「自分の分身みたいなパートナー」とか「魂の触れ合う仲」って憧れですよね。そんな相手がいるならもう一生もんじゃないですか。
そんな相手を、何があっても、生涯愛し続け、思いやり続けられるものでしょうか、そんな深い愛は、どうすれば証明できる……?
いやー、渡辺多恵子先生といえば、『風光る』が一番有名でしょうか。男装して新選組に入隊しちゃった女子のお話です。新選組が活動してたのって6年程度ですが、連載は23年も続いたんだからすごい。『壬生義士伝』に先駆け、平成の新選組ブームを作った作品ですよね。
だがしかし私は、渡辺多恵子先生といえば短編の方が好きなのです。特にこれ、『ジョセフへの追想』。初めて読んだのは確か中学生の頃で、泣きじゃくって心揺さぶられて3日くらい頭がボーッとしてました。しびれるくらい若々しい話ですね!
舞台は『赤毛のアン』と同じ、プリンス・エドワード島です。カナダにある、農村地帯の広がる美しいところです。知ったようなこと書きましたが、この作品でしか見たことありません。
ユニスとジョセフは幼なじみで、それはそれは仲睦まじく育ちます。ジョセフは厳しいこともあるけど優しくて、ユニスがいじめられればとっくみあいして反撃してくれる。シロツメクサで作った指輪で結婚を誓ったりしてくれます。おいジョセフ、たかが6〜7歳で将来を決めていいのか?
2人は何事もなく仲睦まじいまま、高校生になりました。
このままなにも起こらなければ、物語になることもなく、「ちょっとうぜえ隣のいちゃいちゃカップルの話」で終わったはずです。
もうとにかく2人のラブラブっぷりがひどいんですよ。
ジョセフの両親が事故で亡くなったときのこと。慰めようとするユニスが「何かあたしにできることない?」と聞くと、ジョセフはこう答えます。
「きみをひとりじめしたいな」
っカーッ!!
してくれ! してくれひとりじめ!!
そしてユニスはこう言うんです。
「……あきれた…… ジョセフ してないと思ってたの?」
なんだお前らほんっと両思いじゃないか!
ところがね、そうはうまく行かないんですよ。ジョセフが18歳になった誕生日から、どんどん雲行きが怪しくなっていきます。次々と事件が起こっていきます。ローラースケートを履いたままうっかり下り坂に入ってしまったみたいに、猛スピードで転がっていくんです。
それでも、ジョセフはユニスを想い続けます。強く、強く。
2人はどうなるのでしょうか。
そして大都市バンクーバーから越してきたケヴィンは、物語にどう関わるのでしょうか。
2人を中心にぐるぐる展開するラストはもう切なくてたまりません。
冒頭のふたりのイチャイチャは、待ち受けている展開への布石だったんですね。短編なので細かな伏線はすべて回収され、きれいにまとまります。短編は最初から最後まで計算されて物語がスタートするので、コマ割りもコンパクトで、話がサクサク進み、読みやすい。短編がうまい作家は実力があるといいますね。渡辺多恵子先生、サイコーです。
この作品はまた、日常的な物語の中にSFの要素が混入されているという、80年代あるあるの設定です。そしてラストは、また80年代あるあるというか、似たような展開をいくつか知ってますが、鉄板で切ないです。「今ある自分は、ほんとうに自分の知っている自分なんだろうか?」と疑問に思うことがあります。
読むとプリンス・エドワード島に行きたくなりますよ。作品で見た光景がいくつも見られそうです。