全2話で読み応えある作品
映画にもなっているので、もう少し長い話かと思っていました。「夕凪の街」と2話からになる「桜の国」、合わせて100ページ少々。決して情報量は多くありません。しかしセリフやしぐさの裏側にある何かが心にひっかかり読み応えある作品。生死、愛情、平和…、ありきたりだけど、いろんなことを考えさせられてしまいました。特にそれを意識したのは、「夕凪の街」を読んだ後。原爆が投下されてから10年後のヒロシマ。被曝しながらも生き残った女性を描くこの作品には、全編にうっすらと”哀”が漂っています。そしてほぼモノローグで語られる、繊細ではかないラスト3ページ。なんとなく、白いページにほんのりと薄紅がのって、桜の花びらのようにコマが散っていく、そんな印象を受けました。それでいて、話として何も終わらせてくれない。あとがきにもあるように、読んだ後にどう自分の中で消化していくかによって、この作品の世界観は完結するのでしょう。短い作品でも読後に残る心の作業は多いと思います。