古書業界に携わる者ならば知っていて当たり前の雑誌ですが、世間的には農業関係者以外にあまり知られてない『家の光』という雑誌。
現在も発行され続けている雑誌です。
歴史は古く、今回調べて知りましたが大正時代の創刊です。
そして農協(JA)を通じて購入するという販売方法で、書店での流通はありません。
私の手元には昭和30年4月号が1冊だけあります。
御紹介する前に、何故書店での流通が無いのか。
昭和40年代前半の体験と推察になりますが、私なりに説明したいと思います。
昭和42年に小学校に入学した私は毎回ではありませんが、夏休みや冬休みに農家である母方の実家に預けられるようになりました。
小学校入学以前にもあったかもしれませんが、記憶には残ってません。
父は出稼ぎ労働者で1年のほとんどを留守にしており、母は飲食店で働く家庭でした。
長い学校休みの期間に子供の面倒を見られない家庭では当然だったと思います。
母方の実家はそれなりに大きな農家です。
ということは家の周りには田んぼと畑、そして他の農家以外ありません。
世間の情報が入るのは新聞とテレビのみです。
それも昭和40年代の話で、テレビ普及以前はラジオでしょう。
本や雑誌はどうなの?というと、本屋さんがある商店街や繁華街までは車でないと行けません。
割と近くに『利平さんとこのおばあちゃん』の「おしげさん」が営むような雑貨屋さんがありましたが、本は扱ってません。
では車で行けばいいんじゃないの、と思われるかもしれませんがそこは現在とは大きく時代が違います。
農家ですから車はありますが、商店街や繫華街へ買い物に行くというのはとても贅沢な行為なんですよ。
昭和の時代、地方では駅前はあまり栄えてません。
土産物屋さんや食事を提供するお店がちらほらあるのみです。
国鉄の駅から離れたところに商店街や繫華街があり、そこへ行くのを「街」へ行くと言ってました。
まあお出かけですね。
私の記憶でも預けられている時に「街」へ行ったのは1、2度です。
それも車で通った記憶です。降りて歩いてはいません。
昭和の時代は生活以外にお金を使うのを贅沢として戒めていた時代です。
あえて「街」へ行かなければ手に入らない本や雑誌は、「たまになら買っても」くらいの存在だったと思います。
そんな農家の為に発行されたのが『家の光』といっていいでしょう。
農業の専門誌ではありません。
勿論農業関連の記事はありますが専門的な内容ではなく、手元の物を見る限り主婦向けといった柔らかい印象です。
綴込みのカラー口絵は女優の津島恵子さん。
赤を背景にした艶やかな着物姿が美しいですね。
「吉野山の場」なのが『咲-Saki-』好きとして嬉しい限りですがこれは関係ないですね、すいません。
芸能や映画の写真グラビアもあり主婦向けの色合いが強いものの、旦那衆が読んでも面白い記事もあります。
後述しますが『こども家の光』という冊子も付録で付いてます。
決まった休日など無い農家の方々へ向けた総合情報娯楽雑誌と言っていいのではないでしょうか。
農協へ行けば売っていたと思いますし、そして今回確証は得られませんでしたがおそらく農協が各農家へ直接配達も行っていたと思います。
「街」の本屋さんへわざわざ出向かずとも農業に関する話題を知ることが出来て、芸能や小説をも楽しめる雑誌は農家にとって正にうってつけだったのではないでしょうか。
その『家の光』。
預けられていた子供時代に見た記憶が一度だけあります。
預けられたといっても日中大人は全て農事に出てます。
いるのは子供に厳しい祖父母だけ。
たまたまですがわたしと同年代の子供はおらず、幼児は農作業へ連れて行ってます。
広い家の中でほったらかされて何をするかといえば、家の周りをうろつくか一人遊びに興じるかです。
昼間っからテレビばっかり見てるとこっぴどく怒られましたし、そもそも電気節約で消してあるテレビをつける事さえ許されてません。
母方の実家は記憶をたどっても本や雑誌を読む農家ではなく、テレビの後ろの棚に幾ばくか並んでいた中の1冊を引っ張り出して見たんだと思います。
聞いたことのない雑誌。
でも面白くないと思ったんでしょう。
見たという記憶以外は残ってません。
しかし何故か『家の光』という雑誌名は刻まれており、大人になって古本好きになって再会したときに「あれか!」と思い出せました。
あの子供の頃に、漫画が少ない本誌だけでなく付録の『こども家の光』も見ていたらまた違ってたんでしょうけどね。
おそらく母方の実家は『家の光』を買って無く、たまたま理由はわかりませんがあの時に1冊あったのでしょう。
手元にある昭和30年4月号は長谷川町子さんの『サザエさん』が載っているので入手した物です。
長谷川町子さんはこういう形で戦前から戦後の雑誌に2ページ程度の作品を描かれてますね。
『サザエさん』以外の作品も目にした事があります。
2ページ15コマでタイトルは「サザエさんの1日農婦さん」。
目次での扱いもなかなか大きいのが嬉しいところです。
ただし他に載っている漫画は少なく、『サザエさん』を入れても10ページに満ちてません。
とはいえ雑誌全体の内容は私の個人的な好みもありますが、結構面白いんですよ。
これは還暦過ぎの蓄えた知識でそう感じるので、子供の頃は無理があるのもやむ無しです。
そんな子供の為にあるのが別冊付録の『こども家の光』です。
現在もあるのかは不明で、私も昭和の物以外見た事がありません。
今回の記事を書くにあたっていつもの古書店で2冊買ってきました。
所有する本誌とは年度が違いますが、昭和35年5月号と昭和36年9月号の2点です。
『こども家の光』は物によってはなかなか素敵な漫画家陣が描かれてます。
また付録とはいえミニ児童雑誌と言ってよく、ちゃんと目次もあります。
まずは昭和35年6月号付録。
巻末のカラー見開き絵は以前ご紹介した「小松崎茂」さんの「戻ってきた人工衛星」。
巻頭カラーを経て最初の読み物が「警察犬物語」です。
挿絵が「石原豪人」さん。
この号を購入した1番の理由です。
次に昭和36年9月号。
私が生まれた年です。
2色2ページでテラさんこと「寺田ヒロオ」さんの「タマちゃん野球日記」が掲載されてます。
(その9)となっているので連載でしょう。
なかなか貴重な作品だと思います。
連載小説は江戸川乱歩さんの「怪人と少年探偵」の最終回。
怪人二十面相も明智小五郎も小林少年も登場します。
漫画ではありませんが巻中に「ぼくらのサイエンスカー」という写真記事があります。
私の子供時代より数年前ですが、あの頃を思い出させてくれる昭和テイストな写真です。
この頃から太陽電池(ソーラー発電)の技術は完成してたんですね。
古い雑誌は色々な発見があるのが楽しみの一つです。
『こども家の光』には手塚治虫さんや藤子不二雄さんも描かれてます。
その号はさすがに少しばかりプレミア価格で販売されてますが、希少という程ではありません。
人気漫画家の作品を掲載し、大人向けの本誌だけでなく農家の子供にも配慮した付録冊子をつけるという気遣い。
やっぱり子供の頃に『こども家の光』を目にしたかったと思います。
『家の光』本誌は古書の世界ではあまり人気がありません。
内容が農家寄りなのが原因なのかは不明ですが古書店で扱っていたとしても、たまたま入荷したからというのが理由でしょう。
流石に戦前の物はあまり見かけませんが、昭和30年代以降は多く現存していると思われます。
当時の農機具の広告など見ていて面白いのですが、昭和40年代以降の漫画成長期の物など入手して色々検証していきたい所存です。