この世で最も人情から遠い存在、といえば税金ではないか。
「税金なんて払いたくない」という人は多いが、嫌でも必ず払わされる仕組みになっている。そのくせ、使い道は無駄が多い。いざ国や自治体のお世話になろうとすると、待っているのは面倒な手続き。人情のかけらもないのが税金だ、と思うのも無理はない。
ところが、人情マンガの中には税金をテーマにした作品がちゃんとあるのだ。今回ご紹介する慎結(しん・ゆい)の『ゼイチョー! 〜納税課第三収納係〜』がそれだ。
講談社の女性向けコミック誌『BE・LOVE』で2016年から17年まで連載。単行本は4巻で完結している。
舞台になるのは架空の都市・幸野(みゆきの)市。首都圏にあって人口はおよそ20万人。西東京市や小平市、千葉の流山市、八千代市などとほぼ同じ規模。いわゆる中核都市だ。
住民税や固定資産税など市が扱う地方税の徴収率は87%で周辺自治体トップ。これを支えているのが幸野市役所納税課の面々だ。徴税吏員は収納第1係から第3係までの20人。庶務係が5人。ほかに嘱託と臨時職員計2名が配置されている。主人公の百目鬼(どめき)華子は、収納第3係に配属されたばかりの新人。行動は予測不能だが、クールビューティで仕事には情熱を持っている。第3係には、ほかに温厚でお父さん的存在の係長、華子の指導係で女性には手が早いと評判の饗庭(あいば)蒼一郎、先輩の原田宰(つかさ)と増野環(めぐる)がいる。
税金をめぐるドラマといえば、巧妙に税金逃れを続ける悪人を徴税担当者が執念で追い詰めていくというストーリーが多い。だが、このマンガに登場する滞納者のほとんどは、払いたくても払えない事情があって苦しんでいる人たちだ。
病気の母親を抱えバイトでかつかつの暮らしをしている女性や、連帯保証をした相手に逃げられて借金を背負った和菓子店の店主、再開発で地価が上がったために固定資産税が払えなくなり、そのことを夫に伝えられない主婦。職を失った同棲相手のために必死に働くパチンコ屋の女性店員。妻を亡くして、誰にも頼らずに仕事と子育てを両立させようとするサラリーマン……。
中には、父親の地位を振りかざして「自分は納税なんてしなくていい人間なんだ」と嘯く阿呆ボンも出てくるが、大半は真面目すぎるくらいに真面目な市民たちだ。
作品は、1話が1〜3回程度で完結するオムニバス形式で、華子が蒼一郎や仲間たちの助けを借りながら、滞納者たちの苦しみに正面から向き合い、税の知識を駆使して生活再建に向けた手助けをするという内容だ。
納税課の仕事の裏側についても細かく紹介されている。納税者の自宅を直接訪問する「臨宅」に使う公用車には「納税課」とわかる表記はせず、訪問の際も「納税課」とは名乗らない。市役所を会社と呼び変えているなど、職業マンガとして読んでも読みごたえがある。
税金の使い道に不満をぶちまける人も出てくるし、保育所問題や介護と言った問題も取り上げられている。人情だけでない世の中の厳しさもしっかり描かれている。
華子にも7歳の時に家族が滞納による強制執行を受けたという過去があった。そのとき、おびえる彼女を外に連れ出し、励ましてくれた女性徴税吏員・羽生だった。羽生に憧れてこの仕事を選んだ華子には、払えない人間の苦しみや葛藤が身に染みている。
滞納者に華子が言う決めゼリフは「公務員なめないでくださいっ」。このセリフには、「なめないで頼ってくれよ」という気持ちが込められている。そして、彼女はこうも言う。「私は 公務員として お金……税金や それに関わる方々に 真摯に向き合いたいんです」と。
お金という納税者の家庭事情に踏み込むのだから、納税者側から相談を受けない限りはなかなか動けないというジレンマもある。ネットなどには「役所が知られたくない分割納付」といったタイトルの記事が結構出ているが、役所は決して知られたくないわけじゃない。まず、お金に関わる個人の事情を自発的に明かしてもらうことが大切。いかにして相手に心を開いてもらうのか? そして、最後には家族の絆を再生させる。このあたりが人情マンガとしての真骨頂である。
エピソードの中には、子離れできない母親が、わざと娘の納税通知書を隠して、娘を滞納者にすることで自分への依存関係を維持させるというものもある。母娘が考え方を変えない限り、救う道はない。そこで華子がとった一手はとんでもない荒療治。少し反則のような気もしないではないが、そこに華子の母と娘への思いやりのようなものを感じる。
ただの優しさだけではなく、法律や制度の知識が優しさを支えるというのがこのマンガの特徴だ。
で、結論は、税金問題で困っているなら、まずはゼイチョーに相談ってこと。
【アイキャッチ画像出典】
『ゼイチョー! 〜納税課第三収納係〜』慎結、第1巻