感染症やワクチンって何?歴史を踏まえて見えないものへの恐怖を克服するエッセイ漫画『感染症とワクチンについて専門家の父に聞いてみた』

『感染症とワクチンについて専門家の父に聞いてみた』

新型コロナウイルスに対するワクチン接種が各国で始まりつつあります。ワクチンはインフルエンザなどへの予防策として私たちが接種してきたものですが、短期間で開発されたワクチンには不安を持つ人もいるでしょう。そうした疑念を払拭するのがさーたり先生と中山哲夫先生の『感染症とワクチンについて専門家の父に聞いてみた』(KADOKAWA)です。感染症とワクチン開発の歴史を踏まえ、新型コロナやそのワクチンについて、専門家の知見のうち、一般の人が知るべきことをわかりやすく漫画にしています。

2020年に世界で蔓延した新型コロナは突如として私たちの生活に入り込み、手洗いの徹底やマスクの装着、在宅勤務の普及など生活スタイルを一転させました。その中で社会活動の正常化の一歩になると期待されているのがワクチンの普及です。

各製薬会社の開発するワクチンについて各国政府の承認が進むにつれて様々なメディアでワクチンの仕組みなどが解説されていますが、「そもそも感染症とは何で、それに対抗するワクチンとは何か」という基本的な疑問はしばしば抜け落ちがち。そこを補強するのがこのエッセイ漫画です。

さーたり先生は外科医でありながらアニメオタクでエッセイ漫画家。そして今回の共著者である中山先生はさーたり先生の父親で感染症の専門家です。今回の漫画では、さーたり先生らが中山先生に疑問を聞いていく形で話が進みます。

漫画を読み応えあるものにしているのは、感染症の定義や歴史、ワクチン開発の歴史から説き起こしていることです。私たちの社会はいま、新型コロナという新しい感染症に揺さぶられていますが、人類の歴史は感染症の蔓延とその対策の繰り返し。中山先生は「人類の歴史は感染症との戦いの歴史」と指摘します。

実際私たちが知っている歴史上の人物も、感染症が原因で亡くなっている人もいます。天然痘も結核も麻疹もインフルエンザも人類史とは切っても切れない縁があるのです。

そもそも感染症とは、細菌やウイルスがわたしたちの体に入り込んで症状を引き起こすものです。これに対抗するワクチンは、ウイルスが体内に入り込むことで起こる免疫獲得を人為的に促し、感染しても発症させないまたは発症しても軽症ですむようにするものです。

作中指摘されているように、従来の感染症に対するワクチン開発の歴史は、長い時間をかけた実験の繰り返しと偶然の積み重ねでできたもの。感染が大きく広がってからほぼ1年でワクチンができた新型コロナについては、ワクチンの副反応などを警戒する声もありますが、そもそも通常の医薬品と違い、健康な人への接種を前提としているワクチンは「早さ以上に、安全で有効なワクチンが一番大事」(中山先生)という方針で開発されます。過去に不完全なワクチンの接種による訴訟や社会問題化を繰り返してきたからこそ。今回の従来にはないスピードでのワクチン開発には、遺伝子解析などの医学分野の技術の進歩も寄与しているそうです。

このワクチンの接種はもちろん接種した個人を感染症から守るという効果がありますが、さらに社会的な意義も大きい。作中の「おたふくと水痘」の項で指摘されていますが、ワクチンを打てない人への感染を防ぐというという目的があります。

副作用などが極力抑えられていても、あえて弱体化したウイルスを体内に取り込むことになるため、妊婦など人によっては感染すると重症化するのにワクチンを接種できない人もいます。より多くの人がワクチンを接種することで社会全体の感染症への抗体を高め、社会全体の感染拡大を防ぐ狙いがあるのです。

新型コロナに向き合ういま、不確実な情報に振り回されやすいことを実感しているでしょう。今回の感染症蔓延による社会のざわつきをみると「目に見えないものへの恐怖」はどの国でも共通で非常に大きいことを実感します。

こうした反応は過去に感染症が蔓延したときも同じですが、現代社会は過去と違い、様々な立場での情報発信が容易になっており、左右されるという側面もあります。そのようなメディアの情報発信を読み解くための基礎的な事実が、このエッセイ漫画には詰まっています。

なおこのエッセイ漫画で、感染症の蔓延による社会の変化とその克服に関心を持った方は、よしながふみ先生の傑作『大奥』(白泉社)を読んでみてはいかがでしょうか。ウイルスやワクチン、細胞の人間の体内での働きに関心を持った方は清水茜先生の『はたらく細胞』(講談社)がお薦めです。

 

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