どおくまんのすすめ ―その3 合戦マンガの傑作『熱笑!! 花沢高校』

どおくまん作品を紹介するシリーズ、最終回となる今回は「熱笑!! 花沢高校」。大阪市にある花沢高校を舞台にした、不良ものマンガです。

このシリーズの第1回で紹介した「暴力大将」の主人公・力道剛は「親分系」のキャラクター、第2回で紹介した「嗚呼!! 花の応援団」の(実質的な)主人公・青田赤道は、「怪物系」のキャラクターでしたが、「熱笑!! 花沢高校」では「親分系」と「怪物系」のキャラが両方登場します。

親分系キャラは、このマンガの主人公である力勝男(りき・かつお)。ゴツい体にコワモテの顔というルックスですが、その外見とは裏腹に泣き虫で、中学の間ずっといじめられてきた過去があります。そんな人生を変えたくて、同じ中学の人間が誰もいない花沢高校に入学、高校デビューを目指すところから物語が始まります。

怪物系キャラは、獣田三郎(じゅうだ・さぶろう)。異常に性欲が強く、異常にケンカが強く、街中の不良が震え上がる存在でありながら、番長になることはなく、あくまでも一匹狼を貫き通している男です。

ちょっと脱線しますけど、「性欲が強い」「ケンカが強い」「一匹狼」というキャラクターの獣田は、そのまんま高橋ヒロシ「WORST」の花木九里虎のモデルになっているように思います。このことを指摘している読者は多いのですが、高橋ヒロシ自身も好きなマンガに「熱笑!! 花沢高校」を挙げているので、きっとそうなのだろうなと。

ついでにいうと「WORST」の月島花は、顔つきや野生児っぽい身体能力、のんびりした気性が「暴力大将」の力道剛を思い出させます。というか、「WORST」もまた親分系キャラと怪物系キャラが織り成すドラマとして描かれているという点で、どおくまんの遺伝子を継ぐマンガだと言えるのかもしれません。

さて話は戻って花沢高校。

このマンガ、最初はギャグマンガとして描かれているんですよ。

ゴリラみたいな体格をしているのに、人一倍気が弱い(ケンカも弱いと思っている)勝男が、顔の迫力だけで相手を負かしてしまったり、不良から目をつけられてあの手この手で逃げ回ったり。追い詰められて不良やヤクザをのしているうちに、勝男は「自分は強いのでは…」と気がついていくのですが、調子に乗って獣田にケンカを売ってしまいます。そこで登場するのが、この必殺技。

その名も「50メートルパンチ」。

発動させるのに、まず自分をトランス状態に持っていく必殺技って見たことあります!? 私は後にも先にも、これしか見たことないです。あとこのネーミング。少年マンガ的なカッコよさ、もっといえば「中2病的なカッコよさ」が一切なく、それでいて威力のすごさはやたら具体的に伝わってくる。このへんのセンスも、さすがどおくまんだなあと思います。

で、何度も言うように序盤はギャグマンガで、不良とケンカはするけれども勝男は基本的にずっとビクビクしてるし、何かの拍子に不良が獣田を怒らせてしまって「50メートルパンチ」が発動、大パニックに……みたいな展開が続くのです。

ところが。

勝男が襲い掛かってくる不良たちを倒していくうち、物語はだんだんとバトルマンガの様相を呈していきます。

花沢高校を牛耳る、花沢三人衆。どおくまんの描く敵役には、常に「おどろおどろしさ」が漂っているのがいいですね。花沢高校三人衆を倒すと、今度は大阪最大の不良組織「北大阪の虎」が勝男たちを傘下におさめようとしますが、勝男はそれに反発。そこから勝男率いる「黒いゲリラ」対「北大阪の虎」との大規模な戦いに発展していきます。

しかしこの「北大阪の虎」の面々、とにかくクセが強い!

花沢高校を新しく統括するために送り込まれた幽鬼(中央)。左右に従えているのは、部下の四鬼と五鬼。

少年院から出所してきた、「北大阪の虎」の大幹部「虎の五悪神」。あまりにも少年離れした風貌ですが、もちろん彼らも高校生。日中は根城となる高校に滞在していますし、「夏休み」というキーワードがふいに飛び出したりもします。

「北大阪の虎」の首領・天界君主(てんかい・くんど)がこれまた強烈なキャラクターなのですが(愛車も)、それは本編をお読みくださいってことで。

で、ギャグマンガ→バトルマンガへとシフトしてきたこの「花沢高校」ですが、このあたりからさらなる変化を遂げます。いや、バトルはバトルなのですが、「強い奴と強い奴が戦う」というバトルではなく、「大軍勢と大軍勢が戦う」というタイプのバトルになっていくのです。

最近のマンガでいうなら「キングダム」のような展開。ものすごくケンカの強いキャラはいるが、彼ら一人一人の力だけで勝負が決まるのでなく、「軍勢をどう配備してどう攻めるか」が勝敗の鍵をにぎるようになる。

ギャグマンガ→バトルマンガときて、最終的には合戦マンガとなるのです。

「キャラの迫力」+「緻密な描き込み」は、どおくまん作品の大きな特徴だと言えますが、この「花沢高校」は特にその集大成のような作品だと思います。後半に入ってからの集団のぶつかり合いのグルーヴはものすごいものがある。

この集団戦の描き込みぶりたるや!

こういうハイテンション&ハイクオリティの集団戦が「花沢高校」のおもしろさですよ、ということでこの原稿を終わってもよいのですが、ただ闇雲に強い敵また強い敵を求めていくタイプのマンガとは違いますよ、ということだけは言っておきたい。

形としては不良と不良のケンカなのですが、力勝男は野望のためではなく、みんなを助けるために行動している。だからこそ、その意志に賛同して人がついてくる。単純なケンカの強さなら、怪物系キャラの獣田が劇中最強なのですが、主役はあくまでも親分系キャラの力勝男。そして本当に勝男は親分と呼ぶべき存在に成長していくのです。

最初のキャラ紹介とくらべてほしいのですが、主人公の力勝男はこんな顔つきに変わります。

描き込みの多い絵ではないけれど、いろんなものが伝わってくるカットです。ケンカが強そうだけど、それだけではない。器の大きさ、責任感の大きさみたいなものが見事に顔つきに表れている。そして何より「主役の顔」をしている。「マンガにおける画力ってこういうことなのかな」と思ってしまいました。

というわけで、ギャグマンガでもあり、バトルマンガでもあり、合戦マンガでもある「熱笑!! 花沢高校」おすすめです。


「どおくまんのすすめ」の他の記事もあわせてどうぞ!!

どおくまんのすすめ ―その1『暴力大将』

この作品との出会いは小学生のとき。床屋の待合室で、小学生にとってはものすごくインパクトのあるタイトルにひかれて手に取ってみたら、そのまま読みふけって、カットの順番が回ってきても読みふけって、カットが終わっても居座って読みふけって、それでもその日は読み終わらずに、それから2日ほど床屋に通い続けて読みふけって読破したのでした。普通に考えたらめちゃくちゃ迷惑な客だと思うのだけど、なぜか床屋の兄ちゃ…

どおくまんのすすめ ―その2『嗚呼!!花の応援団』

リアルタイムでどおくまんに触れてきた読者にとっては、これこそがどおくまんの大ヒット作であり、代表作であり、「ザッツ・どおくまん」というべき作品だろうと思います。 1970年代に連載されていたマンガなので、大ヒットしたといってもピンとこない人も多いと思いますが、マンガのヒットを受けて映画化された……といえば、ヒット感が少しは伝わるでしょうか。 …


どおくまん「熱笑!! 花沢高校」

Amazon KindleeBook Japanで全29巻配信中(Kindle Unlimitedでも全巻読めます)

マンバには『熱笑!! 花沢高校』好きからのクチコミが集まっています!!

熱笑!! 花沢高校に関するマンガ情報・クチコミ一覧

熱笑!! 花沢高校 どおくまんプロ どおくまんに関するマンガ情報・クチコミはマンバでチェック!ユーザーからのおもしろクチコミ情報が満載です!皆さんからの投稿も随時お待ちしています!

熱笑!! 花沢高校 (1)

コワモテなのに弱虫で中学時代はいじめられっこだった力勝男(りき・かつお)は&…

記事へのコメント
コメントする

話題に出た作品のクチコミ

影絵が趣味
影絵が趣味
2018/11/10
無数の事実としての、無数の奇跡としての・・・
いよいよ『キングダム』が化けの皮を脱ぎ捨てて、その本質を剥き出しにしてきたと思うわけです。これまで毎週のようにキングダムに夢中になっていながら、どうも周囲の熱狂ぶりから一歩身を引いてしまう自分がいました、自分の夢中になるポイントがどうも周囲とはズレているように思われて仕方なかったのです。 あるいは戦術的な細かな考察であったり、あるいは将軍たちの個性をマネジメント能力や経営論の名のもとにビジネス書にまでしてしまう素っ頓狂な連中、そろそろこういったものたちに厳しくノーを突き付けなければならないような気がするのです。やれキングダムから世間を語ろうがビジネスを語ろうが何を語ろうがそれはまったくの自由だが、そうすることでキングダムというこの漫画の一頁一頁に迸っている本来の魅力をうっかり見逃してしまいはしないか、そんな危惧があるのです。キングダムの魅力は、そんなふうに何かに援用されて語られるような二義的なものではないと切に思うのです。二義的であるというのは、すなわち根本的ではないということ。上記のような援用の仕草は、無数の事象の積み重ねによる幾重もの絡まり合いから途方もない事実として現前にあらわれる「いま、ここ」にあるものを単なる何かの理由からくる結果として弄んでしまう。 世間的には支離滅裂だと不評だった犬戎戦で、「元と正せば我こそが貴様らの祖、貴様らの王である」と因果論を振りかざすロゾに対して、フィゴ王は言わなかったか。 「何が王か、何が祖か、一体何百年前の話をしているのだ貴様は  貴様ら犬戎と我ら山の民は大きく違う  貴様らはこの平地の孤島遼陽に滞まり続けたが  我らは西の大山界で覇を争い戦い続けてきた  滞まるお前たちと違い、我らはそれぞれ夢に立ち向かう者」 まずフィゴ王は犬戎と山の民の違いを指摘してみせた、それはまさしく、ひとつの因果としての捏造された物語に組み入れられることへの拒否にほかならない、つまり、お前はお前だが、俺は俺だ、勝手に一緒にしてくれるなということ。その上で「我らは"それぞれ"の夢に立ち向かう者」、つまり、我らはお前が勝手にのたまう因果の物語には生きていない、我はそれぞれの目の前に瞬間ごとに立ちはだかるこの現実をしかと見据えている、ということだと思うのです。 そして最新話、散々騒がれた隊の覚醒とは、ひとはそこに因果を探りたくもなるものだが、じっさいには単なる因果とはまるで無縁の、いや無数の一瞬一瞬からくる因果のはてに荒唐無稽と呼びうるまでになった途方もない現実の積み重ね、ほとんどそのひとつひとつが奇跡ともいえる圧倒的に現前する事実また事実の一回かぎりの繰り返し、そのたったひとつとしての士気の爆発でした。 だいたい私たちはどんな因果の物語に括られようが、じぶんにこの先いったい何が待っているのか、そんなことは誰に言われるでもなくわかっているのです。同じようにキングダムの結果だってわかっているのです、秦は中華を統一して、やがて滅び去るのです。そして、ほかでもない私たちは秦が中華を統一した後の世界に生きている、そこにどんな因果があるだろうかはひとそれぞれにしても、とにかくこの事実だけはどうしてもひっくり返りようのない途方もない奇跡のような事実なのです。
さいろく
さいろく
2020/01/06
伝説の鈴蘭高校を継ぐ者達
クローズと打って変わって、というのは主人公だけかもしれないけど、しっかり時代も(ファッションとか)ちょっとだけ進んでいます。 主人公はむしろ田舎から出てきた月島花(ハナ)という野生児で、人間だけどドラゴンボールの悟空みたいな性格してるやつ。 争うのはいいけどその後は認めあって仲良くなる、そんな自然界での生存術を伝説のカラスの学校に持ち込んだらどうなるんだい、という感じですね。 クローズは映画化されてたりしてスポット浴びてる気がするんですが、多分実際にみんなに読まれていて今の若い子たちに人気があるのはダントツでこっちだと思われます。 スピンオフでの花木九里虎ストーリーなんかも人気みたいですし(絵も高橋組の皆さんはいい意味で似てて崩さすぎず良いと思いますし鈴木大先生もちゃんと独立?できてると思います多分)コンテンツとして一つの大きなカテゴリを作ったなーという感じ。 WORSTにおいてはクローズで作られた地盤をそのまま崩さず、ライバル校や武装戦線、その他地方との関わりやなんかもまたいい感じに世代交代が出来ていて、胸アツな物語が繰り広げられています。 なんだろう、安心して読めるっていうのが一つ強みなのかもしれないな。QPとかトムとジェリー外伝みたいなのはハラハラするけど。 もちろん予定調和ばかりなわけでは全然ないし、何度読んでもいいシーンがいっぱいあります。 クローズ知ったのがちょっと遅かったんでWORSTは単行本で新刊追う感じに読めてたんですよね、だからリアルタイムでちゃんと読めてたのはこっちなのかも。 絵がうまくなってるから、という理由でこっちの方がクローズより好き、かな。

話題に出た著者

もっとみる