子どもの頃いつも利用していた貸本屋さん。『黒い秘密兵器』全8巻が揃っていて通算で何回借りて読んだでしょうか。
数年経つと内容を程よく忘れてくるのでまた借りて読み返し「やっぱり面白いよな」と満足します。
これは高校を卒業して地元を離れるまで続きました。
昭和38年から『週刊少年マガジン』での連載ですがリアルタイムで読むには数年早すぎました。
A5版のハードカバーで出版されてますが当時は見た覚えがありません。
昭和42年以降出版の秋田書店サンデーコミックス版が最も馴染み深い本です。
私が貸本屋さんで読んでいた昭和40年代前半以降しばらくの間はこの『黒い秘密兵器』、過去の作品として漫画界では埋もれていた様に思います。
この頃は週刊誌が隆盛を極めていく時代。昭和30年代に主流だった漫画月刊誌は次々と姿を消していきます。
毎週発売される雑誌。次から次へと子供へ送られる多種多様な漫画があふれる中、過去の作品が沈んでいくのは仕方ないことでしょう。
貸本屋さんだからこそ置いてあり、私も読むことが出来た。それなりに貸し出されていたのか地元を離れる時もまだ置いてあったように記憶してます。
とにかく魔球(作中では秘球と呼称)の発想が飛びぬけて奇抜。そしてどうやって投げているのかの理由付けがまた強引。
要は漫画ですよ。子供にとって面白ければいいんです。物理法則なんて気にしてたら読んでられません。
魔球は全部で6種類登場します。
ただし物語当初、主人公「椿林太郎」は剛速球投手(剛速球という用語もまた野球漫画の大事な要素ですね)として巨人軍に入団。
豪打のライバルたちに対抗するために魔球を生み出していきます。
巨人軍と魔球。どうしても大リーグボールが出てくるあの名作を思ってしまいますよね。
『黒い秘密兵器』が少し早い連載です。同じ『週刊少年マガジン』。無関係ではないと思いますが憶測でこれ以上書くのは止めておきましょう。
個人的に一番好きな魔球は最後に登場し、結末へと向かう原因にもなる「かすみの秘球」です。
6種類中最も地味な印象を与えている魔球ですが、何故か発想に心惹かれました。
それまでのびっくりするくらいド派手な魔球から最後はやや地味目な魔球。
だからこそ物語も自然な感じで終わりを迎え、本を閉じて「面白かった」と満足します。
全8巻。ちょうどいい長さではないでしょうか。
私がプロ野球という世界を何歳ごろから認識しだしたかは全く憶えてませんが、まず巨人軍ありきでした。
これはやむをえません。九州の地方都市です。民放テレビは2局のみ。プロ野球の情報は他には漫画から。
西鉄ライオンズという球団が福岡をホームとしていましたが私の住む地方都市まで影響はなかったように思います。
まあ他の球団の情報が入ってこないことこのうえありません。漫画では対戦相手が必要ですから球団名や選手の名前は出てきます。
しかし大方の漫画の主人公は巨人軍の選手。話も巨人軍が中心な上に漫画内で対戦する相手の多くは架空のキャラクターです。
さらに子供の頃は父が仕事の関係で一年を通して盆正月を除いてほぼ不在だった為、野球中継を見た記憶がありません。
母親と子供3人(2人は女の子)。ゴールデンタイムで野球は見ませんよね。アニメやバラエティ、特撮、歌番組、ドラマ等々を見て楽しく過ごしました。
子供の私の中のプロ野球は漫画だったと言っていいと思います。
にしてもどうしてこう巨人軍が舞台の作品ばかりなのかは当時何の疑問も感じず、それが普通でした。
もちろん後年色々理由はわかりますが、商業なので人気が大きいところに寄り添うのは当然だったのでしょう。
巨人大鵬卵焼きは私がまだ生まれる前か生後すぐくらいの話ですが、野球は巨人でしたよ。
ちなみにジャイアンツと通称するのを知ったのは関東に在住する20代後半以降です。
明確な理由はわかりませんが西日本在住中は周り含めて「巨人」と呼ぶのが普通でした。これは他の球団も同じです。
この歳になってもプロ野球の球団名はチーム名ではなく企業名での認識です。
野球は好きでしたよ。土管がある空き地でのボール遊びは当時の子供にとって必需品といっていいくらいです。
あの頃遊びとしての野球は日常的にほとんどの子供がやっていたと思います。
また夏休みは甲子園での高校野球中継もよく見てました。
作新学院江川卓さんの全国的な騒がれっぷりはよく憶えてます。
そんな私も小学校高学年になって野球部に入ります。
部活のノリやその他諸々ついていけずに途中でやめてしまいますが、在部中に行われた市内の小学校大会。
参加した野球部員全員に配られた記念品はよく憶えてます。
巨人軍選手のサイン寄せ書きデザインの手ぬぐいです。
もう当たり前のように配られましたよ。今も不思議です。
もちろん嬉しかったのですが幾つになってもこのことを思い出すたびに、市の公的な大会で全員に配るものがプロ野球の一球団のみのグッズというのは時代とは言え苦笑せざるを得ません。
この『黒い秘密兵器』。今私の手元には平成9年に当時の装丁で復刻された物の第1巻しかありません。
この頃、秋田書店サンデーコミックスは他の作品も幾つか同じように復刻してます。
その中に『黒い秘密兵器』が選ばれた。出版社の選択に感謝しかありません。
一峰大二さんが描く特徴的な、さわやかを通り越したさわやかすぎる笑顔。
主人公の椿林太郎くんも作中いかんなく笑顔をふりまいてくれます。
私は来年還暦です。これまでの人生色々ありました。
若い頃と違ってこの椿林太郎くんの笑顔が眩しすぎて照れ臭いです。
久しぶりに『黒い秘密兵器』に目を通して老齢を意識させられましたが、全巻通して読みたい欲求はまだまだあります。
出来れば昭和40年代当時の物を入手したいですね。
元祖とは言えませんが魔球漫画黎明期の名作です。
御一読をお薦めします。