かしこ
かしこ
2021/11/05
卯月妙子さんの最新作
「人間仮免中」以前の卯月妙子さんが20代の頃のお話です。2003年から連載が企画されて1話目は掲載されたものの、その後は「ネームを描く→症状悪化→入院」を繰り返して断筆されていたものが、2021年に完成、めでたく出版!!という経緯があるそうです。個人的には3つの章に分けられて、それぞれの面白さがあると思っています。まずは旦那さんの自殺がきっかけで最初の病院に入院するところ、次に警察に保護してもらって入院した別の病院で他の患者さんと交流するところ、そして退院後にそれまでの出来事を漫画にするまで、です。 最初のエピソードを読んで「自分には合わないかも…」と敬遠してしまった人も、卯月さんの目線で語られる他の患者さんの話がすっごく面白いので、絶対に最後まで読むことをオススメします。酔っ払って警察を殴っちゃった人が精神的に異常はないけど捕まるよりいいだろうって入院させられてきたりとか、そんなこともあるんだ!?って驚くことが明るく楽しく描かれています。なかなか漫画が描けなくて苦心するクライマックスでは、漫画というものの核心に触れるような深い話がありました。とにかく濃密な一冊です!!
かしこ
かしこ
2021/11/03
るきさんの生き方
こないだ「自分はるきさんの性格に似てるってよく言われるけど全く嬉しくない」という人に出会ったんですが、私はるきさんという作品の魅力はあの生き方にあるし、読んだ人は全員憧れるものだろうと思っていたので衝撃でした!その人曰くああいう地に足がついてない生き方は好きじゃない、自分はどちらかと言えばエッちゃんタイプの人間だと思うとも言っていました。もしかしたら嫌いな人にそんなことを言われたから悪印象になってしまったのかもしれないなぁ…と思いつつ、よくよく考えたらあれってバブルの終わり頃の漫画だから今と感覚が違うところも結構ありますね。るきさんは在宅で病院の保険の計算の仕事をしていてるけど、計算が得意だから1ヶ月分を1週間で終わらせて、あとはのんびり暮らしてる。でも今それを東京で一人暮らしで出来るかって言ったら出来ないもんな(それが出来るのはエッちゃんタイプの人な気がする…)。その人はそういうことを言ってるのかもしれない。でも私は自転車に乗りながらおせんべいをかじったり、突然イタリアに飛んでっちゃうようなるきさんにやっぱり憧れる。地に足がついてない方が自分でも予想がつかないことが起きて、より人生が楽しくなるってことがあると思うから。
かしこ
かしこ
2021/10/23
読めばハイになれる
今まですぎむらしんいち作品をちゃんと読んだことなかったので、まずは短編集から!と思って読んでみました。めっっっっったくそ面白いですね!!!!今日はこれを読むまでイマイチな一日だったのですが、おかげさまで超元気になりました。あらすじにも「気持ちよくなるのに、ヤボなドラッグなんていらねぇ!」とありますが本当に効きますね(笑)。悪寒がしたら葛根湯の代わりにこれを読めば風邪をひかないんじゃないかな? どの短編も面白かったけど「小林君」「少女カメラ」「パパが地球人を辞めた日」が特に好きでした。「小林君」は今までクラスで一度もしゃべったことない小林君が転校するからと言って宝の地図をくれる話なんだけど、子供が上手く描けてる漫画は自分も子供になった気持ちで読めるんだなぁって思いました。「少女カメラ」も子供の話だけど、最後に女の子がその日に撮った写真がズラッと出てくる演出がかっこよくてシビれた…!「パパが地球人を辞めた日」はただただ爆笑です。もしかしたらこれが一番好きかもしれない。 「タクシードライバー」は映画をそのまま現代日本風にオマージュ?していて、なんか読んでて目からウロコって感じだった。令和になってから見なくなったけど漫画に出てくる元日本軍のじいちゃんって面白いですよね。そんなじいちゃんから上京する時に護身用にもらうことでピストルを手に入れるってのは、これぞ日本版「タクシードライバー」の正解だと思いました。 巻末に「RANGAI★バラエティbyけらえいこ先生」と書いてあるけど、これは「BUN BUN BUN」の欄外にあるイラストエッセイのことなのだろうか。言われてみるとけらえいこ先生のタッチな気がする…。意外な交友関係だ。
かしこ
かしこ
2021/10/06
メンツが豪華すぎるしエピソードはどれも珠玉!!
生い立ち〜ホラー漫画家になるまでの道のりをインタビューして漫画化したものです。本人が描いた自伝ではありませんが、宮崎克の取材力とあだちつよしの漫画力によって本人が描くよりも読み応えのある伝記物になっています! 以下、ひとこと感想メモです。 【1巻】 古賀新一…手塚治虫も登場するし本家マンガ道と同じくらいウルッとしました。 日野日出志…何を思いながら「蔵六の奇病」を描いたかの話が読めてよかった。 伊藤潤二…漫画家になる前は歯科技工士だったことも、デビュー作が「富江」だったことも知らなかった! 犬木加奈子…普通の主婦がホラー漫画の女王と呼ばれるまでになったのは文字通り人生をかけてたからだったんだなぁ…。 【2巻】 御茶漬海苔…編集長に言われた一言が衝撃的すぎる。今だったら大問題になってると思う。 諸星大二郎…本人のインタビューもあるけど諸星大二郎だけ編集者の証言で構成されてる部分が多いので、インタビューでも寡黙だったんだろうなって思った(笑) 外薗昌也…霊感があることも含めてホラー漫画家のイメージそのままの人だと思った。 近藤ようこ…高橋留美子と同級生なことは有名だけど、本人から語られる話を読んだことがなかったのでとても貴重だった。今も交流があるんだなぁ。
かしこ
かしこ
2021/10/02
ネタバレ
瞬間的には傑作だった
去年、ある人に「ステイホーム中にあしたのジョーを読みました」と話したら「3大ボクシング漫画はあしたのジョーとがんばれ元気と僕 BOKUだ」と言われて、1年間すっかり忘れてたんですが急に思い出したので読んでみました。 平凡を絵に描いたような高校生の鈴木ひろしは普通であることがコンプレックスでしたが、同級生の訳あり美人との出会いがきっかけでボクシングを始めます。こうして今まで普通の生活をしていたからこそ気づかなかった才能が活かされていくのですが、その1つが「躊躇なく人を殴れる」だったりします。ただボクシングの試合でこれが出来なければ負けてしまうので実は重要なことでもあるのです。 訳あり美人や最強のライバルとの関係が中途半端で終わってしまったので消化不良がハンパないですが、主人公の「いじめられっ子だったとか、不幸な生い立ちだとか、そんなバックボーンに頼ってる野郎なんかたいしたことねぇ。本当に怖いのは普通なのに闘うと強い人間だ。」とか「リングじゃ他人に気を遣う必要なんてない!!いい奴に思われたいなんてそんなのはボクサーじゃない!!憎くもない人間を殴り倒す…サイテーの奴がサイコーの世界だ!!僕が主役だ!!」というセリフにはグッときた。瞬間的に傑作になっているシーンは多々ある。 もっといいラストはあったと思うけどあれはあれでいいと思います。バッドにもグッドにも解釈できるラストなんじゃないでしょうか。ただ3大ボクシング漫画の1つにこれを選ぶのは「普通じゃない」ですね。今度会ったら理由を聞いてみます。