『こちら葛飾区亀有公園前派出所』は、1976年の連載開始です。そして今年の秋で2016年の連載終了から5年が経とうとしてます。
早いものですね。連載終了時の世間が一体となった盛り上がりが昨日の事の様です。
連載開始の頃。私は中学3年の秋でした。高校受験を控え大事な時期。
この時どれくらい漫画を読み続けていたかは記憶にありません。
受験勉強で読むのを控えていた。毎日通っていた貸本屋さんも行かない。
と思うのですが、初期こち亀の記憶があるという事は読んでたんでしょう。
まあまだ秋ですから。
受験に切羽詰まるのは年が明けてから。
ギリギリにならないと目の前の事に打ち込まない性分は今も変わってません。
当時は山上たつひこさんの『がきデカ』が『週刊少年チャンピオン』誌上で猛威を振るっていたと言っていい頃です。
『がきデカ』は連載から2年が経過してましたが、その人気たるや普段漫画を読まない同級生にも認知されてました。
言っちゃあ何ですが下ネタ満載で敬遠されてもおかしくない内容なのに人気爆発。
少し前の『トイレット博士』のメタクソ団やマタンキブームを思い出します。
「死刑!」は流行語にもなりました。
そんな『がきデカ』ブームの真っただ中、『こち亀』は始まります。
調べましたが連載前に読切として一度『週刊少年ジャンプ』に載ってますね(1976年29号に月例ヤングジャンプ賞入選作品の読切として掲載、同年42号から連載開始)。
この読切も新連載初回も読んだ筈ですが、残念ながら記憶からは抜けてます。
ただあからさまな「山上」をもじった「山止」のペンネームで同じ警察官を主人公にしている。
ここにちょっとした嫌悪感を感じたのは憶えてます。
何もここまで紛らわしく便乗したペンネームは無いんじゃないかと思ったのは私だけでなく周りもそうでした。
ところがこまわり君が少年警察官という設定でお下劣満開な作品なのに対して、両津勘吉は立派?な警察官。
警官にあるまじき暴走っぷりが作品の根底である『こち亀』は『がきデカ』とは全く違う作品なのをすぐに認識します。
とにかく無茶苦茶な両さんや個性豊かな同僚の警官たちが繰り広げる破天荒な展開は当時の漫画好きの子どもの心をあっという間につかみましたよ。
山止のペンネームはすぐに馴染みました。
そこはどうでもよくなるくらいに面白かったからです。
漫画に於いて「面白いは正義」です。
面白ければ細かいことは脇へ追いやって、作品を楽しめばいい。
このスタンスこそが私が50年以上漫画を読み続けている根底です。
山止たつひこさんの『こちら葛飾区~』として読者には定着していったと思います。
ちなみに「こち亀」という略称は当時ありません。
なんて呼んでたんでしょうね。
決まった呼び方はなく、「派出所」とか「両さんの漫画」とか適当に使い分けていたのだと思います。
連載開始から1年後には実写映画化される爆進ぶり。
『トラック野郎』という当時大人気の映画とのカップリングです。
映画って2本立てで公開されるのが当たり前でした。
残念ながら観てませんが、「映画になるんだ」と思ったのは憶えてます。
漫画の実写化というと現在は色々と(本当に色々と)大変な事ですが、昭和の頃は結構実写映画になってます。
著名なタレントさんや俳優さんが名を連ね、人気の証明といってもいいでしょう。
そして突然『こち亀』は山止たつひこさんから本名の秋本治さんに作者名が変わります。
たしかジャンプ誌上で秋本さん自身のコメントが載ったと記憶してます。
この時「ああ、そりゃそうだよね。でもいきなり本名にしてみんなついていけるのかな」と思いましたよ。
いえいえ、やっぱり「面白いは正義」です。
中学生の一読者の懸念などあっという間に消し飛びます。
本名になっても作品の面白さは全く変わらず、逆に「山止たつひこ」という名前は忘れられていきます。
古き昭和を描くノスタルジックな話や秋本さんの趣味が全開するマニアックな話も登場し出して内容は多岐にわたる様に。
そして御存じの通り国民的漫画なんて呼ばれる作品になっていきました。
さて今回の記事を書くにあたって新刊書店で現在売られている『こち亀』の第1巻を買ってきました。
私の手元にある「山止」名義の第1巻は1978年9版です。
購入した物は2019年3月で第148刷。
ちなみに同じ書店で『がきデカ』の第1巻も売っていたので購入。こちらは平成29年2月で52版。
漫画の品ぞろえに力を入れている大型書店とはいえ『こち亀』の第1巻だけでなく『がきデカ』の第1巻もいきなり行って売場にあるとは思ってませんでした。
新装版として形を変えることもなく、当時のままの姿で版を重ね今も入手できる。
令和の現在から40数年前に発行された9版。
コーティングされていないカバーは擦れて汚れてます。それでも40年以上生き抜いてきた本としてはまだ状態がいい方でしょう。
片や今新刊で発売されていたピカピカのカバーをまとい、中身も汚れなどない真っ白で綺麗な148刷。
こうして並べてみると感慨深いですね。
内容を比べてみましたが、9版では漫画家さんや芸能界の方の実名がそのまま載っているのに対して148刷ではセリフを変えたり架空の名前になったりの変更があります。
これは仕方ないですね。
9版の方はカバー折り返しに当時の秋本さんの写真が載ってます。
148刷は人物像のイラスト。
この変更もいつからかは不明ですが、やっぱり写真はまずいのでしょう。
そういえば『ドラゴンボール』も当初鳥山明さんの写真だったのが、ガスマスクっぽいおなじみのイラストに変わったのを思い出しました。
ちょっと驚いたのが巻末の短編「交通安全’76」です。
こち亀ではない短編が「山止たつひこ笑劇場」というサブタイトルで148刷でもそのままだった事。
事情はわかりませんが、消えた名前だと思っていた「山止たつひこ」が今も生きているのは知りませんでした。
いえ、過去に何度も第1巻は目を通しているのに気にしなかったのでしょう。
認識不足を恥じながらも新しい発見にちょっと嬉しさを感じます。
秋本さんご自身は「山止」のペンネームを若気の至りとおっしゃっているそうです。
確かに当時最初は私もちょっと嫌悪を感じましたが、その後の本名へ移る経緯を含めてすべて『こち亀』の歴史といっていいでしょう。
全200巻。
願わくば生きているうちに一気読みしたい次第です。