マンガの中のメガネとデブ【第3回】長島アコ(くらもちふさこ『メガネちゃんのひとりごと』)

マンガの中のメガネとデブ【第3回】長島アコ(くらもちふさこ『メガネちゃんのひとりごと』)

 マンガの中の定番キャラとして欠かせないのがメガネとデブ。昭和の昔から令和の今に至るまで、個性的な面々が物語を盛り上げてきた。どちらかというとイケてないキャラとして主人公の引き立て役になることが多いが、時には主役を張ることもある。

 そんなメガネとデブたちの中でも特に印象に残るキャラをピックアップする連載。第3回は[メガネ編]、くらもちふさこ『メガネちゃんのひとりごと』の長島アコをご紹介しよう(ネタバレあり)。

 

くらもちふさこ『赤いガラス窓』(集英社)
くらもちふさこ『赤いガラス窓』(集英社)

 

 第1回の原稿で〈昭和のマンガのあるあるネタ「メガネを外すと美人」〉と書いたが、実際にそういう描写のある作品は意外と少ない。少年マンガはさておき、少女マンガにおいては「メガネをかけたままのキミが好き」というパターンのほうが圧倒的に多いのだ。普通に考えればメガネ着用の読者も少なからずいるのだから、そりゃそうなるだろう。

 くらもちふさこ『メガネちゃんのひとりごと』(1972年)も、そのパターン。主人公の長島アコは〈前方50センチ先視界ゼロ〉のド近眼で、メガネを外すと世界のすべてがぼやけて見える。当然メガネ愛用者だが、本人はそれがコンプレックス。窓辺で物思いにふけっているところをクラスの男子に「なにきどってんだ/どけよメガネ」と言われて「きどってちゃいけないっての!?」と反論するも、「ガラじゃねえよ」と一蹴される。するとアコは「あんなふうにいわれるのも あたしのメガネのせいだと思うの/かけて秀才タイプに見えりゃいいけど あたしはどう見ても三枚目」と自虐するのだった。

 そんなアコにも気になる人はいる。クラスメイトでサッカー部の東(あずま)くんだ。登校時に「おっす長島」とカバンで尻をはたかれても幸せ気分。化学の実験室で席が彼の真後ろというだけでうれしくて仕方ない。でも、明朗快活な彼は誰とでも仲よくなって、女子とも親しげに会話するもんだから、アコは気が気じゃない。「いっそ告白しちゃおうかな/あなたが好きですって……」と思いつつ、「自信ないんだ/あいつメガネの女の子きらいかもしれないもん」とためらうアコ【図3-1】。

 

【図3-1】乙女心は揺れ動く。くらもちふさこ『メガネちゃんのひとりごと』/『赤いガラス窓』(集英社)p89より

 

 今でこそメガネはおしゃれアイテムのひとつだが、当時は(特に女子にとっては)それほどまでもコンプレックスを感じさせるものだった。しかし、結果的にはメガネが二人の仲を取り持つことになる。いや、正確に言うとメガネを外したことが功を奏するのだが、「メガネを外すと美人」的な話ではない。

 ある日の放課後、アコはクラスメイトの女子たちから、東くんと同じサッカー部の大山くんへのラブレターの配達役を頼まれる。美人の小林さんが大山くんのことを好きだというのだ。「え!? なんであたしがわたす!?」と、もっともな疑問を抱くアコ。が、女子たちは「みんなはずかしいとかいっていやがるの/あなたなら平気でしょ」って、ひどくない? さらに女子たちは、断ろうとするアコのメガネを奪い、「(ラブレターを)わたしてくれたらかえすったら」と、むりやりメッセンジャーとして送り出す。

 それ、ほとんどいじめでは? という気もするが、とにかくアコはノーメガネのぼやけた視界の中、どうにか大山くんらしき人を見つけて「小林さんからよ」と手紙を渡す。そして「わかったらむこういってよ/あんたに手紙わたすとこ あこがれの東くんに見られるのいやだもの」と、うっかり本音を漏らしてしまう。それを聞いて驚きのリアクションを見せる大山くんらしき人……

 勘のいい読者ならもうおわかりだろう。アコが大山くんと思って手紙を渡した相手こそ、あこがれの東くんだったのだ。近づいてよく見てそれに気づいたアコは、あわてて「いまいったこと全部ウソ!」と逃げ出すが、何しろド近眼で足元もおぼつかない。追いかけてきた東くんは「おれきみが好きなんだ」と逆告白。突然の予想外の事態に戸惑うアコの「だってメガネかけてるのよ」という言葉にも、東くんは「メガネはきみの魅力だぜ」とイカしたセリフを返すのだった【図3-2】。

 

【図3-2】ぼやけた視界でコマ割りもぐらつく。くらもちふさこ『メガネちゃんのひとりごと』/『赤いガラス窓』(集英社)p97より

 

 というわけで、めでたくハッピーエンドと相成るのだが、ここで注目したいのはメガネを外すとろくに見えないことが物語のキーポイントになっている点だ。元来メガネというのは視力矯正器具であり、「外すと美人」とかいう以前に「外すと見えない」ことのほうが現実的な問題。作者自身も近眼なので、そのへんの実感がこもった作品とも言える。

 実は本作はくらもちふさこのデビュー作。それなりに思い入れがあったのか、のちに『うるわしのメガネちゃん』(1975年)という作品も描いている。続編のようなタイトルだが、主人公は別人。ただし、やはりド近眼のメガネちゃんであることには変わりない。

 メガネ屋の娘・ヨーコは、視力0.01以下でコンタクトレンズが体質に合わず〈メガネが体の一部分〉になっている。なのに本人はメガネにコンプレックスを抱いていて、アクシデントでメガネが壊れたのをきっかけに脱メガネを図るが……

 コンプレックスの原因は、中学時代の片想いの相手に「メガネザルは好みじゃないな」と言われたこと。しかし、ある日、彼女の前に現れたメガネのイケメン・幸路(こうじ)は、自分もメガネの似合う人にあこがれていたと言い、「ヨーコちゃんはもっと似あうと思ってる」と言う。これもまた「メガネをかけたままのキミが好き」パターンだ。実際、メガネをかけたヨーコは普通にかわいい。

 最終的にメガネなしで足元もおぼつかないヨーコを幸路がフォローするという展開はデビュー作と通じる。ヨーコがかける新しいメガネのレンズがピンクの色付きというのは、当時の作者がかけていたのと同じ【図3-3】。くらもち作品に男子も含めてメガネキャラが多いのは、自身がメガネちゃんだったことと無縁ではないだろう(この「メガネちゃん」シリーズは、ともに『赤いガラス窓』に収録されている)。

 

【図3-3】あこがれの人の彼女もメガネ女子だった。くらもちふさこ『うるわしのメガネちゃん』/『赤いガラス窓』(集英社)p126より

 

 同様に「メガネを外すと何も見えない」キャラとしては『究極超人あ~る』(ゆうきまさみ/1985年~87年)の西園寺まりいも見逃せない。優等生かつ女王様気質の生徒会長で常に上から目線だが、ド近眼なため裸眼だと人違いはするわ、そこらじゅうにぶつかるわのドジっ子属性もある。彼女のほかにも、ゆうきまさみ作品には注目すべきメガネキャラが多数登場。それらについては今後の連載で随時紹介していきたい。

記事へのコメント

元来メガネというのは視力矯正器具であり、「外すと美人」とかいう以前に「外すと見えない」ことのほうが現実的な問題

笑ったww

自分もメガネをからかわれて育ったので、「外すと美人展開」とか「おしゃれアイテム化」にはいろいろ思うところなんだかスッキリしました。
単行本読んでみます!

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