マンガの中のメガネとデブ【第15回】林田(麻生みこと『アレンとドラン』)

マンガの中のメガネとデブ【第15回】林田(麻生みこと『アレンとドラン』)

 マンガの中の定番キャラとして欠かせないのがメガネとデブ。昭和の昔から令和の今に至るまで、個性的な面々が物語を盛り上げてきた。どちらかというとイケてないキャラとして主人公の引き立て役になることが多いが、時には主役を張ることもある。

 そんなメガネとデブたちの中でも特に印象に残るキャラをピックアップする連載。第15回は[メガネ編]、麻生みこと『アレンとドラン』(2015年~連載中)の主人公・林田(はやしだ/下の名前不明)をご紹介しよう。

 田舎町から大学進学で上京してきた、おかっぱメガネの文系サブカル女子。林田の字面からSNSのアカウント名はリンダで、ゼミ仲間からも(ある時期以降)「リンダさん」と呼ばれている。ミニシアター系の映画が大好物で、フランソワ・オゾンやペドロ・アルモドバルが好き。タイトルの『アレンとドラン』は、ウディ・アレンとグザヴィエ・ドランから来ている。「マイペース」な「ぼっち上等」で、人と話せないわけではないが空気が読めず、どこかズレてるタイプ。ルックスや趣味嗜好など、キャラ的には11回で紹介した花岡ちゃんの現代版と言えるだろう。

 ただし、どちらかといえば自信家の花岡ちゃんと違って、林田(以下「リンダ」と読んでください)は自己評価が低い。映画の知識はハンパないが、それはただ好きなだけで、「私からその『好きなもの』を取ったら こんなつまんない人いない」と思っている。SNSで知り合ったサブカルクソオヤジに口説かれても「あんなおじさんでも好かれたのは嬉しかったんですぅ!」と言うほど恋愛経験は乏しい。「自己評価が低くて自意識が過剰で/同族がいいのに同族嫌悪/ああなんて面倒臭い」というのが彼女の(実にオタク的な)自己認識だ。そんな彼女にとって「メガネと前髪は精神的バリアかつステレオタイプに埋没して安心感を得るツール」なのである【図15-1】。

 

【図15-1】バーで江戸川に自虐的な話をぶっちゃける林田。麻生みこと『アレンとドラン』(講談社)1巻p22-23より

 

 本来ならそのまま孤高の映画オタク道を突き進むはずの林田だったが、サブカルクソオヤジに部屋に押し入られそうになったところを助けてくれた隣人の登場で、波瀾万丈の恋のドラマが幕を開ける。壁の薄いアパートの隣の部屋に住むその男は、同じ大学の1年先輩のクールなイケメン・江戸川(こちらも下の名前不明)。おしゃれなバーでバーテンダー見習いのバイトをしており、彼目当ての女性客も少なくない。林田も、最初に恥をさらした気安さから、(仕事の一環として)話を聞いてくれる彼に愚痴をこぼすべく、店に通うようになる。江戸川狙いの女性客に嫌みを言われても「僕の友達いじめないでくださいねえ」とかばってくれる彼を、気がつけば好きになっていた林田を誰が責められよう。

 しかし、この江戸川(林田は勝手に「エドガーさん」と呼んでいる)という男、めちゃくちゃモテて来る者拒まずだが、だいたい3カ月で別れるのが通例なのだった。本人に悪気はないが、女を「観察対象」としか見ておらず、本気で好きになることがない。そういう人間になったのにはそれなりの理由があるが、クールを通り越して冷徹に見える態度に女のほうが愛想を尽かす。どんな恋愛巧者の女の手にも余る。そんな厄介な相手をうっかり好きになってしまった林田には、当然いばらの道が待ち受けていて……

 ベクトルは違うが、どちらも恋愛能力に問題のある林田と江戸川(こちらも以下「エドガー」と読んでください)。ある意味、似た者同士と言えなくもない二人の難儀な関係に、林田と映画の趣味が合いまくりのゼミの教官・平良(たいら)もからんで、三角関係っぽい展開もあったりする。しかし、バツイチで林田と同年代の娘もいる平良は、あくまでも保護者的ポジション。林田と江戸川の恋愛面も含めた人間的成長が主題と言っていいだろう。林田のゼミ仲間との関係や就活エピソードも、その延長線上にある。

 テンポも言葉の選択も絶妙の会話は、そのまま映画やドラマにできそう。いろんなマニアックな映画ネタが出てくるので、そちらの趣味の人にもおすすめだ。そして、当連載のテーマであるメガネキャラ的にも、見どころは十分。ゼミ仲間との雪中お花見で涙と鼻水を拭こうとしてメガネを落とし「メガネメガネ」と探すという昭和のメガネキャラのお約束パフォーマンスも披露。ゼミの夏合宿初日でメガネを壊し、課題発表のパートナーとなった男子に「『メガネ外すと美女』なんて漫画みたいな話ないかー」とガッカリされたりもする【図15-2】。

 

【図15-2】ゼミの夏合宿でメガネを壊した林田に周りの反応は……。麻生みこと『アレンとドラン』(講談社)3巻p26-27より

 

 その合宿で普段着ないワンピースを着て「似合ってんじゃん/スカートもっとはけばいいのに」「普段もコンタクトにすれば可愛いのに」となどといじられるのもお約束なら、別の女子に「えー でもリンダさんはメガネっ子じゃなきゃ~ リンダさんらしくないよ~」と言われたりもする。そこで「非日常の空間でいつもと違う格好して軽く注目浴びて それが気にくわない他の女子に他愛ない嫌がらせを受けるまででワンセット/王道だ!」「大学生らしいサワヤカな普通のコミュニケーションに参加できてる!」と喜ぶ林田の分析力は立派だが、やはりいろいろ間違っているかもしれない。

 3年生の夏休み明け、周りの就活シフトに焦って遅ればせながら就活に本腰入れ出した林田だったが、いろいろあってなぜか江戸川の期間限定お試し彼女に就任。初めてのとろけるようなキスも経験するのだが、その場面でのメガネの扱いも最高だ【図15-3】。

 

【図15-3】慣れた手つきでそっとメガネを外す江戸川。林田にとってはもちろんファーストキス。麻生みこと『アレンとドラン』(講談社)5巻p90-91より

 

 メガネキャラとしては、林田の数少ない友達の堀田さんも落ち着いたいい感じのメガネ女子。映画関連会社の就活で知り合って、一瞬だけフェイク彼氏だった三島も味のある文系メガネ男子である。

 本稿執筆時点で絶賛連載中でまだまだどう転ぶかわからないが、最新6巻の最後には林田と江戸川に「ついにそうなっちゃうのーー!?」という展開が訪れる。現在進行形のサブカルメガネ女子恋愛マンガとして、見逃せない逸品だ。

 

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記事へのコメント

何度か読もうと思ったけど最初に出てくるおじさんが嫌すぎて挫折していた…。
でもやっぱり面白そうだな〜。

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