『HiGH&LOW THE WORST X CROSS』の源流はどおくまん『熱笑!!花沢高校』にある

『熱笑!!花沢高校』

 先日、映画『HiGH&LOW THE WORST X CROSS』(以下ザワクロ)を見ました。『HiGH&LOW(以下ハイロー)については皆さん見ていらっしゃるでしょうが……、や、見てないって人もいるかも知れませんが、『邦キチ映子さん』とか『シネマこんぷれっくす!』とかの映画紹介系漫画でも絶賛されてたでしょ! 見ろ! 見てください!

 

 

とりあえずこの「HiGH&LOW THE MOVIE 2 / END OF SKY」Action Special Trailerを見ていただければ、「よくわからんがとにかくアクションが凄い」ということは分かっていただけるのではないかと思います。「ダンスやってる人は運動能力がガチで凄い」という話を聞いたことがありますが、それが納得のアクション。5分32秒からの格ゲーみたいな動きとかほんと劇場で見てビビりましたもん。あと多数対多数の集団戦の描き方が本当に凄い。5分10秒当たりからの一連を見れば、画面隅の方のモブ対モブまでしっかり戦ってるのがよく分かると思います。「資金力がないところが戦国物とかをやろうとすると合戦シーンがしょぼくなりがち」問題の逆ですね。さすがLDHの力。
 で、19年に公開された『HiGH&LOW THE WORST』(以下ザワ)およびザワクロは、そのハイローが髙橋ヒロシクローズ』『WORST』シリーズとクロスオーバーした作品となっております。

 

 

クロスオーバーと言っても、『WORST』よりさらに後の時間軸が舞台であり、『クローズ』『WORST』本編に登場するキャラは基本的に出てこないですし、それまでのハイローシリーズに登場していないキャラが主人公の新しい話ですので、『クローズ』『WORST』およびハイロー既存シリーズを未履修の方はここから見てもいいと思います。集団戦の見せ方もそれまで以上にキレッキレでして、この鳳仙学園Special Trailerの38秒あたりからを見るとよく分かると思います(あと曲が良くて、劇中でもこの「ジャンジャカジャンジャカジャンジャカージャン ジャジャジャジャラジャジャ」というイントロが入るとテンション上がりますね)。
 そもそもハイローは、ロマン優光氏のコラムで「おそろしく簡単にまとめると、3次元化された不良漫画です。不良漫画を実写映画化とかではなく、3次元で提示された不良漫画そのもの、それがハイローシリーズです。」と端的に指摘されているように、もともと『クローズ』『WORST』などの影響を強く受けています。そしてさらに、この『クローズ』『WORST』に大きな影響を与えている漫画があります。『クローズ』『WORST』に大きく影響を与えているということは、つまりハイローシリーズ及びザワクロの源流でもあるということ。その作品こそが、どおくまん『熱笑!!花沢高校』です。同作についてはマンバ通信でも以前に前田隆弘氏が記事を書かれており、どおくまんインタビューもあるのですが、あらためてこの機に、前田氏が触れなかった所をメインに当方でも紹介しようと思います。

 なお、『クローズ』『WORST』に『花沢高校』が大きく影響を与えているというのは別に筆者の与太ではなく(筆者はTwitterとか同人誌とかでは「『咲-Saki-』は『花引き ヴォルガ竹之丞伝』の影響を受けている」などの与太をよく書きますが、ちゃんとした記事では書かない程度の理性はあります)、前田氏の記事でも指摘されておりますし、そもそも『クローズ』の最初の方の巻のおまけページで好きな漫画作品に『花沢高校』が挙げられていました。特に『WORST』における月島花-花木九里虎という主要キャラ二人の関係は、力勝男-獣田三郎という『花沢高校』主要キャラ二人の関係を踏襲しているというのは少なくない読者が思っていたことなので、後に髙橋ヒロシオフィシャルツイッターで、
“漫画界最強のキャラは誰だと思いますか?と聞かれたら、わたしは迷わずこう答えるでしょう。『はい、それは花沢高校の獣田三郎であります!』と。”

 

 

“この男の50メートルパンチを食らったら絶対死ぬ どおくまん先生は本当に偉大です! #花沢高校 #獣田三郎 #50メートルパンチ #どおくまん #秋田書店 #偉大な先輩 #オレにとっての神”

 

 

と書かれてたのを見た時には、「やっぱりそうっすよね!」と勝手に納得したものです。この「個人としても強いが、同時に人望もある主人公」と「個人としての強さでは主人公より上だが、学校の頭にはならないキャラ」という配置は、『クローズ』(坊屋春道-リンダマン)『WORST』(月島花-花木九里虎)はもちろん、ザワ・ザワクロでのメイン勢力である鬼邪高校(おやこうこう、と読みます)の主人公・花岡楓士雄と轟洋介(ハイローシリーズとザワ・ザワクロに通して登場する重要キャラ。CLAMP作品のメガネ美青年をそのまま三次元化したみたいな見た目で、不良に恨みを持っていた過去から自らの体を鍛え不良狩りをしていた。スタイリッシュに投石をしたり、『君主論』を読みながら筋トレをするというこの世でたぶん彼とアイドルマスターシャイニーカラーズの有栖川夏葉さんしかやらないような真似をしたりする)にも継承されているわけで、『花沢高校』がいかに偉大かと言えましょう。

 と、例のごとく長い前置きを書いたところで、ようやく『花沢高校』の内容紹介に入ります。といっても、基本的な所は先述の前田氏の記事に書いてありますので、そちらをまず読んでください。書かれておりますように、本作は最初ギャグ漫画として始まり、次第にシリアスな合戦漫画になっていくという『キン肉マン』的な存在であり、当時の単行本ソデの作者コメントや、インタビューでも書いている通り、作者的には前半のギャグ部分の方が気に入っているそうなのですが、

 

 

 筆者は圧倒的に後半の方が好きなのです。何でかといいますと、高校生の喧嘩とは言えないレベルでエスカレートしていくから。
 本作後半のストーリーは、大阪を制圧せんとする悪の高校生グループ「北大阪の虎」と、力たち正義の高校生グループ「黒いゲリラ」との闘いが筋となります。この「虎」が、「不良高校生」ってレベルじゃない悪さなんですよ。何しろ、重火器1万4000点と覚醒剤20kg以上を持ち、暴力団の幹部や海外の密貿易関係の大物とも付き合いがあるんですから。

 

『熱笑!!花沢高校』29巻160〜161ページより

 

 不始末をした幹部には、「ファイヤーハンド」という、熱々に熱せられた篭手で顔面を焼かれるという半端ない私刑が執行されます。

 

『熱笑!!花沢高校』21巻16〜17ページより

 

 武装も、不良らしくバイクに乗るというだけでは済まず、なんか普通に対空砲と対地ミサイルを積んだヘリコプターとか持ってます。「不良の喧嘩」で出てきていい単語じゃないですよヘリコプター。

 

『熱笑!!花沢高校』24巻180ページより。対地ミサイル、「大ヤケド」で済むのか……?

 

 なので、それに対抗する力たち「黒いゲリラ」側も、カッコいいユニコーンヘッドがついたバイクにバズーカ砲(人は死なないそうです。安心ですね。たぶん特殊なカーボンとか使ってるんだと思います)を装備したりしますし、

 

『熱笑!!花沢高校』20巻100〜101ページより

 

 最終的には、「バイク」という言葉の定義が揺らぐようなとてつもない「戦闘用バイク」に乗って戦います。

 

『熱笑!!花沢高校』21巻110〜111ページより
『熱笑!!花沢高校』28巻51ページより。この説明だと書かれてないですが、ホバークラフト装置がついているので水上も走れます

 

 で、装備だけでなく人数とかのスケールもデカい。前哨戦的な存在である「北大阪戦争」の時点で、このように北大阪一帯すべてを巻き込んだ、完全に戦国大名の合戦のような絵図が示されます。高校は城で番長は大名です。

 

『熱笑!!花沢高校』20巻28〜29ページより

 

 そして最終決戦である「地獄ヶ原の戦い」は、北大阪の虎1万7000人と黒いゲリラ8410人がぶつかるという、もう完全に関ヶ原の戦い状態になります。見てくださいよこの戦場図。「不良高校生の喧嘩」という次元ではない。

 

『熱笑!!花沢高校』26巻28〜29ページより

 

 戦いの前には、「黒いゲリラ」のメンバーに、「生きて帰れるか分からない戦いの前に、家族や恋人と別れを惜しんでこい」と一日休暇が与えられます。

 

『熱笑!!花沢高校』25巻28〜29ページより

 

 ここまでスケールを広げながらも、決戦の日が8月10日なのが「夏休みだから」と高校生感をギリギリ忘れないのも何とも凄い所です。こいつら、常に仮面とかつけてるけど普通に登校したり授業も受けたりしてるんでしょうね……。

 

『熱笑!!花沢高校』23巻82〜83ページより

 

 なお、最初の方で書きました「最強の男」獣田三郎はんは、この合戦のクライマックスで、どういう原理で飛んでるのかよくわからないがとにかく異常にカッコいいマシンに乗っておいしいところを持っていきます。さすがです。

 

『熱笑!!花沢高校』28巻48〜49ページより。こんなマシンと人が空から攻めて来たらそりゃ誰でも敗れますよ。欲を言えば最後は50メートルパンチで締めてほしかった

 

 そして本作がさらに凄いのは「力で力を倒したから終わり」にならないことです。詳述は避けますが、最終巻の各話サブタイトルを見て察してください。

『熱笑!!花沢高校』29巻2ページより

 凄いでしょう。そして到達する、「作者としてすばらしき結末を約束します」という「男の花道」、これはぜひ皆さんの目で確かめてください。幸い電書化されていて今なら読むの容易です。ハイローメイトなら気に入る漫画だと思いますのでぜひ。

 

 

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