あらすじ

おいどんがひそかに思いをよせる西尾さんが突如故郷(くに)に帰ってしまった。彼女が縫ってくれたサルマタの布団に彼は涙するも、今は何もできず惰眠をむさぼるしかない。バイトをしては失敗をする彼は、何度もバイト先を移らざるをえない。そんな生活の中で次々に新たな人間関係に巻き込まれる。喜びと落胆が交互に押し寄せる生活の中で彼は四畳半の守り神を信じ、ひたすら寝るのだった……。
男おいどん(1)

九州男児「おいどん」こと大山昇太は四畳半に住んでいる。押し入れにはパンツが山と積まれ、サルマタケという奇妙なキノコが生える始末。だが彼の極貧生活においてはこのキノコさえも貴重な食料である。昼間に工場でバイトし、夜間高校に通う彼だが失敗がもとでクビ、中退、失恋と次々に試練が重なる。そんな折、向かい部屋に西尾令子が来た。思いやりのある彼女に魅かれていくおいどんだが……。

男おいどん(2)

おいどんがひそかに思いをよせる西尾さんが突如故郷(くに)に帰ってしまった。彼女が縫ってくれたサルマタの布団に彼は涙するも、今は何もできず惰眠をむさぼるしかない。バイトをしては失敗をする彼は、何度もバイト先を移らざるをえない。そんな生活の中で次々に新たな人間関係に巻き込まれる。喜びと落胆が交互に押し寄せる生活の中で彼は四畳半の守り神を信じ、ひたすら寝るのだった……。

男おいどん(3)

春、新たなる門出の季節。しかし“おいどん”大山昇太は夜間高校への復学すらままならない。下宿館の同居人たちが催す合格パーティーを尻目に、一心不乱にバイトに励むおいどん。今はダメでも来年がある来年がなきゃ、さ来年がある!!何度となく失恋をくりかえしてきたおいどんの前に、一寸変わった少女が現れた。スケ番の京子、向かいの部屋に住む川口さんの妹だ。姉妹ゲンカの仲裁をきっかけに、2人の距離が急接近していくのだが……。

男おいどん(4)

おいどんに優しかったスケ番の京子が死んだ。集団乱闘の末の事故だった。こんな辛い形で別れが訪れるなんて!形見となってしまった京子のカサを眺めつつ、おいどんは大四畳半に籠り哀しみの涙を流す。別れと同じ数だけ出逢いもある。下宿館も新たな入居者を迎えたが、今までの同居人とは一寸違った人ばかり。コワ~イ緒方に男勝りの林さん。そして薬屋の娘・岡田螢子。おいどんに劣らぬ個性的な仲間の登場で、大四畳半は大賑わいだ!!

男おいどん(5)

相変わらずバイトに明け暮れ無為の日々を送るおいどん。様々な仕事につき、色々な人に出会い、クビになる毎日のくり返し……。下宿館の同居人や故郷の級友たちの頑張っている姿を横目に見るおいどんの焦りは募るばかり。そんなおいどんだが、ついに念願の夜間高校への復学を果たした。春、サクラの花開く季節。周りの人とくらべてほんの少し遅れはとったけど、大四畳半は、いつでもお前を見守っているぞ!

男おいどん(6)

ある夏の日の午後、おいどんは突然姿を消してしまった。しかし下宿館のバーサンは主なき大四畳半に残された“守り神”を見て安心する。大丈夫!おいどんはこの大四畳半に必ず帰って来る……!その時が来るまで、男おいどん大山昇太とはしばしお別れである。巻末に『おいどんの地球』を初め、おいどんの原点を描いた珠玉の短編『元祖・男おいどん』『聖サルマタ伝』『幻想サスペンス』『螢の泣く島』を収録。

男おいどん

永遠のモラトリアム

男おいどん 松本零士
名無し

私が今住んでいるアパートは、一説には東京オリンピックと同じ時期に建てられたともいわれる年代物です。当然、フローリングではなく畳敷き。床にビー玉を置くと、勝手に転がっていきます。  口さがない友人たちからは「男おいどんハウス」とか「どくだみ荘」など呼ばれ、端的に「女にもてなさそう部屋」とまで言われています。でも、「おいどんと一緒ならそれもいいかな」なんて思ってしまうのです。それに我が家は6畳なので、おいどんの四畳半よりは1.5倍マシなはずなのです。  『男おいどん』は、『宇宙海賊キャプテンハーロック』や『ガンフロンティア』といったフロンティア精神に溢れた男らしい男を書かせたら日本一の松本零士が、それらに先駆けて書いた、それはそれは、男らしさが空回りした青年の物語です。類似作品に『元祖大四畳半大物語』『聖凡人伝』『ワダチ』などがあります。  九州から上京した大山昇太は、大学を目指して、働きながら夜間の学校に通っています。トラブルを起こして勤め先をクビになり、当然ながら勉強をしている余裕はありません。けれど周囲にはたくさんの女性が登場し、なぜか昇太に優しくしますが、なにひとつ進展はありません。「おいどんには春がきたど!!」なんて言いますが、目当ての男性の気を引くために利用されただけだったり、元彼にかっさらわれていったり、結局はいつもの四畳半で一人涙に暮れながら寝ることになるのです。  おいどんのセリフはいちいちたまりません。松本零士作品は名台詞の宝庫ですが、『男おいどん』も、どのページをみても名台詞だらけです。 「でもねー あいつらはみんな将来への軌道にのってちゃんとやっとるんよねー」「なんだくそっ おいどんは先が長いんだど くそ おのれくそ」「てめーら ろくな死に方はせんのど というてみてもすききらいは女のほうのみかたしだい こりゃだれをもうらめんねー」  何者でもないというコンプレックスと、結局何者にもなれないんだという諦観が合わさったおいどんは、“前向きだけど後ろ向き”という不思議なキャラクター性をもっています。未来も女性も、決して手に入らないとわかりながらも、求め続けるその姿に、同じような家に住んでいる私は感情移入してしまうのです。  永遠のモラトリアムを過ごしたおいどんは、最後にどうなってしまったのか、それはみなさんに読んでいただければと思います。