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巨匠中の巨匠ちばてつやの、その名を誰もが知る代表作を、今さら薦めるのもどうかと思いますが、でも、この『あしたのジョー』に続いて描かれた大作は、やはり、少年漫画史上に残る名作として、一度ちゃんと挙げておかないといけないでしょう。
(『鉄兵』にも『のたり松太郎』にもクチコミがないなんて、許せん!)
なんつっても『おれは鉄兵』は、物語構成がかなり分裂症的というか、メチャクチャでものすごいんですよ。
オープニングは、鉄兵という自然児=アウトローのキャラ物なのですが(『ハリスの旋風』の国松から覇気や侠気を抜いた感じ…って、そのキャラ設定も凄いな)、途中から「学園剣道漫画」になります(この部分が一般的な「鉄兵」感でしょう)。そして、最後はなぜか「埋蔵金発掘遭難漫画」になって大団円。
こう書くと、かなり支離滅裂な感じですが、ちばてつやのなにが凄いって、このガクガクした筋立てにも関わらず、ずーっと、やたらめったら「面白い」ことです!
鉄兵が受験するところとか、学生寮の点景描写とか、洞窟内のあれこれとか、今も心に残る名シーンだらけ(ここで例にあげたのは全部、ストーリーのいわゆる本筋と関係ないところです。本筋部分も当然名シーンがギュウ詰め)。
要するに「漫画が上手い」と、一言で言えばそうなんでしょうが、それにしても、上手いにもほどがあるでしょう。
読み始めたら止まらない。
読んでいる間、ずっと幸せです。
昔の少年誌で長く続いた連載作は、途中から物語がズレていってしまうものが結構ありますが(有名な例だと初めは柔道物だった『ドカベン』とか、笑いの要素が霧散した『熱笑!! 花沢高校』とか、赤塚賞取ったギャグだった『キン肉マン』とか、学園格闘物が突如ロックバンド漫画になる『コータローまかりとおる!』とか)、『鉄兵』は、そういう「行き当たりばったり」だけど無類に面白い漫画、の代表だと思うのです。
作品のテーマとか、よく練られたストーリー展開なんて二の次だ、とにかく面白い漫画を描くんだ!…っていうのもまた、「少年漫画の素晴らしさ」だと痛感させられる、問答無用の名作です。