アナログゲームというジャンルがあります。テーブルゲーム、非電源ゲームなどとも呼ばれます(いや、「くるりんパニック」みたいに電源が必要なアナログゲームもありますが)。ゲームと言えばビデオゲームを指すのが普通になったことで生まれたレトロニムの一種であり、ボードゲーム・カードゲームの類、中でも特に、ドイツを中心として近年生まれたものを指すことが多いです。
……という説明が確実に必要だったのも今や昔、ここ15年ほどで日本での認知度は大幅に上がっており、ボードゲームカフェというものがあちこちにできましたし、漫画でも中道裕大『放課後さいころ倶楽部』というアニメ化にまで至るヒット作が出たので、漫画好きでしたらそれで知っているという方も少なくないことでしょう。
海外からの輸入作や日本メーカーの新作のほか、同人サークルによるゲームも大量に登場しており、筆者が大学生だった頃(当方が大学で入っていたSF研というサークルは、SFとは名ばかりの実質アナゲサークルでして、「カタン」「カルカソンヌ」「ブラフ」「操り人形」「テイクイットイージー」「列強の興亡」などなどのゲームを遊んでいたのでした)とは隔世の感、面白いゲームをディグるのも一苦労という嬉しい悲鳴が上がるような状況になっております。
そのような大量のアナゲの中から、傑作・珍作を面白く紹介してくれる漫画、それが今回紹介する磨伸映一郎『アナゲ超特急』です。連載はグループSNEのアナゲ専門雑誌『ゲームマスタリーマガジン』および、同誌が21年に姉妹誌『ウォーロック・マガジン』と合併して新たに生まれた『GMウォーロック』。本単行本に1巻という巻数表記はありませんが、連載は同誌で続いているので、順調であれば2巻も出るんじゃないかと思います。
本作の主役となるのは、眼鏡っ娘(重要)ライトノベル作家の舞駒水乃(まいく・みずの)と、アナゲに詳しいイラストレーターの西田凡(にしだ・ぼん)のコンビ。眼鏡っ娘(重要)の編集さんからの提案で「アナゲを擬人化したライトノベル」を書くことになり、その打ち合わせとしてさまざまなアナゲをプレイすることになる……というのが毎回の話です。
紹介されるアナゲはユニークなコンセプトのものが多く、何しろ初回から紹介されるのが、”「辺」「邉」「邊」など24種類の「わたなべ」姓に使われる「辺」の字が描かれた神経衰弱「渡る世間はナベばかり」”と、”15人の徳川将軍の肖像画が描かれた神経衰弱「とくがわあつめ」”という、ゲーム性自体はシンプルなれど着眼点が独特過ぎる作品だったりします。アナゲをあまり知らない方なら「こんな自由な発想のゲームがあったのか!」と驚き楽しめることうけあいです。
もちろん、アナゲを遊んでいる人にとっての「あるある」なネタも入っており、”「粘土を使って『何を作ったか即当てられてはダメだが、最後まで当てられないようなのもダメ』という絶妙なラインを狙ってお題を造形し、当てっこをする」というゲーム「バルバロッサ」で、「オタクでないと意味不明過ぎる最悪出題」をやってしまう”なんてのは、筆者も身内のゲーム会で経験があります。「これは武器ですか?」という質問に「はい」、最初の一文字が「デ」というヒントで最後までみな「なんだコレ……」と頭を捻っていたら、答えが「デザートガンナー」(アニメ『太陽の牙ダグラム』に登場する兵器)だった時は「てめえ!」ってなりましたからね……。
また、作者お得意の細かいパロディも随所に溢れており、例えば第11夜で紹介されるスペイン生まれのお遍路ゲーム「四国」(いや、エキゾチックジャパンをネタにしたアナゲというのは結構あるものでして、本作の他にも、ドイツゲームの「サムライ」(注1)とか、珍しいロシアゲームの「日本の城」(注2)とか色々あるんです)の説明で登場する「厄年になった人」は、先日亡くなった平田弘史『薩摩義士伝』が元ネタですね。こういうのがテンポよくポンポンと投入されるので笑わされてしまいます。
(注1)ドイツアナゲ界の大巨匠、ライナー・クニツィーア作。江戸時代(たぶん)の日本をマップに、日本の象徴である兜・仏像・水田の3種類のオブジェクトを取り合う正統派ゲームだが、パッケにたどたどしい文字で「ライナー・クニツィーア」「幸せなハンス」(社名の直訳)「このゲームは最高!」などと書かれてたり、仏像がこけしにしか見えなかったり、江戸以外の日本三大都市が京都・札幌・秋田だったり、どこまで冗談なのかよくわからない一品。クニツィーア作品としてはそこそこの評価な気がしますが、ぼくは好きだ。
(注2)ヘキ(「壁」と思われる)、ガメン(屏風=Screenの誤訳という説あり)、ヤネガエ(???)という3種類のカードを使ってトランプタワー的なものを作る速度を競うという頭脳要素0%の異色アナゲ。カードの質が悪いせいか建てようとするそばから崩れるので、ゲーム性は「賽の河原の石積み」に近いです。筆者がアナゲ会に持っていったゲームの中で唯一「何でこんなの持ってきたんだよ!」と他参加者に怒られた経験がある。
各話の幕間ではグループSNEの友野詳氏によるコラムも入っており、本編で紹介されたゲームの関連作品などがフォローされているなど至れり尽くせり。アナゲをあまり知らないという方にも、結構遊んでいるぜという方にもオススメできる、アナゲの世界の奥深さが伝わる一品です。
最後におまけで、筆者が好きなアナゲ3も紹介しておきます。
『テレストレーション』
「絵を描いて行う伝言ゲーム」といった趣のパーティーゲームの傑作。絵心それ自体よりも、「終電」などのような概念的お題をどう絵に落とし込むか(文字の使用は禁止)、相手が絵に込めた意図をどう汲み取るかが重要になり、まあたいてい最初のお題とはかけ離れたものに変化していって盛り上がります。
『謀略級三国志』
三国志の世界を舞台に、諸葛亮、司馬懿、周瑜、荀彧、賈詡、田豊などといった軍師となるゲーム。どの軍師かによって勝利条件が変わり、かつ他プレイヤーには正体が明かされないので、「呉の勢力が伸びるのが勝利条件なので、あえて魏に仕官して巧妙に魏の勢力が伸びないようにする」という埋伏の毒プレイができたりして、三国志を知ってるとかなり楽しいです(知らない方は『SWEET三国志』とか読んで予習しときましょう)。華佗と左慈は抜いて遊んだ方がいい気はしますが。
『ラー』
先述のライナー・クニツィーアの代表作のひとつにして、悠久の古代エジプト1500年をモチーフにした競りゲームの傑作。世間的な評価も高いのであんま言うことないんですが、とにかく面白いです。