「もやもやしているのは私だけじゃない」と実感できる『在宅勤務子ちゃん わたしたちのリモートワーク日記』

「もやもやしているのは私だけじゃない」と実感できる『在宅勤務子ちゃん わたしたちのリモートワーク日記』

新型コロナウイルスのまん延をきっかけに一気に世界中で普及した在宅勤務。通勤などを避けられるということで当初は歓迎した人も、実際にやってみるとそれまでの仕事の仕方と違いが多く戸惑うこともあったのではないでしょうか。しかも多くの人が在宅勤務中とあっては、そうしたちょっとしたぐちや悩みを共有するのもままならないーーこうした状況が決して特殊ではないと描いたのが一秒先生の『在宅勤務子ちゃん わたしたちのリモートワーク日記』( PHP研究所)。在宅勤務ができない人の思い、在宅勤務を積極的に進めたい人の考えとあわせて、「もやもやしているのは私だけじゃない」と実感させてくれます。

主要キャラクターのひとり、タク子は2020年春に出た新型コロナのまん延に対する緊急事態宣言を受けて急遽在宅勤務がスタート。当初は通勤がなく、すぐに休憩ができて着替える必要もないことを楽しんでいたものの、いつまで続くかわからない在宅勤務に徐々に不安を覚えます。人と会って雑談することも難しくなる中で、オンラインのコミュニケーションは対面よりも相手の感情が見えにくく、いつもよりストレスのかかるものに。こうした積み重ねがじりじりとタク子を追い詰めていきます。

もちろん当時(そして今も)新型コロナの感染拡大を防ぐのに人出と密集を減らすための在宅勤務の推奨は不可欠でした。しかもスーパーの店員を含む生活インフラを支える人たちや医療従事者など在宅勤務をしたくでもできない人たちがいる中で、「できる人が在宅勤務をすることで、医療機関のキャパシティを埋める感染の可能性をなるべく減らす」ことはそれ以外の人たちが当時できた「貢献」でもありました。

在宅勤務ができず通勤や人と接するリスクを抱える人がいるとはいえども、リモートで働いている人もその人なりに少しずつストレスが溜まっていくことは避けられません。タク子も周りの飲食店の閉店やマスク着用、消毒といった生活習慣の変化を受け入れ適応していこうとします。

現実でも多くの人が変化に対応しながら通販やデリバリーサービスでいつもと違う食事を楽しんだように、突然すべてが嫌になったタク子も食でストレスを解消しようとします。それはお店で一番でかい肉を買ってのステーキ。普段とは違うストレスの解消になるのでしょう。

もちろんこうしたストレスは、置かれた立場によって変わります。一人暮らし中のタク子の在宅勤務と、家族がいるマネジャーの在宅勤務の悩みは違うところにある。気軽に雑談する相手がないことで煮詰まっていく一人暮らしの人と、子どもがいることで昼間に集中して仕事ができない人の抱えるもやもやは同じとはいえません。

在宅勤務の「先輩」であるフリーランスの人たちも悩みとは無縁ではありませんでした。『在宅勤務子ちゃん』に登場するフリーランスのマホは、いろいろな企画が中止となり仕事がなくなり先行き不透明感を強めます。しかも会社勤めのタク子と違い、その悩みやもやもやを誰とも共有することはできず、自分のメンタル状態は自分で維持するしかない。自分のことだけ考えていると見落としてしまうことも、作品を読んでいく中で自然に意識させられます。

『在宅勤務子ちゃん』には彼ら以外にも在宅勤務大歓迎のエンジニアを含め様々な立場の人が登場し、それぞれの立場からの在宅勤務のいいところ、困るところを描いています。在宅勤務を乗り切るための有益な知恵がまとまっているわけではありませんが、読者が在宅勤務で直面するちょっとした困りごとや悩み、ストレスが決して自分だけのものではないということが伝わってきます。

世界で急ピッチで進む新型コロナに対するワクチン開発のおかげで、私たちの生活は少しずつ新型コロナまん延前の状態に近づきつつありますが(参考:感染症やワクチンって何?歴史を踏まえて見えないものへの恐怖を克服するエッセイ漫画『感染症とワクチンについて専門家の父に聞いてみた』)、すぐに全員が以前のような勤務体制に戻れるわけではなさそうです。『在宅勤務子ちゃん』でいろいろな人の立場や考え方を知っておくことは長期戦となりつつある在宅勤務を乗り切る力になるでしょう。

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