少女漫画を盛り上げる名脇役!『あるいとう』の衣舞(いぶ)が可愛すぎる

『あるいとう』

突然ですが、僕は少女漫画と少年漫画の大きな違いのひとつに「主要キャラクターの数」が挙げられると考えています。

『ドラゴンボール』『キャプテン翼』『ONE PIECE』『NARUTO』『鬼滅の刃』など新旧問わず人気の少年漫画の多くには、主人公以外にも、特徴のある魅力的なキャラクターが何人も(作品によっては何十人も)登場します。

一方、少女漫画では恋愛をテーマにしたものが多いこともあり、主要キャラクターはヒロインとヒーローの2人とそれぞれのライバルや親友など総勢5~6人程度です。

しかも物語のメインとなるのはヒロインとヒーローの恋愛ですので、その他のキャラクターはあくまでもメインの恋愛物語を盛り上げるためのサブ的な存在となることが多いです。

少年漫画では主人公と仲間たちが同等程度の活躍をし人気を獲得しているのに対し、少女漫画の脇役はメインほど脚光を浴びることはほとんどありません。

しかし少女漫画の世界にも、主人公ほど深くまで描かれなくとも主人公に匹敵するほどの存在感を示す名脇役たちがたくさんいます。

今回は、そんな名脇役の中で僕が特に大好きなキャラクターを紹介させていただきます。

『あるいとう』(ななじ眺/集英社)1巻表紙

 

ななじ眺先生の『あるいとう』のヒロインであるくこの幼馴染の衣舞(いぶ)です。

『あるいとう』(ななじ眺/集英社)1巻79頁 衣舞の初登場シーンより

あるいとう』はななじ先生の他の作品のような王道のラブコメ漫画ではなく、ヒロインが重い悩みを抱えながら周囲の人たちとの関わりによって成長していく姿を描いた人間ドラマです。

作中でヒロインの恋愛も描かれてはいますが、恋愛がメインということではなく、恋愛や友情や親子愛などすべてひっくるめた“人間関係”をテーマに描かれています。

神戸を舞台にした作品で、実際に神戸の北野町の街並みや風景が描かれていることでも話題になりました。

震災で母親を亡くしたヒロインのくこは、強く明るくたくましく生きようといつも笑顔で元気に過ごしているのですが、そんなくこに対して「笑わんといて」、「笑っててほしい」、「無理して笑ってるのかっこいい」とバラバラなことを言う3人の男の子たちがいて、くこが彼らとの人間関係や自分自身に対していろいろな感情を抱き葛藤しながら成長していきます。

くこの成長物語自体も大好きで何度も読み返している作品なのですが、今回は本筋ではなく名脇役・衣舞について語らせてください。

 

①脇役なのにキャラ立ちまくり

衣舞はくこの幼馴染で少し闇を抱えてそうな見た目をしているのですが、どうやら高校には通っておらず、とはいえ引きこもっているわけではなく、正直言って日常生活の多くは謎に包まれています。

読者に与えられている情報としては、家に大量の少女漫画があり普段も鞄の中に少女漫画をたくさん入れて持ち歩いている、ということくらいです。

かなりミステリアスな存在です。

主要人物ではあるものの一応物語としては脇役なはずなのですが、かなりインパクトの強いキャラクターです。

ヒロイン像からはかけ離れていますが、キャラの強さだけで見るとヒロイン以上の存在感があります。

そして、一見暗そうなヴィジュアルですが、幼馴染たちの前では饒舌になり、時には毒を吐きながらもその中にワードセンスが光っており、衣舞のセリフ回しは読んでいてすごく心地よくて、毎回衣舞の発言からは目が離せません。

『あるいとう』(ななじ眺/集英社)5巻149頁 普段は脇役である衣舞をメインにしたスピンオフ読切『となりのイブ』より

②少女漫画あるあるが詰め込まれた「衣舞んせき」

少女漫画大好きな衣舞は、少女漫画の恋愛パターンから導き出した「衣舞んせき(いぶんせき)」という分析データによって、くこの恋愛を分析しアドバイスします。

この「衣舞んせき」には少女漫画あるあるがふんだんに詰め込まれており、「たしかに!」とめちゃくちゃ共感できるあるあるばかりで、少女漫画好きにはたまらない内容になっています。

また、ななじ眺先生の過去作品である『パフェちっく!』や『コイバナ!ー恋せよ花火ー』のストーリー展開パターンに『あるいとう』のくこの恋愛を重ねて衣舞が分析するというメタ的なネタになっている部分もあります。

『あるいとう』(ななじ眺/集英社)1巻80頁

(かなり高度なテクニックだと思い、感動しました…!)

『あるいとう』(ななじ眺/集英社)1巻124頁

実はこの「衣舞んせき」が読者に与える影響がかなり大きいのです。

作中のキャラである衣舞が本作の展開を先読みして考察するという特殊な構造によって、「衣舞がこう言ってるからこうはならないんじゃないか」と逆の予想をしたら衣舞んせき通りに展開したり、「ということは次も衣舞の言う通りになるのかな」と思ったら今度は裏切られたりと、衣舞んせきによって読者はミスリードを誘われてしまうのです。

今までいろんな少女漫画を読んできましたが、こんな手法は初めて見ました!

読んでいてとても楽しかったです。

(「衣舞んせき」というネーミングもめちゃくちゃ可愛い。)

 

③衣舞の恋愛

そんな衣舞ですが、分析だけではなく自分もちゃんと恋愛をしています。

衣舞が恋するのは、くこと共通の幼馴染のキヨという男の子なのですが、キヨは誰が見ても明らかにくこのことが好きなんです。

衣舞もそれをわかった上で、キヨに密かに想いを寄せているのです。

その恋愛模様がすごく切なくて、応援せずにはいられないんです。

本筋であるくこの成長物語には直接絡まないのでサブ的な恋愛ではありますが、僕はこの作品では本筋よりも衣舞の恋愛を応援しながら読んでいました。

くこの恋愛があまりストレートに描かれていないため、ストレートでわかりやすい衣舞の恋愛の方に感情移入して応援したという読者さんも多いのではないでしょうか。

ヒロイン並みに可愛く描かれている衣舞の胸キュンシーンも必見です!!

『あるいとう』(ななじ眺/集英社)5巻196頁

最後に

いかがでしたでしょうか。

僕の中でこの作品の評価は、衣舞がいるかいないかによって大きく変わってくると言っても過言ではありません。

それほど僕の中で衝撃的で大きな存在となった名脇役でした。

この作品をまったく知らなかったという方にも、衣舞の魅力と作品の魅力が少しでも伝わっていれば幸いです。

皆さんも少女漫画を読む際には、本筋とは関係の薄い脇役達の恋愛にも注目して読んでみてください。

主人公だけでなく脇役達に焦点を当てることで、作品の見え方が変わってきて、新たな楽しみ方を発見できるかもしれません。

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