都会先生の『会社がツライ なりたい自分を見つけるまで』(マガジンハウス)は、会社で息苦しくなった著者が自分が納得できる毎日を求めて退職する実録エッセイ。大きな夢を追い求めるわけでもなく、すぐに次の場所で華々しく花開くわけでもありませんが、他人と自分を比べながらもえいやと自分が楽しいほうに向かう姿に勇気づけられます。
最初は都会先生が電子機器を担っている会社で営業アシスタントとして働いているところから始まります。入社3年目で、電話の取次や会議の準備などをやりつつ新人育成も任され、一通りの仕事ができるようになったとき。多くの営業職をサポートしているものの、売り上げを伸ばす役割ではないため、なかなか周りにその大変さを理解してもらえません。それは社内だけでなく、ほかの仕事に就いた大学時代の友人からもです。
こうした中で都会先生の「迷走」が始まります。自己啓発本を読んだり、人生コンサルタントに相談したり。転職サービスにも登録しますがうまくいかず、「市場価値と逃げ場ゼロ」を認識することになりました。社内で営業職に挑戦しようとしても上司からの推薦状が得られず行き詰ります。
社内の営業職の「社内接待」などが描かれるエピソードから都会先生が営業アシスタントとして働いている当時の自分を受け入れられないことが伝わってきます。自分が楽しんで没頭できる仕事ではないうえに周りからも理解を得られないーー自己嫌悪を抱える中で気の合う先輩との雑談だけが都会先生をつなぎとめていましたが、心への負担が積み重なった結果、決壊してしまうのです。
追い詰められた都会先生は、同じ営業アシスタントの先輩の助言を得て休職を選びます。休むことを勧めてくれた先輩がいたのは都会先生にとっては幸運だったのかもしれません。
時間が確保できたことで、「自分の楽しいこと」を見つめなおした都会先生は営業アシスタントとして働いていたときを振り返り、自分にうんざりしていることに気が付きます。
もちろんどんな小さな仕事でも誇りを持ってどんな環境でも取り組み続けられることそのものは素晴らしいことです。しかし都会先生のように仕事そのものよりむしろその働く環境に違和感を持ち始め、心身に影響が出てきたら黄信号です。都会先生のようにその環境から抜け出すことは決して間違った選択ではありません。
最後に都会先生は退職後の状況を「ここは地獄なのか 天国なのか まだわからないけれど」と描写します。実際に正社員という立場を手放したことが正しい選択なのかどうかまだわかりません。しかし、自己嫌悪から抜け出せた都会先生が自分で未来を選ぶ選択肢を得たことは確かでしょう。