つづきはまた明日

漫画版『子供の情景』には小さな痛み

つづきはまた明日 紺野キタ
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

一年前に母を亡くした藤沢家。小五の兄・杳(はるか)と妹の小一・清(さや)は、隣に越してきた原田家の一人娘・小五の佐保を見て驚く。 「お母さんの、子供の頃の写真とそっくり……」 ◉◉◉◉◉ 男女なのに似ている杳と佐保。佐保に親しみを感じる清。杳と似た雰囲気を持つ杳の幼馴染の綾瀬ことみ。不思議な縁で繋がる彼らには、取り立てて大きな事件もドラマも無い。優しいタッチと植物の装飾で描かれる「夢と現」の日常は、明るさも切なさも子供らしい下ネタすら可愛らしく包摂して、ただ其処にある。 彼らの日々を綴りながら、子供の感性について、子供・大人双方の視点から描かれる。幼い清の空想世界を楽しむ大人。少し遠くを見る杳の詩情に魅せられる佐保。人の心に寄り添う佐保の優しさ。子供を見守りつつ自らの心を見つめる大人達……そこにある感性は豊かだ。 楽しい事ばかりでは無い。折々に亡き母を思う兄妹は、時に感情の処し方に迷い、それでも日常を、悲しみ切なさと共に笑って生きる。その在り方は、何があっても「生きていかなければいけない」私達の心の処方箋でもある。 シューマンの楽曲よりは、心が「痛む」感覚のある『子供の情景』と言いたい。

ドナー法―ある臓器移植コーディネーターの記録―

肉親の臓器で生きる他人へ向ける感情

ドナー法―ある臓器移植コーディネーターの記録― いなずまたかし
兎来栄寿
兎来栄寿

『1718』のいなずまたかしさんの新作は、医療監修が入った「臓器移植コーディネーター」という職種(日本では70人程度)を描くマンガです。 医療AIの技術が発達した近未来的な世界観で、「全国民に死亡時の臓器提供が義務付けられている」という法が制定されているという設定で描かれています。しかし、多少の違いはあれど実質的にはほぼ現代劇です。 1巻で描かれるのは ・幼い娘が脳死して受け入れられないまま臓器提供をし受給者に会う権利を行使する両親 ・70代の母親に養われる50歳になったニートの女性 ・就職で不利になる臓器移植受給者の若者 ・自分を捨てた父親から臓器提供を受けて生きながらえることになる青年 といったエピソード。どのお話も現代社会に存在する問題を端的かつ的確に切り取っており、人によっては自らに近しいテーマのお話に強く共感できることでしょう。 主人公のコーディネーター・立浪は、臓器提供という1分1秒を争う仕事を完遂するために時に非人道的に見える言動で反感を買いますが、ある意味ではそうして憎まれ役になることも死に行く者や遺族へのサポートになっている面もあるだろうなと感じます。 また、臓器提供というテーマについても改めて考えさせられました。他人の一部を体に宿して生きるということが持つ意味。提供する者、受給して生きていく者、それぞれの側面から生まれるドラマは重厚で深いです。 実写ドラマ化されても良い作品です。

じゃあまたね 完全版

清原なつの先生の猫マンガであり自伝マンガでもある

じゃあまたね 完全版 清原なつの
かしこ
かしこ

金沢大学の薬学部に通いながら少女マンガにSFを描いていた清原なつの先生。『じゃあまたね 完全版』は、編集者さんからの「猫のマンガ描きませんか?」という提案をきっかけに描かれたそうで、猫のタイガーを飼い始めた少女時代からタイガーが亡くなる大学卒業までを回想した自伝マンガになっています。 読んでみてオリジナリティに溢れた作品がどうして生み出されたのか少しだけ分かったような気がしました。りぼんでデビューしたのが偶然だったのには驚いたし、ペンネームにまつわるエピソードも面白かったです。就職ではなくマンガ家を専業に選ばれた理由も先生らしいと思いました。 大学生の頃にはすでに花岡ちゃんシリーズも描き始めていたそうで、これから先の清原なつの先生のまんが道も知りたい!というのが正直なところですが、タイガーが亡くなってから40年ペットロスだと語られていたので、これはこれで完結するべき作品なのでしょう。でも気が向いたらぜひ続きを描いてくださいね! ちなみに紙版の単行本には収めきれなかった複数のエピソードが電子版には収録されています。なので電子版はタイトルが『完全版』となっています。

カノジョも彼女

どっちか選ぶんじゃない!二人同時に大事にするラブコメ

カノジョも彼女 ヒロユキ
六文銭
六文銭

沸点が低いもので、アホガールを筆頭にヒロユキ氏のハイテンションギャグが大好きなんです。 新作が出ていることを見落としていたので、慌てて読みましたが、その面白さに一瞬で溶けました。 やっぱりいいです。 彼女がいる主人公が、美少女に告白されて、「正々堂々」二股するという話。 この「正々堂々」というのがポイント。 主人公は、嘘をつけないというか、変にクソ真面目なところがあるので、二股も隠れてすることができず、彼女にしっかりと懇願し、このような展開に。 そして、元々の彼女・咲(さき)と、告白した渚(なぎさ)と主人公の3人で同居生活をすることになる。 この時点で、もう十分面白い。 隠れて二股したり、つかず離れずの女性関係が多いハーレムものとも異なり「彼女」として2人と同時に付き合うとか斬新すぎるでしょ。 そして、それを許す「彼女」二人もまたスゴイ。 普通、こういう関係だと、とったとられただののドロドロの地獄絵図を想像しますが、そんなことにはならず、お互いの良いところ認め、むしろ主人公との関係を鼓舞するようなサポートもしていきます。 なんて良い子達なの…。このヒロインたちも本作の魅力なんです。 咲は思い切った性格で元気いっぱいで可愛い。 渚は甲斐甲斐しく健気で可愛い。(勉強できないというおバカ設定あり。) 2巻以降は巨乳の第3のヒロイン・理香(主人公に告白したが、玉砕)も出てきて、飽きさせません。 また、そんな魅力的なヒロインたちと織りなすラブコメもよいのですが、 何より主人公がこのヒロインたちを精一杯大事にする姿もまた魅力的です。 どんな時もどっちか一方だけに肩入れとかせず両方大事にする姿勢を貫きます。全くブレない。 二股 とやっていることは下衆っぽいですが、ここまで一生懸命だと、逆にカッコよくなるから不思議です。 どちらかを選ぶのではなく、どっちも選ぶ。 なかなかよいラブコメではないでしょうか。

すみっこの空さん

小1と亀、対話と鮮やかな発想の書

すみっこの空さん たなかのか
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

亀のプラトンは主人と引っ越したギリシャで、師たるソクラテスと出会う。主人を神さまと呼ぶソクラテス先生と、日々を共にしながら交わす対話は、プラトンを哲学の深淵へと誘うのでした……。 ☆☆☆☆☆ という感じのプラトン(亀)のモノローグで進む本作。とにかく驚く程の「鮮やかさ」に満ちている。 ソクラテス先生と呼ばれるのは、小1の少女・空さん。彼女の発想には、軽やかな飛躍と本質的な物の捉え方がある一方で、常に人を肯定し人の背を押す優しさがある。触れた瞬間、迷える人の目の前がパッと開ける様な、鮮やかな言葉。 その鮮やかさは、都会で負けて帰郷して来た主人、田舎から飛び出したい女子高生といった、こんがらがった人達を救っていく。彼らの行く先のエピソードも、日々を迷走する私達の救いとなる物語だ。 空さんと級友達のコロコロしたフォルムと、(日本の)田園風景の鮮やかさが相まって、そこは神の庭なのか?空さん達は天使なのか?と思う程の、愛らしくも神々しいイラストレーションが展開され、癒される。宗教画の天使図の中で、プラトンと一緒に空さんの「てちゅがく」に何度も驚嘆する「しんはっけん」に満ちた書だ。

胸にとげさすことばかり

死んだ父親が残したのは、家と"謎の男"

胸にとげさすことばかり 雁須磨子
nyae
nyae

自分がゲイであることを受け入れてもらえなかったことで家出してから、実家との縁を断っていた主人公・昭が、父の死をきっかけに田舎に帰ります。そこで出会った謎の青年・舟は、生前の父親とやけに親しかったようで…同性愛なんか認めない父親が、どうして?(しかもこんなイケメンと!?ずるい!) まるで死んだ父親を含めた歪な三角関係が出来上がってしまっているようにも見えます。しかし地元を離れていた約十年のあいだ、父親がどう生きてなにを思っていたかは昭は知りません。何もかも上手く行かない人生にくすぶっていた昭も、舟に出会ったことでその空白の十年と向き合い、変わっていく様子が描かれます。最初は素性の知れない舟に対してピリピリしっぱなしだった昭も、舟と同居するようになってどんどん丸くなります。そして逆に、昭と出会ったことで舟も本当の自分に気づき始めます。 ボーイズラブであることには間違いないですが、若い頃、田舎に残してきた"しこり"といつかは向き合わなければならないことを思い出させるような、そういう話でもあると思います。あと個人的に、ふたりが両思いになるまでに長い時間を使うのは好きな方です。2回くらい昭が下心出したときに舟からすごい拒絶のされ方してますからね。そう考えると昭のメンタルは強靭だな… 脇役もみんないい味出してます。

美川べるのといかゴリラのまんが飯

かつてここまで美味しくなさそうなグルメ漫画があったのか

美川べるのといかゴリラのまんが飯 美川べるの いかゴリラ
六文銭
六文銭

待ってました。個人的に好きすぎるいかゴリラ先生の新作。 (いかゴリラ先生を知らないって人は、まず「オタクだよ!いかゴリラの元気が出るマンガ」を読んでほしいです。もしくは、いかごりら先生のtwitterをみてみると雰囲気がわかると思います) 知っている方はご存知だと思いますが、独特のハイテンションが持ち味のギャグ漫画家なのですが画力がアレなんですよ。 キャラクターの手なんか 「なんで、この人クリームパンずっと持ってんの」 って言いたくなるくらいの絵。 でも、どことなくそれが味があってよいし、開き直ってギャグにしている感じもよいんです。 そして、そんな画力のいかゴリラ先生が、まさかのグルメ漫画。 グルメ漫画のウリといえば美味しそうな絵でしょう。 なんでいかゴリラ先生なんでしょう?と一瞬思いますが、まぁ、面白い。 どれも絶望的に美味しくなさそうなのですが、それをベースにしたギャグが最高なんです。 描けなくなったからと実写を使ったあたりとか腹抱えて笑いました。 基本は、美川べるのといかゴリラ、あと編集担当の方、3人で毎回ある食材や料理をテーマに沿って展開されます。 一風変わったグルメ漫画・・・というかギャグを所望しているかたに是非おすすめしたい作品です。