マンガの中のメガネとデブ【第36回】月夜野真宵(房『ぽちゃ娘は小悪魔ムーブがやめられない』)

『ぽちゃ娘は小悪魔ムーブがやめられない』

 マンガの中の定番キャラとして欠かせないのがメガネとデブ。昭和の昔から令和の今に至るまで、個性的な面々が物語を盛り上げてきた。どちらかというとイケてないキャラとして主人公の引き立て役になることが多いが、時には主役を張ることもある。

 そんなメガネとデブたちの中でも特に印象に残るキャラをピックアップする連載。第36回は[デブ編]、初々しすぎるほど初々しいラブコメ『ぽちゃ娘(むすめ)は小悪魔ムーブがやめられない』(房(ふさ)/2020年~22年)のヒロイン・月夜野真宵(つきよの・まよい)をご紹介しよう。

 真宵は、高校2年生で図書委員を務める小柄なぽっちゃり女子。同じ図書委員の後輩男子・天城晴(あまぎ・はる)に好意を抱いているが、彼の前では素の自分を出せず、あざといポーズにあざといセリフの小悪魔キャラを演じてしまう。きっかけは、初対面時に“明るくフレンドリーな先輩”を演じようとしたのが行き過ぎて、小悪魔っぽくなってしまったこと【図36-1】。ドン引きされるかと思いきや意外に好反応だったため、やめるにやめられなくなったのだった。

 

【図36-1】初対面でキャラを作りすぎてしまう真宵。房『ぽちゃ娘は小悪魔ムーブがやめられない』(キルタイムコミュニケーション)2巻p58-59より

 

 しかし、本当の真宵は気弱で自信もなく、ぽっちゃり体型も悩みのタネだ。「もうちょっと可愛かったらなあ…」「背も低いし目つきも悪いしスタイルだって…」「…またお肉増えたかな」「制服の厚みでなんとか隠せてるけど こんなの直に見られたら」と鏡の前で煩悶しつつ、それでも小悪魔ムーブを決めてしまう【図36-2】。ふと我に返って恥ずかしさのあまりベッドを転げ回りながらも「キャラ作んないとまともに話せないんだよぉ…」というヘタレ純情派なのである。

 

【図36-2】小悪魔キャラを作っても体型には自信がない。房『ぽちゃ娘は小悪魔ムーブがやめられない』(キルタイムコミュニケーション)1巻p10-11より

 

 ところが、先輩女子の小悪魔ムーブがツボに入ったのか、なんと晴のほうから「好きです」「付き合ってください」とストレートに告白される。予想外の事態に驚きつつも、「ふふっ よく言えました♡」「いつ言ってくるかなってずっと気になってた」とキャラを崩さない役者っぷりには頭が下がるが、ますます小悪魔ムーブをやめられなくなる真宵であった。

 晴れて付き合うことになった二人の恋模様は、初々しいの一言に尽きる。図書委員の仕事で本を整理中にちょっと手が触れただけで真っ赤になり、一緒に登校しようと言い出すだけで決死の覚悟という晴の照れ屋ぶりには、見てるこっちが赤面しそう。一方の真宵も、初めて一緒に登校する朝、いつもより2時間半も早起きしてシャワーを浴び、念入りに脂肪燃焼マッサージをする。が、急にやせるわけもなく、自分でも「往生際が悪すぎる…」とガックリ。それでもめげずに髪型を変えてイメチェンを狙うも、いろいろ試したあげく元の髪型に戻ってしまうのだが、少しでも可愛く見られたいという乙女心が尊い。

 もちろんダイエットにも挑戦はするが、何しろ食べるの大好きなので続かない。彼に写真を送るため自撮りしようとしてぽっちゃりお腹が目立つのに気づき、「おかしいな こんなはずじゃ…ダイエットとか結構頑張っ いやそうでもなかった…」と自堕落な生活を振り返ったり、夏が来て薄着の季節となり「なんで痩せてないんだ……?」と絶望する場面に「何もしていないからである」とナレーションが入ったり。無理なダイエットをするより全然いいと思うけど、とにかくやせない(やせるはずがない)。

 そんな彼女の必殺技が「お腹凹ませ」だ。単に腹筋に力を入れてヘコませるだけで何の解決にもなっていないし、気を抜くとポヨンとなってしまうのだが、その場しのぎの技としては有効。さらに、晴と付き合いだして初めての夏、すなわち薄着の季節には、渾身の「ぽちゃバレ」対策を講じる。「極端な話 体重が何キロだって構わない 細く見えればそれでいいんだ」とのコンセプトの下、「ウエスト位置を上げる事でお腹をカバー&足長効果」「溢れたお肉をシャツのたるみでしっかりカバー」「二の腕が出ないよう腕の動きは最小限に」「ウエストをきつく締めくびれ感を演出」、そして仕上げは「気合のお腹凹ませ」で「小悪魔的黄金バランス」を生み出すのだ【図36-3】。

 

【図36-3】何とか「ぽちゃバレ」を防ごうとする真宵。房『ぽちゃ娘は小悪魔ムーブがやめられない』(キルタイムコミュニケーション)2巻p28-29より

 

 実に涙ぐましい努力ではあるが、相手が好きだと言ってるんだから、そこまで気にせんでもという気もする。晴はどう考えてもぽっちゃり好きマンなので、ヘタにやせるより、ほどよいぽっちゃり体型をキープするのがベストだろう。実際、真宵の両親はパパがぽっちゃりでママがスレンダー美女(つまり真宵はパパ似)だが、ママはそんなパパに一目ぼれして猛アタックで結婚し、今もラブラブ。そういうサンプルが目の前にいるのだから、もっと自信を持っていい。

 というか、この作品自体が、ぽっちゃりボディを愛でるためのものと言っても過言ではない。一応学園ものなのに真宵以外の生徒は晴と真宵の幼なじみの女子、晴の同級生ギャルしか出てこないし、画面の7割ぐらいは真宵が占める。「ぷにぷに」「ぽよん」「むちむち」「もちもち」「むにむに」「ぷよっ」といった擬音とともにいろんな角度から描かれる真宵はグラビアアイドルのようで、その恥じらいぶりも含めてセクシーで可愛い。満を持して披露される水着姿はもちろん、本当の自分を知ってもらうためにさらけ出したお腹の肉すら可愛く見えてくるから不思議である。

 単行本1巻の帯のキャッチコピー〈令和最可愛のぽっちゃりJK!〉はダテじゃない。単行本2巻のあとがきには〈第1巻より増し気味な真宵ちゃんのぽっちゃりボディも楽しんでいただけたら幸いです!〉との記述もある。作者が男性か女性かはわからないし、ぽっちゃり好きかどうかもわからないが、キャラクターに愛情を持って描いていることは間違いない。甘々な二人の関係も愛らしく、癒しオーラ出まくりの好編である。

 

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