どんなに日々一生懸命に生きていても訪れるつらいこと。それを乗り切るには、落ち込んだ自分を持ち上げる外部刺激です。『これからは、イケメンのことだけ考えて生きていく。』(ぶんか社)は漫画家、竹内佐千子さんと編集者のコンビが生きるための活力としてイケメンのことを考え、イケメンに会いに行くコミックエッセイ。将来のことに悩みながらも、熱中できることのある人生の楽しさが紙面から伝わってきます。
『これからは、イケメンのことだけ考えて生きていく。』はタイトル通り、竹内さんと担当編集者がひたすらイケメンのことを考え、握手会などを通じてイケメンに会いにいく日々を描きます。ときにはホテルで女子会を開いてイケメンの登場するDVDを見て、ときにはなぜ自分がイケメンではないのかを考える。
描かれるエピソードのメーンは「イケメンに会いに行く」ことです。それはイベントであったり写真集発売を記念した握手会だったり。イケメンが持って行ったマフラーを巻いてくれるイベントがあるというのには驚きました。シリーズの4冊目ですが、エピソードごとにほとんど独立しているのでこれだけで読んでも十分笑いがこみ上げます。
もちろんそれなりに年を重ねてきたお二人なので、楽しいことだけがあるわけではありません。自分の健康、親の介護、将来を支えるお金と悩みは尽きません。実際、子宮がん検診に行ったり、フィナンシャル・プランナーに保険の相談に行ったりするエピソードが描かれます。どれも同じ世代であれば「わかる」となります。
そんな中でも女性2人で、イケメンに会い行ってパワーをもらい、イベントが終わったら美味しいものを食べながら感想を共有する。たまにイベント以外で冒険して失敗することもあるけれども、「行こう」と思える楽しいことがあって、それを共有できる相手がいることによる楽しさが、確実に日々の活力になることが伝わってきます。複数の推しがいるとお金はかかるけれども1年を通じて悩んでいる暇はなさそうです。
特に竹内さんらは、落ち込んでいるときこそイケメンの握手会に行きます。将来のことに悩むなど厳しい状況に置かれたときこそ外部から活力を与えてくれるものが大切なのです。それは友だちとの会話かもしれないし、おいしいご飯かもしれないし、竹内さんらのようにイケメンに会いに行くことかもしれません。
印象的だったのはビジュアル系バンドのボーカルへのインタビューです。社会全体の少子高齢化が進むなかでファンも演者も年齢層があがり若いころのようなパフォーマンスができなくなる悩みがインタビュー相手と竹内さんから語られます。例えビジュアル系バンドのライブに行ったことがなくても、ライブイベントを楽しんでいる人には実感できると思います。私も竹内さんらと同じ世代として某2.5次元舞台のライブに2日連続で行ったときに同じことを実感しました。数時間のスタンディングが必要なライブに、当時あまりにもはまり込んでいたために1日1公演、合計で2回の公演に参加しましたが、公演が終わった週は体力を使い果たし日常生活にも支障が出ました。ビジュアル系バンドのライブのようにファン側に大きな動きが求められるわけではなく、ただ公演中ずっと立ったままでかつペンライトなどを振ったり役者に声援を送ったりしていただけなのですが。
竹内さんの漫画はこのシリーズに限らずどれもパワフルです。もし今回の作品で竹内ワールドに興味が出たら『おっかけ!』(ブックマン社)や『2DK』(講談社)をお勧めします。