大阪を舞台にしたハートフル金融マンガ『まいど!南大阪信用金庫』

大阪を舞台にしたハートフル金融マンガ『まいど!南大阪信用金庫』

 金融機関が舞台になった小説、マンガ、ドラマというと、ドロドロした派閥争いや、出世競争、影のフィクサーの暗躍といったネタばかり、と考えている人が多いのではないだろうか。たしかに、ライバルや上司の罠にはまった主人公が「倍返し」を果たす、なんてのが明るい部類で、お金を借りた町工場が夜逃げ、みたいな暗いお話が多いのは事実だ。
 だが、銀行マンが主人公の人情マンガだってあるのだ。今回紹介する平井りゅうじ・原作、北見けんいち・作画の『まいど!南大阪信用金庫』もそのひとつである。
 舞台になるのは、南大阪の小都市。主人公の中井信吉(ナカやん)は、この町にある南大阪信用金庫(ナンシン)の新米渉外マンである。仕事熱心で行動派。その反面、おっちょこちょいなところがあって、失敗をすることもしばしば。そんなナカやんが、失敗の中から仕事のコツを学んで成長していく姿が毎回読み切り形式で描かれている。

 人情マンガに欠かせない魅力的な登場人物も揃っている。まずは、ナカやんを厳しい眼差しで見守る安藤支店長だ。安藤支店長の人柄はこんなエピソードから伝わってくる。
 窓口で現金トラブルが発生。八百安のご主人が33万円を預けたと主張するのに、窓口の佳代ちゃんは預かったのは30万3000円だった、というのだ。八尾安の主人は「行員がネコババしたに決まっている」と譲らないが、支店長は「うちにはそんな行員はおりまへん!!わいは自信と責任と誇りを持って部下を育てとります!!」と言い切る。取引先に対して、なかなか言えるセリフじゃない。そして、こう続けるのだ。「じゃかしい!! 親が子供を信じられんでどうするんじゃ!!」と。(イーブックジャパン電子版第1巻45P)
 ナカやんの奔走で、八尾安の勘違いが判明し、八尾安の主人は以前にも増してナンシンファンになりめでたしめでたし。それにしても、支店のみなさんが本当に羨ましい。こんな支店長の下で働けたらどんなにやりがいを感じるだろう。
 そのほかのナカやんを取り囲む登場人物も魅力的だ、支店長の補佐役としてナカやんを直接指導する巽課長。八尾安さんを含めた地元のお得意さんたち。そして、忘れていけないのが、中井食堂を経営するナカやんのお母はん。息子に対しては厳しい自称「鬼のおトキ」だが、困っている人を見過ごすことができないきっぷのいい大阪のオバチャンだ。また、敵役として登場する出世欲の塊みたいな高田次長も、これはこれでなかなか憎めない。

イーブックジャパン電子版第1巻45P

 ところでわたし、こう見えてかつては銀行勤めだったのである。7年間、某銀行にお世話になっていたのだ。辞めてしまったのだからエラそうなことは言えないのだけど……。
 そのころ先輩から教えられたのは、お客さんの信頼されるためには、お客さんの立場に立って行動することが大切だということ。これは、お客さんの言いなれという意味ではないのだ。新人のうちはここが難しい。
 先輩は、町の情報網の中心になってお客さんに必要な情報をつなぎ合わせることができればいい、と言った。ときには、預金や貸金とは別のところでお客さんの役に立つことが、あとあとで預金や貸金につながる、と。
 ナカやんもそうだ。画家を目指したい取引先の次男と絶対に認めようとしない社長の仲を取り持ったり、開発中だった新製品の生地がようやく完成して喜んでいたら、ホコリを集めてしまうという欠陥が見つかり頭を抱えていた繊維会社の社長に、ホコリがつきやすいならクリーナーとして売り出してはどうかというアイディアを考えついたり、担保が足りずに困っていた社長に、先代の趣味だった盆栽が財産になると提案したり。商店街のアーケード建て替え計画に協力したり……。
 まあ、支店長や課長の知恵を拝借する場面も多いので、全部が全部ナカやんの手柄ではないのだけど、ナカやんが「お客さんのために」と必死になって知恵を絞ったからこそ、支店長や課長も助けてくれるのだ。
 商店や町工場のお得意さんたちもナカやんのがんばりをわかっているから頼りにする。人情がナンシンを支え小さな町の経済を支えているというわけだ。
 描かれていることはファンタジーかもしれない。安藤支店長や巽課長やナカやんのような金融マンは稀かもしれない。でも、こういう町があって、こういう金融機関があって、安藤支店長やナカやんがいると考えると、不況が長く続き、やっかいな感染症がまん延するこの世の中も、ちょっと救われるような気持ちになる。それが、このマンガを読む価値だ、と思うのだ。

【アイキャッチ画像出典】
『まいど!南大阪信用金庫』第1巻

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