です。

※編集部注…「生物都市」は『’74 日本SFベスト集成』のほか、『諸星大二郎特選集 男たちの風景』(小学館)、『彼方より 諸星大二郎自選短編集』(集英社)、『SFマンガ傑作選』(東京創元社)に収録されています。

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