男おいどん

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昔、といっても1990年代あたりまでは、おいどんみたいな学生ってけっこういたものです。大学時代の私の周りにもそんな人たちが集まっていました。無芸大食人畜無害。キノコが生えそうな湿度の高い部屋に住んでいたり、人がよくてすぐだまされたり、曲がったことが嫌いで馬鹿を見たり…。まったく同じではないですが、みんなおいどんの一部をもっていたんですよ。だからかもしれません。大学生のとき、初めて最終巻まで読んだあとは喪失感でいっぱいになりました。おいどんのことをもう他人とは思えなくなっていたんですね。劇中の下宿館のバーサンみたいにしんみりしてしまいました。今ではあのラストについてはこう思っています。おいどんも私の友人たちのように、進むべき道をみつけたからあんな行動に出たのだ、と。きっとどこかであのサルマタの怪人は元気に暮らしているのでしょう。でもやっぱり、何度読んでも古い写真を見返しているようで、少し寂しくなるのは変わらないんですけどね。

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男おいどん
永遠のモラトリアム
男おいどん 松本零士
名無し
私が今住んでいるアパートは、一説には東京オリンピックと同じ時期に建てられたともいわれる年代物です。当然、フローリングではなく畳敷き。床にビー玉を置くと、勝手に転がっていきます。  口さがない友人たちからは「男おいどんハウス」とか「どくだみ荘」など呼ばれ、端的に「女にもてなさそう部屋」とまで言われています。でも、「おいどんと一緒ならそれもいいかな」なんて思ってしまうのです。それに我が家は6畳なので、おいどんの四畳半よりは1.5倍マシなはずなのです。  『男おいどん』は、『宇宙海賊キャプテンハーロック』や『ガンフロンティア』といったフロンティア精神に溢れた男らしい男を書かせたら日本一の松本零士が、それらに先駆けて書いた、それはそれは、男らしさが空回りした青年の物語です。類似作品に『元祖大四畳半大物語』『聖凡人伝』『ワダチ』などがあります。  九州から上京した大山昇太は、大学を目指して、働きながら夜間の学校に通っています。トラブルを起こして勤め先をクビになり、当然ながら勉強をしている余裕はありません。けれど周囲にはたくさんの女性が登場し、なぜか昇太に優しくしますが、なにひとつ進展はありません。「おいどんには春がきたど!!」なんて言いますが、目当ての男性の気を引くために利用されただけだったり、元彼にかっさらわれていったり、結局はいつもの四畳半で一人涙に暮れながら寝ることになるのです。  おいどんのセリフはいちいちたまりません。松本零士作品は名台詞の宝庫ですが、『男おいどん』も、どのページをみても名台詞だらけです。 「でもねー あいつらはみんな将来への軌道にのってちゃんとやっとるんよねー」「なんだくそっ おいどんは先が長いんだど くそ おのれくそ」「てめーら ろくな死に方はせんのど というてみてもすききらいは女のほうのみかたしだい こりゃだれをもうらめんねー」  何者でもないというコンプレックスと、結局何者にもなれないんだという諦観が合わさったおいどんは、“前向きだけど後ろ向き”という不思議なキャラクター性をもっています。未来も女性も、決して手に入らないとわかりながらも、求め続けるその姿に、同じような家に住んでいる私は感情移入してしまうのです。  永遠のモラトリアムを過ごしたおいどんは、最後にどうなってしまったのか、それはみなさんに読んでいただければと思います。
ホントは出汁たい山車さん
温かいお出汁と愛情と #1巻応援
ホントは出汁たい山車さん
兎来栄寿
兎来栄寿
『ちいかわ』で出汁編が繰り広げられているいる今日この頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか。 出汁、良いですよね。 普段は昆布や鰹節から取るような手間暇はなかなかかけられないですが、たまに旨味たっぷりの出汁を取って美味しくいただく贅沢はたまりません。イノシン酸とグルタミン酸が生み出す旨味は脳と体に刻み込まれています。 『だもんで豊橋が好きって言っとるじゃん!』や『森田さんは無口』の佐野妙さんが描くこの作品は、営業2課の佐藤類(さとうるい)と経理部の山車香織(やまぐるまかおり)のふたりを中心にした、冒頭からハッピーエンドがカットバックして始まるほんわか社内ラブコメ×出汁グルメマンガです。 会社内でも出汁を引くほどさまざまな出汁に精通している山車さんから、奥深くありながらも以外と簡単に楽しむことができる出汁のいろはを伝導されていく類。 基本の鰹節や昆布から始まり、コハク酸たっぷりのアサリやグアニル酸がたっぷりながら類が苦手な干し椎茸などさまざまな種類の出汁の産地やそれらを用いた美味しいレシピなどの蘊蓄を読みながら楽しく類と一緒に学んでいけます。 出汁というと手間暇がかかるイメージが強いと思いますが、忙しい日常でも意外と手軽にできるもの(カップ麺にひとかけらの真昆布を入れるなど)も紹介されており、自分でも実践したくなります。ハンバーグにとろろ昆布を入れるのも美味しそうです。 そして、この作品はラブコメとしてもとても上質。会社ではクールで少し怖いイメージすらあった香織が、出汁のことになると饒舌になり柔らかく温かい雰囲気を出しながら美味しい料理を提供してくれるギャップ。四字熟語を多用する黒髪セミロングストレートヒロインを私が好きでないはずはありません。類も類で、素直で明るく真面目で少しヘタレな性格が好感を持てる主人公で、彼らをはよくっつかんかい! とばかりに煽り立てるサブキャラクターたちに同調しながら応援したくなるナイスカップルです。 優しく穏やかなふたりが、少しずつ少しずつ距離を縮めていくこの感じ。社会人の恋愛としては非常に純朴なやり取りが、まさに滋養に満ちた温かい出汁をいただいているときのようなほっと安心する満足感を得られます。たまにはこういう澄んだものをいただきたい……そんな気持ちが充足します。 出汁に詳しくなりたい方、穏やかな大人の恋愛物語を楽しみたい方におすすめです。
ミカコときょーちゃん
ラブストーリーが突然に #1巻応援
ミカコときょーちゃん
兎来栄寿
兎来栄寿
映画化もされた『殺さない彼と死なない彼女』の世紀末さんが、新たに描く男女のお話です。 最初は、ひたすらゆるいカップルがいちゃいちゃしている4コマなのかな? と思いました。お互いに相手のことを無限に「かわいい」「かっこいい」と言い合う、仲睦まじいきょーちゃんとミカコさん。日常の些細なことを楽しんだり、煩わしく思うことも世界でたったひとりの相手がいれば何でもなくなってしまったり。 代え難い、ただひとりの相手。ずっと一緒にいたいと思える相手。でも、そんな最愛の人がある日突然世界からいなくなってしまったら。 誰しもいつ何が起こるかわからないものだとわかってはいても、実際にそういうことが起きてしまった時には人はどうしようもなくなります。受け入れるのにどうしたって時間はかかるし、一生受け入れられないままかもしれません。 どこにでもありふれたふたりのカップルのやり取りは、ひとつの出来事を境にまったく意味を変え見え方を変えてしまいます。ただ、少なくとも心から自分の幸せと笑顔を願ってくれた相手と他愛もない時間を過ごすことができたという事実は永遠に残ります。 どうでもいいようなこと、明日には忘れているようなことのひとつひとつの欠片が何よりも貴くてかけがけのないものであるということを、改めて示してくれているようです。 今なら当たり前にできることが、いつか当たり前にできなくなってしまう。当たり前ではなくなってしまう。そうなる前に今できることをひとつひとつ大事にして、何でもないことを大切にして生きていきたいと思わせられる物語でした。
波うららかに、めおと日和
とってもキュンキュンな戦前ラブコメ
波うららかに、めおと日和
ゆゆゆ
ゆゆゆ
タイトルで戦前と書きましたが、応仁の乱以前の話ではありません。日中戦争間近の横須賀が舞台です。 むっつり無愛想な瀧昌と、日常生活以上のことを知らないおっとりとした女の子のなつ美。 ロシアとの戦争が終わったあと、中国と戦争をはじめるちょっと前。そんな時代に海軍で下士官をつとめる瀧昌と見合い結婚をしたなつ美。 冒頭で写真だけの結婚式を上げたから、瀧昌は亡くなっているんじゃと少しだけハラハラした。杞憂だった。 二人の初々しい新婚生活に、読んでいてニコニコしてしまう。 なお、軍なので新婚さんでも夫が家にいないこともしばし。 家で待つ間のなつ美の心の揺れ動き(主に瀧昌に対する心配と惚気)と、再会した際の二人のやりとりにほんわかしてしまう。 もちろんファンタジーではないので魔法も異能も出てこない。 さらに、舞台となる時代を考えると暗い未来しか見えないのだけど、今の彼らが素敵すぎでおもわず読み進めてしまう。 ぴゅあぴゅあでキュンキュン。読み終えると、とても良き…とジーンとなれる。 ハッピーエンドじゃなきゃやだよと駄々こねたくなるほど、ステキなラブコメ。
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