去る10月14日、11月4日で「東京チカラめし」東日本唯一の店舗だった新鎌ヶ谷店が閉店し、残るは大阪日本橋店のみとなるというニュースがありました。チカラめしといえば、11年に登場するや翌年には100店舗を達成するなど牛丼界の風雲児となるも、「あそこマズくない?」「いや、最初はちゃんとしてたが急拡大にオペレーションが追っつかなくなったのだ」などといった議論を起こしつつあっという間に衰退、数年で店舗数は一桁にまで落ちると、22年には「東京」の名に反し都内から店舗がなくなってしまい、そしてついに東京どころか関東からもなくなってしまうという、入れ替わりの激しい外食業界の中でもひときわ栄枯盛衰が目立ったチェーンでした。というわけで今回の紹介は、そんなチカラめし(が明らかにモデルの店)が連載第1話で取り上げられている時代の証人的漫画、土山しげる『怒りのグルメ』(連載時タイトル「噴飯男」)です。
本作の連載は13〜15年の『実話BUNKAタブー』。同誌といえば、「世の中の人が正しい素晴らしい美しいのが自明だと思ってるモノに対してケチをつける」と自ら謳っているように、全方向にケチをつける全身炎上マーケみたいな誌面作りで知られており、特にグルメ特集の切り口は基本的に全部「〇〇まずい」(例えば、最近の特集も「コメダ ドトール スタバ タリーズ どこの食べ物が一番まずいか」「一番まずい焼肉屋&一人焼肉店はどこ?」などとなっております)です。というわけで本作も、「まずい飯に怒りをぶつける」というようなコンセプトで始まったと思われます。
本作の主人公・細井守は45歳の中年サラリーマン。総務から営業に異動になった関係で、昼を奥さんの弁当から外食に切り替えることになったことにワクワクしており、その最初の食事先として最近話題という東京チカラ……大江戸パワー丼という店を選びます。
「これがバーベキュー丼かァ! 肉も多く焼き色がついてうまそう!!」と丼に箸をつけた細井は、口にするや「脂でベトベトの牛バラ肉… 人口調味料がいっぱいのタレがドップリ…!」「こんなもん金を取って食わせる飯じゃないっ!!」と激怒、パワー丼の本社へ押しかけると、怒りの力で怪人・噴飯男(フンパンマン)に変身、経営陣に鳳凰幻魔拳で地獄を見せる制裁を加えます。
そして、「でも企業努力はしてるんだ!」と弁解する経営陣に「マズイ物はマズイっ!!」と一喝し、「290円返してもらうぜ」とバーベキュー丼の代金を強奪して無銭飲食を達成します。
という感じで、ニュウェーブつけ麺店、激安回転寿司などに怒りをぶつけますが、4話目で早くも少し変化が。この回ではワタミっぽい激安居酒屋に連れて行かれ、そのマズさに変身しかけるのですが、「全品200円… 食べ飲み放題で2500円ならこんなもんか…」と怒りを解いてしまうのです。
……そう、安い店なら味も相応なのは割と当たり前の話ですし、あと「マズい食事に怒る」ってだけでは話に差をつけられないので連載を続けられないんですよね。
そして続く第5話では、安くてうまい讃岐うどん店で満足していたところ、店主が取材に「うどんは固くなくちゃ」「固いうどんを全国に広めます」と言ってるのを聞き、奥さんに「チンポが固くならないから」とセックスを断られたことがフラッシュバックして変身。完全なる八つ当たりで店主に制裁を加えている最中「俺は一体何をしてるんだ?」と我に返るという始末。
もうこうなると話はどこに行くか分からず、なぜか噴飯男の存在を知っていて敵視してくるオタク青年・ネットマン(最高のネーミング)という謎のライバルと闘ったり、
学生時代にヘビメタバンドを一緒にやっていた旧友と偶然再会して行った店がボッタクリ店で、ダブルで変身して店主に制裁を加えたあと、「不味いモンでも金は払わにャ無銭飲食になっちまう」と律儀に金を払う旧友の姿に、なんだかんだ言って無銭飲食をする自分との器の差を見たり、
ビアガーデンに誘われた会社の若い衆がビールではなくチューハイやカクテルを飲んでスマホいじりをしているのに噴飯して(ビアガーデンに誘った張本人である上司は「いいじゃないか 時代だよ」と若者に鷹揚なのに)、泥レスの幻影を見せたり、
怪作としか言えない展開が次々と続きます。
ちなみに本作の単行本(コンビニ版で出ましたが電書も出てます)、最終話など数話が未収録です。理由は不明(単行本は連載最終話掲載号のタイミングで出てるので、売れ行きが悪かったから2巻が出なかったとかではない)ですが、最終話とかは、バラエティ番組に原作改悪ドラマと、もう食べ物が特に関係ないところで怒ってる(その後、たまたま行った飲み屋で制作の人間と遭遇し、噴飯制裁を加える)ので、その辺で省かれたのかもしれません。