こんにちは、Mk_Hayashiです。会社勤めをされている皆さんは、夏のボーナスをもらってホクホクしている頃でしょうか。
自分はかれこれ10年以上、フリーランスとして働いているのですが、会社勤めをされている人(正確には、会社勤めをできる人)のことが時々うらやましくなったりもします。
ボーナスや福利厚生もそうですが、業務上の悩みがあったときに相談できる人が身近にいることや、自分に何かあったときに仕事をフォローしてくれる人がいる(であろう)という安心感を得られるのは、会社という組織に所属していることの大きなメリットだよな、と。
しかし現実においては、全ての会社がそうだとは限らないだろうし、同じ会社内でも部署によっては雰囲気や様子が異なる可能性も高い。また「仕事にはやりがいを感じるけど、職場の人間関係に疲れて……」と会社を辞めてしまう人も、決して少なくないような気もします。
そう考えると「こんな職場で働きたい!」という欲望は、会社勤めをしている・していないに関係なく、誰の心の中に存在するもののようにも思えてきます。ワーク・ライフ・バランスが注目され、「どんな仕事をしたいか」よりも「どんな環境で働きたいか」を優先する人も増えつつある最近は特に。
というわけで、今回は「こんな職場で働きたい欲」をテーマに……
■面接を受けたら、社長が腐男子だった!? オタクなら「この会社で働きたい!」と憧れてしまうこと間違いなしのエッセイマンガ『腐男子社長』
■見た目は赤ちゃん、頭脳はおじさん! 赤ちゃんになってしまった本部長と、部長・課長・若手社員による社内育児マンガ『赤ちゃん本部長』
……の2作品をご紹介しつつ、「働きやすい職場とは?」についても考えてみようと思います。
口先だけじゃない社長に、やだ惚れそう……
絵に描いたような理想的な上司『腐男子社長』
まずは昨年、Twitterやpixivで話題になったカエリ鯛さんの『腐男子社長』。ちなみに「腐男子」とは「男性同士の恋愛の要素を含んだ作品を好む男性を指す語。『腐女子』の男性版という位置づけで用いられる語」(実用日本語表現辞典より)です。
タイトルにあるように、著者であるカエリ鯛さんが社長秘書として働くゴラン社の社長は「ラテン語さえ操るハイスペックさを、オタク方面に無駄遣いしている」腐男子。そんな腐男子社長がオタク用語を交えつつ教えてくれる、知的ながらもロクでもない(が、妄想が捗る)古典などの知識や、腐男子社長とカエリ鯛さんのオタクライフを描いたコミックエッセイです。
・ロクでもないことの例 その1
・ロクでもないことの例 その2
ちなみに腐男子社長がどれくらい腐男子なのかは、社長面接のエピソードを読めば一目瞭然。ゴラン社の中途採用に応募し、2度の試験と3度の面接を突破したカエリ鯛さん。緊張しながら社長面接を受けるのですが、いきなり社長に「コミケとか出てる?」と質問されてしまいます。
なんとか心を落ち着かせながら、質問に質問で返すも……
まさかの展開に動揺しつつ、言葉を選びながら会話を続けるカエリ鯛さんですが……
……と、社長がかなりガチな腐男子であることを、初対面で知るのでした。ちなみにこのとき「もしかしてジャンルは○×?」と、入社面接で社長にジャンルを当てられるという、世にも珍しい体験もされたそう。
この連載の初回「俺も推しの尊さを分かち合える仲間が欲しい欲」でも書きましたが、今はだいぶ世間がオタク文化に対して寛容になりました。が、職場でオタクであることをカミングアウトできない人の方が大多数。そう考えると、社長が腐男子というゴラン社はオタクにとってユートピアみたいな職場。何せ年末の仕事納めのスケジュールは、コミケに行くのが大前提の上で立てられているという、オタク・フレンドリーっぷり。
とはいえ、腐男子社長もカエリ鯛さんも「人がいる場所で 『ホモ』という単語を 安易に使わないように」するなど、周囲の非オタクな方々への配慮もしっかりしています。
そんな大人のオタクの鑑ともいえる、腐男子社長とカエリ鯛さんによる、おもしろエピソードばかり注目されがちな『腐男子社長』ですが、腐男子社長の人としての器のデカさを感じさせるエピソードも多々あります。
そのひとつが単行本に特別収録されている「目が見えなくなった話」内のエピソード。目の不調を感じて眼科に通院&転院を繰り返すも、症状が改善するどころか、どんどん悪化していくカエリ鯛さん。ある朝、目覚めると、完全に目が見えなくなっていたという緊急事態が発生。
不幸中の幸いか、数時間が経つと視力は回復。本来であれば、会社を休んで病院に行くべき状況ですが、手放せない仕事をいくつも抱えていたカエリ鯛さんは「見えているなら 仕事をしなくては」と出社。そして周りがいくら病院に行くうように言っても「だから 行ってるんです!」と頑なに仕事をしようとしてしまう。
実はこの頃のカエリ鯛さん、しっかりとした睡眠も取れておらず、正常な判断ができないくらい、精神的にも追い込まれていました。
そんなカエリ鯛さんを見かねた腐男子社長、機転を利かせて彼女が仕事のことを気にせずに病院へと行けるよう、とある行動をとります。どんな行動をとったのかは、ぜひ単行本で確認してもらいたいので、ここでは書きませんが、その際に腐男子社長が言った言葉が泣けるんですよ……。
ただ「病院に行きなさい」と言うだけでなく、仕事を気にせずに病院へと行ける状況をつくってくれるだけでも泣けてくるのに、カエリ鯛さんのことを「ひとりの社員」としてだけでなく「ひとりの(オタク仲間でもある)人間」として心配していることを伝える腐男子社長。こんな人としてできた社長がいる会社、オタクでなくても就職したくなります……。
この社長の行動と言葉によって、まともな思考を取り戻したカエリ鯛さん。その後、通院&転院を繰り返しながら、ようやく不調の原因が判明します。
すぐに完治とはいかないものの、原因と正しい治療法が分かり、視力と日常生活を取り戻すことができたカエリ鯛さん。この出来事をきっかけに、とある決意をするのですが……このオチが、これまた感動的なので、気になった方は、ぜひ単行本を手にとってみてください。
ここまで読んで「こんな完璧超人みたいな社長、マンガの中にしかいないよ……」と思っている人もいそうですが、『腐男子社長』は「実在の人物・エピソードを元にしたフィクション」なんですよ、驚くことに。
そんな「世の中、悪い人(上司)ばかりではないのかもしれない」と希望を抱かせてくれる『腐男子社長』。職場での(特に上司との)人間関係に悩むあまり、疑心暗鬼になってしまっている人がいたら、ぜひオススメしたいです。
会社員だって、みんな違ってみんないい
多様化が推進された『赤ちゃん本部長』の職場
続いてご紹介するのは「子育てはカラフル!」をテーマとしたウェブサイト『ベビモフ』にて絶賛連載中&働く人々を中心にSNSなどで話題となっている、竹内佐千子さんによる『赤ちゃん本部長』。
「この人、独身アラフォーなのに、育児マンガなんか読んでるの?(イタイなぁ〜)」と思われそうですが、この『赤ちゃん本部長』、単なる育児マンガとは言い切れない作品なのです。何せ“育児”ではなく“社内育児”がテーマですし。
ちなみに作品のあらすじは「株式会社モアイに勤める武田本部長47歳。ある日突然朝起きると、頭の中はそのままで身体が赤ん坊という状態に……。どうやら生後8ヵ月ぐらいの大きさらしい。坂井部長40歳、天野課長35歳、西浦平社員28歳の社内育児がスタートです!」というもの。
で、舞台となる株式会社モアイなのですが、多様化が推進されていることが伺える職場なんですよ。例えば本部長をサポートするメインキャラ3人のうち西浦くんは、同性のパートナーと娘のハルミちゃんと3人暮らしをしているという設定。でも彼のライフスタイルについて、あれこれ言う人は(少なくとも1巻に収録されている第9話までは)皆無。
さらに西浦くんは、その子育て経験を活かして外出や食事など、本部長の実質的なサポート係として活躍し、彼らが所属する営業一課になくてはならない存在となります。
この時点で「モアイ社、えぇ職場や……」となるのですが、さらにグッとくるのが、隣の部署の営業二課に所属する渡辺くんと本部長とのエピソード。
ある日、渡辺くんに屋上の緑化庭園にて遭遇する本部長。ちなみに春に休養を取っていた渡辺くんはこの日が復帰初日で、武田本部長が赤ちゃんになってしまったことを知りません。
いきなり目の前に赤ちゃんが現れ、オロオロしてしまう渡辺くん。そんな彼に対して「オロオロするのは 相手を不安に させるからやめろと 言っただろう」と心の中でつぶやき、困った表情をする本部長。
しかし事情を知らない渡辺くんは、赤ちゃん(本部長)が怯えているのだと勘違いし、不安を少しでも取り除こうと赤ちゃん(本部長)を抱っこし、語りかけはじめます。
復帰したものの、どうしても仕事ができず、屋上へと逃げてしまったことを赤ちゃん(本部長)に告白する渡辺くん。そんな自分の不甲斐なさに、つい涙もこぼしてしまう。
この後、本部長に「泣きたいときは 泣いたほうがいいぞ」と話しかけられ、驚きのあまり渡辺くんは失神。だいぶ時間が経ってから意識が戻った渡辺くんに対し、屋上でのやりとりの中で彼の長所を見抜いた本部長は、こんな言葉をかけるのです。
病気や怪我などをはじめ、様々な事情で長期間、職場から離れた経験がある人には分かってもらえると思うのですが、この“何かあったら周りに助けを求めていい”という言葉は、本当に心強くなれるし、気持ちが救われるマジック・ワードみたいなものなんですよね。
常に忙しかったり、人手が足りていない職場だと、実際に“助けて”とは言い出しづらい。でも、力になってくれる人がひとりでもいると分かっているだけで、勇気をもらえるような気がします。
と、モアイ社の職場環境を絶賛してきましたが、決して完璧というわけではないんですよね。何せ人格者のように思える本部長ですら、時々セクハラめいた発言をしたりもする(あと赤ちゃんになる前は「仕事では頼りになるが プライベートは なかなか手のかかる」存在だったとも言われている)。
あと働きやすい職場だからといって、誰もがプライベート面で100%幸せとは言い切れない状態だったりもする。例えば様々なガジェットを導入し、社内における本部長の仕事環境を改善する天野課長。独身主義を貫いている彼は、ゲーム実況の人気ユーチューバーという肩書きを社外では持っている。
趣味のゲームに没頭し、シングル・ライフを満喫しまくっているように見える課長ですが、親に孫の顔を見せられないことを後ろめたく感じているし……
渡辺くんと同じ営業二課に所属している高田さんは、どうしても赤ちゃんや子どもをかわいいと思えず、「私って 何か変なのかな…」と、ひとり悩んでいたりもする。
と、個々に悩みを抱えているとはいえ、お互いの生き方の“違い”を受け入れ&尊重した上で、ひとつのチームとして仕事をまわせる人員がそろったモアイ社は、やっぱり職場としては、かなり理想的だと思えるんですよね。
私のヘボい原稿では「イマイチ納得できん……」という方が多そうですが、そういった皆さま方には、8月1日AM11:59まで公開されている第16話「赤ちゃん本部長と橘部長!」を読んでいただきたいです。
ジェンダーのあり方や多様性について、みっちりと考えさえられる第16話を読むだけでも『赤ちゃん本部長』の魅力を、か〜なり感じられると思います。
あと、もし働き方や生き方について迷っていたり、居場所のなさや疎外感に悩んでいたり人がいたら、その方々にも、ぜひ一度『赤ちゃん本部長』を読んでもらいたかったりもします。
実在の人物がモデルとなっている『腐男子社長』と違って、ファンタジーに近い内容ですし、つかの間の気晴らしにしかならないかもしれない。でも『赤ちゃん本部長』は、第16話の中で課長が言うところの「つらいとき いつだって 助けてくれる存在」にもなりえる可能性を秘めたマンガではないかと、自分は強く感じていますから。
あれこれと書いてきましたが、結局は「社員が代替え可能な部品ではなく、人格を持った人間だと認めてくれる」とか「社員が心身ともに健やかな、人間らしい生活を送れるように考えてくれる」人(上司)がいるのが「働きやすい職場」なのかもしれないです。なんのひねりもなくて申し訳ないことに。
これは単に、自分が歳をとって身体のあちこちにガタがきているから、余計にそう感じるような気も若干しますが……。実際、若い頃は「身体に多少の負担がかかっても良いから、より面白い仕事をしたい」と考えていましたし。
何はともあれ「マンガだけでは欲望は満たしきれないかもしれないけど、マンガという心のよりどころがあるだけで、少しは救われることがあるかもよ」という、この連載のテーマにも触れられましたし、今月はここでおしまいです。
強烈なまでに暑い日々がまだまだ続くようですが、どうか皆さま、体調を崩さぬように気をつけてお過ごしください。そして西日本豪雨で被災された皆さま、一日でもはやく穏やかな日常が戻ることを祈っております。