昭和スポ根は波乱万丈がお約束。ボウリングも然り。井出ちかえ 『最後のストライク』

『最後のストライク』

昭和45年頃。空前のボウリングブームが起きます。

高度経済成長真っ只中。

個人的な記憶ですが、この時期の少し前から「レジャー」なる言葉がテレビや雑誌、広告などで頻繁に使用されるようになった印象があります。

家族や友人と休暇を楽しみましょう。

海へ、山へ、施設へ。

そんな流れだったのか別の理由だったのか、全国でボウリングは大ブームとなって盛り上がりました。

プロボウラーとして積極的に媒体へ露出していた中山律子さんや須田開代子さんのタレント性も大きかったと思います。

ブーム当時はあちこちにあって乱立と言っていい状態のボウリング場でしたが、ブームが終結すると共にどんどん姿を消していきます。

このブーム終結も理由はよくわかりません。

ボウリングブームから10年ほど後に、同じくあっという間に全国を席巻したインベーダーゲームのブームも短期間にブームを終えます。

オタク第一世代の私はどちらもリアルタイムで経験しましたが、本当に記憶を振り返ってもあんなに盛り上がってたのに何故?

と思うくらいピークから終結までが短かったのですよ。

短期間に日本中を席巻して終結した、70年代二大短期大ブームと勝手に名付けてます。

そんなたとえ短期間でも大ブームに漫画界が乗っからないなんてことはあり得ません。

あり得ませんが、今回調べてみて当時のボウリング漫画に関する情報が少ないのに驚きました。

割と多くの漫画があったと記憶しているのですが、私の勘違いなのでしょうか。

『美しきチャレンジャー』というテレビドラマなどと、ごっちゃになっているのかもしれません。

今回紹介するのは井出ちかえさんの『最後のストライク』です。

昭和46年、りぼん連載時の記憶は残念ながらありません。

手元にあるコミックスは、最近になって古書店で入手した物です。

表紙がいいですね。とても魅力的な絵です。

カバーの折り返しには大スターの「中山律子」さんの写真と推薦文が!

こういう驚きが原本を手に入れる喜びでもあります。

では内容をご紹介。

小さな大会で賞金を稼ぐ主人公の亜川丹子(あがわにこ、通称アニー)。

盲目の弟の目の手術代を稼ぐのが目的です。

しかし全米女子学生チャンピオンのロマに破れてからプロを目指すことに。

藤村隆史という紫のバラの人か、あるいは宗像コーチか、という立ち位置の男性と共に猛特訓に励みプロテスト合格。

そしてジャパンパールカップという大会でロマと再対決。

大まかな話の流れです。

『最後のストライク』(井出ちかえ/集英社)より

150ページ弱の長さですが、これでもかという怒涛の波乱万丈展開。一気に読んでしまいました。

昭和40年代少女漫画王道の瞳キラキラ主人公は、泣いて喜んで落ち込んで叫んで怒って驚愕してと休む暇無しです。

個人的な考えですが、昭和スポ根という漫画において少年漫画より少女漫画の方が主人公にとって大変な展開だと思いますがどうでしょうか。

大リーグ養成ギブスなるものを父親に無理やり装備させられる息子も大概辛いと思いますが、少女漫画の場合周囲の環境ひっくるめて主人公を苦しめていく印象が強いですね。

上げて落としての展開はスポ根には必須ですが、そこまで主人公をいじめなくてもと思ってしまいます。

スポーツではありませんが芸能界で生きていく女の子が主人公である細川智栄子さんの『あこがれ』は、私が読んだ漫画の中でトップを誇る壮絶な展開が進みます。

少年漫画では記憶に無い、それはそれは辛い物語です。

それでもひたむきに前へ進む主人公。

スポ根ならぬ芸根とでも言いましょうか。

現在でも大人向けの女性漫画だと主人公が落とされ上げられ、で話が進む面白い漫画がありますよね。

こやまゆかりさんの『バラ色の聖戦』や現在連載中の『やんごとなき一族』はその展開が顕著です。

『最後のストライク』も物語の途中上げて落とされた後に、アニーは利き腕を大けがします。

これはまあ、ありがちです。

しかしその後絶望したアニーは雨の中停泊中の漁船の中で眠り込むのですが、なんとその漁船に連れられ海の上で一週間過ごすのはかなり大胆な展開です。

『最後のストライク』(井出ちかえ/集英社)より

漁師さんたちとの交流で気持ちが切り替わり次への展開になっていきますから上手く構成されていますが、突然の漁師さんたちとの海の上での場面。

「なんで?」と思いましたが波乱万丈が基本なのだから、それもありという事です。

では肝心のボウリングについての描写はどうなのでしょう。

先述した『美しきチャレンジャー』は魔球ものです。物理法則を無視したボールの動きでスプリット(ピンとピンが離れて残った状態)を攻略します。

テレビドラマの、この魔球の動きを見ていたのは憶えてます。

7番と10番ピンが残るスプリットを回転するボールがスローで戻りながら倒す映像は何故か未だに鮮明に残ってます。

荒唐無稽も魔球も、野球に限らずフィクションのスポーツ物の大きな魅力でしょう。

『最後のストライク』は展開こそ波乱万丈ですが、ボウリングはなかなか現実的です。

我流の投げ方や、利き腕では無い方の手で投げてのスコア200オーバー連発なのは、突っ込むところではありますがスルーします。

でも非現実的な描写は無いと言っていいでしょう。

6番7番10番のピンが残ったスプリットをロマとは違う敵キャラが簡単に倒す場面がありますが、狙って取れる残り方ですしその通りに倒されます。

『最後のストライク』(井出ちかえ/集英社)より

とは言っても難易度はかなり高いですけどね。

展開が波乱万丈なのに対してボウリングは割と現実的。

このバランスが面白く一気に読める要因ではないかと思います。

 

さて今回記事を書く際に検索してみたら、ボウリング漫画が後の時代に結構描かれてるのを知りました。

どちらかというと雑誌派の私は読む雑誌以外の漫画に疎い傾向が強いのですよ。

全部読んでみたいですね。ボウリング好きなんですよ。

30代の頃はマイボールを作って、近くのボウリング場の会員になって毎日のように通ってた事もありました。

現在は無理です。一投でも投げようものなら足腰や股関節がどうなるか怖くて出来ません。

なんと『最後のストライク』は電子で読めます。

興味を持たれたら是非、王道昭和スポ根少女漫画の世界に触れてみてください。

 

記事へのコメント

父が若い頃ボーリングブームだったというのは聞いたことがあったのですが、りぼんで漫画になるほど人気だったのだと聞くとそのすごさがよくわかりますね!

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